学歴は不要?
取り敢えず、怪しい外国人バイトに関しては私が大学で聞いた範囲のことを伝え、ハニトラ疑惑に関しては遠藤氏が過去に起きた案件に関して教えてくれたあと、通話を終えた。
「なんかさぁ、ピンポイントに狙われるのは嫌だけど、若くて独身ならどの退魔師でも良いって感じで手当たり次第に狙われるのの一部って言うのもなんか業腹だね〜」
碧が苦笑しながら呟いた。
「だね。
手当たり次第だと思うと危機感がちょっと下がる気がするけど、考えてみたら結局狙われている事に変わりはないんだけどね。
見習いとかも合わせたら一体どれだけ人員を動員してるんだろ?」
大学生でなくても蓮くんみたいな高校生とか、以前ランクアップ祝いのディナーパーティで会った人達とかも対象になっているんだろうなぁ。
いや、蓮くんは高校生だったら、まだ親の管理下だからハニトラで連れ出すのに難ありか。
「見習いはちゃんと一人前になるか不明だから対象外じゃないかな?そんでもって大学を卒業した後は自然な感じに接触する機会がグッと減るでしょう。つまり大学生って言う条件がハニトラに最適かもと考えると意外と数は少ないかも?」
碧が指摘した。
あぁ。
確かに、大学を卒業して退魔師として働き出すとタクシーかレンタカーでの移動が大幅に増えるし、電車を使うにしても行く場所が毎回変わるから自然な感じの出会いを設定するのは難しいかもね。
家の近所だったらレストランとか喫茶店に態々入らない可能性の方が高いし。
しかも最近だったら日常品の買い物もネットで済ませる人が多いだろうから、近所のスーパーの店員になっても出会いは難しいだろうし……スーパーでパートのおばちゃん達の厳しい目の下でナンパするのもハードルが高いだろう。
と言うか、今時スーパーのバイトからナンパされて靡く人がいるとも思えない。
まだなんかコンビニのバイトの方が学生のバイトって感じで同世代感があるけど、スーパーの店員って実際には若くても『パートのおばちゃん』のイメージが強すぎる。
まあ、これは私の個人的な感想だけど。
スーパーで働いていたら出会いが無いとは限らないんだろう……多分。
客との間にロマンスが生えやすい業種とは思えないが。
それはさておき。
「若い退魔師の名前と生年月日を退魔協会から入手して、あちこちの大学にハッキングしてどこに誰が通っているか、調べたのかな?
通っている大学名は退魔協会に正式には知らせて無いよね?」
遠藤氏は知っているけど、書類に大学名を書いて提出した記憶はない。
碧と大学で知り合ったって話したから退魔協会側は私の大学を知っているだけなんじゃないかなぁ。
そう言う情報ってハッキング出来るようなデータベースに入れてなさそうだよね?
「学歴はねぇ。
ちょっとデリケートな話題だから退魔協会も公式には集めてないと思う。
だから、依頼を振り分ける部署の人は知っていてもデータベースには入れてないせいで大学側が手当たり次第にハッキングされたんかもね」
碧が頷きながら言った。
「学歴がデリケートな話題なの?
単に退魔師にとってどうでも良い事だから調べないのかと思っていたけど」
退魔の術に関する授業なんてどの大学でも提供していないのだ。
そう考えると、退魔師にとって学歴はほぼ完全に仕事に関してのプラス要素は無いと言って良いだろう。
「一般的に日本って学歴社会じゃない?
それに影響されて良い大学に行ったことを自慢に思って偏差値の低い大学卒や大学に行っていない人を見下す人も居れば、師匠の下での修行が至高だから大学なんて4年間遊ぶための言い訳だと思って大学卒は遊び人だと見下す人も居て、下手に話題に上げると険悪な状況になりやすいのよ。
だから大学の話題は出さないに越したことはないって感じ?」
碧が笑いながら言った。
なるほどねぇ。
確かに、私たちも退魔の仕事をフルに受けない口実に大学を使ってるわ〜。
私は、それなりに頑張って大学受験して入ったんだからその努力の成果を認める意味で大学を評価して貰っても良いとは思うが、退魔師としての成長には全く関係が無いのも事実だ。
「下手に大学に通っているとハニトラのターゲットにされやすいとなったらますます退魔師業界が大学離れしそうだね」
とは言え、業界外でも良いからある程度以上の教育水準の結婚相手を見つけようと思ったら、大学に行っておくのも悪くは無い選択肢だと思うけどね。
狭い業界内だけで結婚相手を見つけるのは難しいでしょうに。
まあ、大学の知り合いと付き合い始めたとして、退魔師であることを打ち明けて結婚しよう!と言えるぐらい信頼関係を築けるかは微妙な気もしないでもないけど。
「それはさておき。
レストランの方は退魔協会が手を回しそうだから、そのコンビニバイトにナンパされてみますか!」
碧がバッグを手に、立ち上がった。
どうやってうまくナンパされるのか、プランはあるんかな?