代案
「ちなみに、ハネナガ君に炎華と一緒に飛んでいって貰って、犯人を見つけたらそいつの家まで追いかけて、翌日そこに我々を案内して貰うのって可能かな?」
自転車でもレンタルするかと言う私の提案に、碧が暫し考えてから別の案を挙げてきた。
確かに?
猫なクルミと違ってハネナガも鳥の霊なだけあってか夜中に周囲の様子を見て取るのは多少苦手そうだけど、ターゲットの人間がはっきりしていてそいつを追い掛けるのだけだったら出来る筈。
翌日になって明るくなってから周囲の建物とか看板を元に場所を割り出して犯人の家に行くのは可能な筈。
「炎華ってハネナガと意思疎通出来たっけ?」
白龍さまがクルミと意思疎通出来るから、多分大丈夫だと思うけど。
『勿論〜。
カラスの霊と飛んでいく方がゆっくり道沿いに進むより楽だし、碧さんの案が一番だと思います〜』
ふよふよと宙に浮かびながら炎華が言った。
私らの身体能力に合わせてゆっくり道路沿いに飛ぶのって実はストレスだったのかな?
まあ、鳥にとって道路沿いに進まなきゃいけないって面倒だよね。
車じゃ無いから一方通行を気にしなくて済むのだけはまだマシだろうけど、人の家や庭を突っ切れないのは鳥にしてみればアホらしい制限なんだろう。
「よし、じゃあ家に帰ったら一度ハネナガを呼び出して事前にお願いする事を知らせておいて、また放火されたら捕まえるようにしようか。
取り敢えず、今日はもう帰ろう」
汗が冷えてきて、寒い!!
「タクシーでも捕まえる?」
碧がちょっとうんざりした様に周囲を見回した。
「こんな何も無いところでタクシーを捕まえたらちょっと怪しいし、何よりもタクシーも通り掛からないでしょう。
それよりも、身体強化を練習しながら走って帰ろうよ」
コツさえ体が覚えてくれれば、難しく無い筈。
一応前世では一通り習ったんだし。
「身体強化?」
碧が聞き返す。
「魔力を強化に使う感じで体に流すと、力や耐久力が上がるんだよね。
ちゃんと慣れてれば30分間走り続けるのも魔力が持てば全然無理じゃ無い筈」
前世では軍人たちと一緒に食料品や水の入った鞄を背負って一時間ぐらい走らされた事もあった。
まあ、攻撃魔術が使えない私の場合は単なる訓練ってだけで、最初に使い方を叩き込まれた後は年に一度のテストで想定時間内に目的地まで辿り着ければそれで終わりだったけど。
攻撃魔術が使える王宮魔術師の中には実際にアホな隣国の兵とか、どこぞの山賊とかを追い回して殲滅する為に実地で走りながら戦う羽目になったのも居たなぁ。
「身体強化ねぇ。
車がある今の世で、そんなのを使って走らなきゃいけなくなるとは思わなかった……」
碧がため息を吐きながら言った。
「まあ、白龍さまが居る限り多分大丈夫だろうけど、白龍さまが里帰りしている間に誘拐されそうになった場合なんかに走って逃げる羽目になるかもなんだし、練習しておいて損はないんじゃない?」
どちらにせよマンションまで帰らなきゃならないんだし。
「はいはい。
魔力で走る為に体を強化、ねぇ。
単に流すだけで良いのかな?」
碧が尋ねた。
「そう。強化出来る!って信じながら魔力を流せばそれで上手く行くと思うんだけど」
私が実際そうだったし。
もしかして論理的にやっている流れを説明しろなんて言われたらちょっと厳しいぞ。
「あ〜。
長時間走るのに使うと言う考えは無かったわ〜。
そっか、力を強く出来るなら、早くとか長く走れる様にも出来る筈なのね」
碧がちょっと納得した様に頷いた。
学校とかの持久走なんかで使おうと思わなかったんかね?
まあ、私も考えてみたらやってなかったけど。
学校の体育の持久走は苦しさの共有感もそれなりに友情の為に必要だったからね〜。
取り敢えず。
身体強化で走ろう!
汗だくなままで歩いたら風邪をひきそうだ。