管理社会化?!
『最近、若い退魔師が狙われている様です。
お二方は大丈夫な可能性が高いとは思いますが、新しく出会った人にはご注意お願いするよう連絡をさせて頂いております』
退魔協会から電話が掛かってきて、遠藤氏が告げた。
あれ?
噂のイケメン外国人ウェイターがバイトとしているとか言うレストランへ、ランチにでも行こうかと考えて碧も一緒に行くか否かを話し合っていたところで退魔協会からの電話が掛かっていたので依頼かと思ったのだが……ちょっと違う??
「え、ハニトラですか?
それとも物理的な誘拐とか殺害?」
碧が物騒な事を尋ねる。
そっか、『狙われる』だとハニトラではなく物理的な暴力もありえるのか。
『能力を使わない、若い異性を使った誘惑ですね。
去年の暮れあたりから若い退魔師が外国人の異性にアプローチされて、恋愛関係になってちょっと相手の故郷まで遊びに行こうとパスポートの申請をしたところで政府から相手の人間の調査が入り、付き合っている人物が怪しいことが判明する事件が連続で起きています。
偶然とは考えにくいので、退魔協会の人事関係の情報を盗み出して自国の退魔師のリソースを増やそうとしている国があると思われます』
え、パスポートを申請すると国が調査するの???
マジ?!
「私達ってパスポートを申請すると政府から調べられるんですか?!」
つうか、政府って退魔師を能動的に認識してたんだ?!
『依頼したら来る連中』って言う程度の認識じゃなかったとは意外〜。
『退魔師はどこの国でも需要に供給が追いついていない状態ですからね。
引き抜き合戦はお互い自粛する国際合意がありますが、『個人の恋愛に国家は口を出せない』と言う事でハニトラは戦後のどさくさの頃からよくあった問題です。
だからせめてもの対応策として、我が国ではパスポートの申請があったら状況を確認する流れになっているのですよ』
あっさり遠藤氏が告げた。
あれ?
以前、アメリカの副大統領が碧を引き抜こうとしてなかったっけ?
副大統領ぐらい偉い人が個人的に声を掛けるぐらいなら許されるのかね?
まあ、アメリカは『世界のルールも大国たる自国には関係ない』的な傲慢自己中メンタリティがあるからねぇ。
「あら。
じゃあ、私じゃなくても退魔師は海外旅行を自粛する様に強く勧告されるの?」
碧がちょっと驚いた様に尋ねた。
そうだよね、パスポートが無ければ申請した時に国が調査できるけど、ちょっと友人との旅行に行くとパスポートを作っちゃったらハニトラに引っ掛かって海外に将来の義理の家族へ挨拶しに行くの〜って国を出ても分からなそう。
『当然です。
結婚して子供が居れば海外に出ても帰ってくるだろうと国際会議への出席を頼まれる事はありますが、若い独身の退魔師は国から出ない様に説得するのが我が国の方針です』
うわぁ。
他の国も似たり寄ったりなんだろうなぁ。
どおりで国際会議に出てきた人たちの年齢層が微妙に私らよりも上だった訳だ。
あれ?
でも、国際会議に来てたエクソシスト達って当然独身だよね?
まあ、神に身を捧げているとなったらキリスト教がメインじゃない国に移住はないか。
キリスト教圏内での引き抜き合いはどうなんだろうと言う気はするけど、引き抜き禁止で、神父相手にハニトラは通常は駄目だろうとなると、比較的安心なのかな?
まあ、それはさておき。
「私たちの通う大学のそばでも妙にフレンドリーな外国人バイトが最近増えたらしいですよ。
凄く愛想良く声を掛けてくる上に、京都の旧家とかの人に興味があって、国立大に留学している自国の学生を呼ぶから合コンしないかと誘ってくるらしいです」
京都の旧家って言っている時点で碧を外しているんだけど、他に京都出身の退魔師が居るのか、それとも碧の実家の地理情報が誤って認識されているのか。
『そちらの大学に藤山さんと長谷川さん以外の現役の退魔師はいない筈ですが、退魔師の家系の血もついでに狙っているのかも知れませんね。
その外国人バイトがどこにいるか、ご存知ですか?』
遠藤氏が尋ねた。
うわぁ。
退魔協会って全会員がどの大学に行っているかも把握している訳?
思っていた以上に管理社会化していてちょっと気持ち悪いな。
「トラットリア・クリエと言うレストランのウェイターが噂になっているみたいですね」
碧が応じた。
おや。
コンビニ店員に関しては言わないんだ?
まあ、ハニトラ要員撃退用に碧の天罰デフェンスを期待されたらウザいよね。
自衛はするにしても、退魔協会に知らせておく必要はないか。