時間との争い
「え、私たちを狙って五人もハニトラ要員を配置していたんですか?!」
猫カフェ事件の翌日、退魔協会へ事情聴取されに行った私たちに形式的な聞き取りを終えた後に田端氏があの後に逮捕できた人員のことを教えてくれた。
「ええ。
藤山さんは回復の才能がある上に幻獣と契約しているからと言う事で、是非とも勧誘したいとあちらの上が言っていたそうですよ。
だから何としてでも出会うために、色んな店に人を仕込んで居たんです。
一人はなんと大学構内の生協で日本人として働いていたんですから、中々あちらのリソースは怖いですね」
田端氏が教えてくれた。
うわぁ。
大学構内の生協なんて、そこらのコンビニとかファミレスとかとは違ってそれなりに雇う人間を厳選してそうなのに、あっさり滑り込めるんだぁ……。
まあ、大学の教員とか事務員に紛れ込んで無かっただけ、まだマシかな。
「ちなみにあの猫カフェは何か繋がりがあったんですか?」
碧が尋ねた。
碧もあそこが気に入ったみたいだね。
まあ、ウチのそばだったら青木氏の不動産屋にある猫コーナーが一番だと思うけど、大学近辺で時間を潰す必要が出来た時に猫カフェは悪くないよね。
源之助は他の猫の匂いを付けて帰ってもあまり『浮気したの?!』と責めてこないし。
「あそこは碧さんが猫好きと知って選んだだけとの事でした」
田端氏が答える。
良かった。
「そう言えば、全国でトータル何人ぐらい捕まりそうなんですか?」
ある意味、大量に捕まり過ぎたらその人達をどうするか、政治家が頭を抱えそう。
人数が多過ぎたらあっちでいちゃもんみたいな理由で逮捕された日本人と交換するのにもバランスが取れないよね。
それとも日本用のスパイ要員を数年間刑務所で拘束できるだけでもラッキーって事になるのかな?
「まだ総数は分からないが、五十人を超えるかも?
彼らは同じ地域で活動している仲間の事は知っているけど他の地域に派遣された者は知らないので、何ヶ所かの大学に通っている退魔師に関してはエージェントが居るのか居ないのか、まだ確認している最中なんで総数は確定していないんですよ。
空港でどの位捕まるかもこれからだろうし」
なるほど。
スパイ小説にあるようにセル化しているから情報共有は限られているけど、流石に同じ地域で同じターゲットを狙う際にはうっかり仲間の邪魔をしない様に誰が居るのかは知らされていたのか。
「ちなみに、退魔協会からはどんな情報が抜かれたのかって分かりました?
どの大学に通っているかの情報がどこから出たのか次第では、同名同姓な人が間違ってハニトラに引っかかって連れ去られる可能性があるんですよね?」
碧が指摘した。
そっか、大学情報が退魔協会からじゃ無かった場合、同姓同名で今大学に通っている人がどこかにいたら、誤認されてターゲットにされているのに国が調べていない可能性があるのか。
まあ、ハニトラ要員が嘘をつけなくなったら色々と破綻しそうな気もするけど。
とは言え、本当に上手な嘘つきって真実を散りばめて嘘をつくっていうからなぁ。
口が上手い人だったら完全な嘘をつかずにハニトラに引っ掛けられるかも?
何故か嘘を使えなくなくなったのに気付いたら、ビビって慌てて逃げるなり隠れるなりしそうだけど。
本国側の人も嘘が吐けなくなっていたら、あちらで色々と混乱が生じて引き上げ命令が遅れるかも?
「そこら辺の情報は日本国内にいる人員は知らされていなかった様ですね。
まだ完全に尋問が終わった訳ではないので確定はしていませんが、情報源に関しては極力教えられていなかった様なので、どこからどんな情報が漏れたかはまだ分かっていません」
田端氏がちょっと残念そうに言った。
そっかぁ、情報源のことなんかは現場の人間に知らせないのか。
「それこそ、本国側で動いているんだったらそういう部署に誰か日本のエージェントが近付けたら色々と質問をして情報をごっそり集められそうですねぇ。
『関係者全般』だから、大元の情報を盗んだ人間も天罰の対象になっている可能性は高そうですし」
まあ、嘘をつけないってバレたら実働部隊的な下っ端は全員監禁とか、共同労働所にでも押し込められるとかになりそうな気もしないでもないけど。
少なくとも一般人と普通に会話できる状態で放置されはしなそう。そういう点、人権が保障されていない国だと思い切った対処法が可能そうで怖いね。
「ふむ。
どこまで天罰の影響が出てるか、確定して利用するのはあちらとこちらの競走になるかもですね。
では、今日はご協力ありがとうございました」
にっこり笑いながら田端氏が部屋を早足で出ていった。
警察じゃああっちの本土に人を派遣できないだろうから、日本版CIAとかMI6的な部署に連絡するのかな?
これでこの一連の騒動は終わりですね。
明日はお休みしますが、また明後日から宜しくお願いしま〜す!