迎撃しましょう
「なんか去年の秋に、大学の方でハッキング被害があって学生の情報が漏洩したって連絡が来てたじゃない?
あれってどうも碧を探していたか、探している相手に情報が売られたかしたみたい」
家に帰って今日の発見について碧に相談する。
「え?
あの『名前と連絡先が漏れたけど特に悪用されたと言う報告はありません』って手紙が来たやつ?」
碧が聞き返す。
そう、被害報告は無いし名前と連絡先のみだしって事で補償はなく『すいません』の手紙だけが来た事件。
大学側にクレジットカード情報なんて渡してなかったし、授業料の振り込みだってこっちが一方的に学生番号付きでやるだけだから口座番号はキープしてなかっただろうし、住所も実家を使っていたからまあ良いやって事で特に問題視して無かったんだけどねぇ。
まさかあの情報を使って私たちを探すとは思わなかった。
「大学周辺で妙に顔が良かったりナンパしたがる様な外国人バイトが増えたって話を聞いて、ちょっと噂の店を見に行ったら……外国人のコンビニ店員が私と碧の名前を知っていて、接触したがってた」
取り敢えずは見つけて仲良くなれって命じられているみたいで、仲良くなった後にどうする予定なのかは知らないっぽかったけど。
そこら辺はどのくらい碧や私が無防備かによるんかもね。
「退魔協会か政治家経由か何かで白龍さまの愛し子情報が漏れてたのかな?
でもなんで今?
中学の頃から退魔協会の仕事をしてたのに」
碧がちょっと首を傾げた。
「中高生は自由に泊まり掛けで出掛けたりできないし、万が一行方不明になったら大騒ぎになるでしょ。
大学生だったらちょっとした旅行に行ったのかもって思われて数日帰ってこなくても誰も真剣には探さないから、誘拐なりハニトラで連れ出すなりしても国を問題なく出れる可能性が高いと思って待ってたのかも?」
しかも、もう成人しているのだ。
結婚だって親の承認なしに出来る。
まあ、大学に入った年にやらなかったのはちょっと不思議だけど。
「そう言えば、前に話していた婚姻届不受理申出した?
勝手に婚姻届を届け出されたりしたら危険だし、出しておく方が良くない?」
個人だったらそうそう変な事をしないだろうし、されても対処できると思う。だが国家権力が相手だと、他国だとしてもスケールが大きくなりそうで怖い。
「パスポートを持ってないし、大丈夫じゃない?」
碧がちょっと首を傾げて言う。
「日本国籍の手下を使って結婚してますって事にしたら、行方不明になったとか人前に姿を現さないから探そうとするのに配偶者が捜査をストップ出来ちゃいそうじゃない?
まあ、白龍さまがいるからほぼ大丈夫だとは思うけど、変な奴らに戸籍を汚されても業腹でしょ」
パスポートが無いって言うのは確かに強いね〜。
少なくとも合法的には国外へ連れ出せないんだから。
でも、それこそ配偶者だったら代理人として申請出来ちゃうかも?
なんかこう、勝手に知らぬ間に出来ちゃう手続きがどのくらいあるのか、気になってきた。
婚姻届を出すのに身分証明書が要らないとしたら、それで配偶者として同居しますって住民票を動かされて、代理人として委任状をでっちあげてパスポートの申請とかも色々と出来ちゃいそう。
……マジで私も婚姻届不受理申出をしておこう。
「まあ、やられたら明らかに悪意があるって事でしっかり白龍さまに天罰を下して貰うけど、一応気持ち悪いから婚姻届不受理申出だけはした方が良いかもねぇ。
そんでもってそのコンビニ店員はどうしよう?
コンビニだけなら良いけど、他の喫茶店とかレストランとかも安心できないとなると面倒そう」顔を顰めながら碧が言った。
『敢えて声を掛けさせる隙を見せて、何をするか確認してはどうじゃ?
狙いがはっきりしてから相応な天罰を下せば良いじゃろ』
白龍さまが姿を現して言った。
確かに、変な事を考えている怪しい人が居るからって碧が行動の自由を制限される謂れは無いか。
それこそあのハニトラ用コンビニ店員にクルミを付けておいて、碧を見つけたらあいつが誰にどう報告し、何をする様に命じられるか確認しても良いし。
少なくとも彼は術者じゃ無かったから、クルミ経由で監視してもバレない筈。
「そうですね。
次に大学に行く時があったらそのコンビニに寄ってみますね」
碧が頷きながら言った。
ついでにそれまでに、垣野さんから聞いた他の怪しいと思われている外国人バイトのいる店も回ってみるか。




