関係者全般
「ええ、猫好きに悪い人は居ないと思って猫カフェへ一緒に来たんですが、どうもそれなりに危険な薬を盛ろうとしたのか私へ飲み物を渡した瞬間に白龍さまの天罰が降ったようで。
良かったらこの人物と、使われた薬が入っていると思われるドリンクを回収してくれませんか?」
私が碧に合流しようと碧の座っている席の横に来たら、碧は丁度電話をしているところだった。
田端氏かな?
猫好きに悪い人はいないって。
なんかちょっと苦しい言い訳だぞ?
でもまあ、遠藤氏に警告されたのに怪しい人間とお茶に行ったなんて文句を言われそうだもんね。
もしくは『いいぞ、もっとやれ』的に囮になる協力を求められるか。
まあ、白龍さまの怒りを考えたら、碧が自分からやると言い出さない限り囮をやれとは頼まないかな?
退魔協会も碧に対して色々やらかしてるからねぇ。
警察も警察内部の人間ならまだしも、一般市民に囮を頼むなんてあまりやらなそうだし。
壁に背中を預けて眠っているハニトラ男に目をやる。
「そう言えば、天罰を受けた瞬間にクルミが弾き飛ばされた感じがしたけど、見た目はどんな感じだったの?」
天罰って言うと雷が落ちる様なイメージがあるけど、流石に室内で雷が落ちたら目立ちすぎるし、今回は1年間嘘をつけないって言う天罰を選んだんだから雷が当たるなんて言う副作用は無いと思うけど。
「何かこう、一瞬びっくりした様な感じで動きが止まったから、その隙に薬入りドリンクを溢されないようにコップをさっと受け取って、そのまま昏睡状態にさせて後ろの壁に寄りかからせたの。
座る前にコップを渡してきたせいで上手い具合に座らせるのにちょっと苦労したわ」
碧が教えてくれた。
へぇぇ、ちょっと動きが止まる程度なんだ。
さて。
こいつの記憶を読んで何か危険な事を企んでいないか確認しておくべきかなぁ。
ハニトラ男を見つめて考えていると、碧は私に手に触れて、首を横に振った。
「下手にこう言う人間の記憶なんて読んで要らない知識を増やさない方がいいと思うよ?
折角白龍さまがこいつが嘘をつけないように天罰を下してくれたんだから、尋問とかやばい情報収集は専門家に任せれば良いよ」
まあ、確かにねぇ。
変に色んな事を知っちゃって、悪を懲らしめる的に動き回る義務的なものを感じて動く羽目になると、どれだけ上手く動いたつもりでもヤバい連中の注意を引いちゃいそうだよね。
『本当の意味で嘘を伝える事を禁じたので、誤解を招く回答や沈黙する事も出来ぬ。
記憶を読まなくてもちゃんと必要な情報をこちらの当局側の人間が入手出来るだろう』
白龍さまがそっと影に現れて教えてくれた。
流石、白龍さま。
回答拒否も出来なくなるなんて、凄いね。
それこそマジで答えたく無かったら舌を噛むぐらいの事をしなくちゃならないだろうけど、そこまで根性があるようなハニトラ要員は多分居ないだろう。
なら。
薄汚い記憶を読む必要は無いね!
ちょっと嬉しくなり、店員さんのところに行って利用料を払うとともに自分と碧用にオレンジジュースを受け取って来た。
うっかり間違ってヤバい薬が入ったジンジャーエールを飲んじゃったら困るからね。
それ程待たずに田端氏が遠藤氏と共に現れた。
おや。
遠藤氏は別に要らなかったんだけど。
「危険ですと言いましたのに」
遠藤氏がちょっと困ったような顔で言う。
「猫好きな人に悪人は居ないと思ったんですけど、猫が好きなフリをする悪人は居るようですねぇ。
ちなみに、白龍さまの天罰で一年ほど嘘をつけないらしいですから、今のうちにガンガン色々と聞いたらいいと思います」
碧がしれっと答えた。
「あ、本人だけでなく関係者全般にもそれなりに天罰が届いた可能性が高いので、ハニトラ要員疑惑がある連中全員に違法行為をやっていないか、もしくはやる計画を立てていないか聞いたら良いかも知れませんね」
薬を盛る計画を自白したらそれだって違法行為だよね?
「ついでに空港で出国検査の際に、違法行為をした、もしくはする人間の手伝いをしたかも尋ねたら思いがけない悪人の逮捕に繋がるかも?」
碧が付け足す。
変な感じにハニトラ要員がどんどん逮捕されたら残りのスパイネットワークの人間も出国しようとするかもだよね。
まあ逃げようとして空港で何人か捕まったら、出国を諦めて潜伏に方向転換するかもだけど。
「……関係者全般への天罰ですか。
素晴らしいですね」
田端氏がにっこりと大きく微笑み、携帯を取り出した。
退魔協会の連中が碧に対するお見合い未満セクハラ接待で関係者全般が天罰を喰らったのを見ていたのか、影響の大きさを疑っていないようだ。