要相談だね
「何かお困りですか〜?」
垣野さんに教わったコンビニでちょっと立ち止まりつつ店の中を見て回っていたら、横から声を掛けられた。
コンビニ店員の制服を着て、ちょっと訛りがあるが顔は……整っていると言うよりは愛嬌がある感じ?
外国人として軽く声をかける分にはこう言う顔の方は変に整っているよりも警戒心をかき立てなくて良いのかも?
「え〜と、新しいカップ麺が出たって聞いて、ちょっと見に来たんです」
コンビニと言えばアイスやカップ麺で四六時中新しいのが出ていると言う印象だ。
スイーツも力を入れてるかもだけど、流石に美味しく無いお茶で平凡だけどサイズはちょっと大きいミルクレープを流し込んできた身としては甘い物は今日はもう要らない。
「カップ麺ですかぁ。
あれかな?日清◯品がカレー味のを出したんですが、甘辛いのとガチに辛いのと、二つありますよ〜。
辛いのは平気?」
にこやかにこちらへ笑い掛けながら店員が奥の方へ案内してくれた。
『クルミ、この人の背中にでもちょっと貼り付いて』
近距離なのでそれなりに集中すれば記憶や思惑を多少は感じ取れるが、会話しながらでは難しい。
それとなく手で接触出来れば一気に情報を抜けるが、流石にハニトラ疑惑な相手に触れたら良い様に誤解したフリをしてゴリゴリ押してこられたら面倒だ。
『ほいほ〜い』
しゅぱっと亜空間収納から出した隠密型クルミが店員の後ろから背中に飛びつく。
「僕は辛いのが大好きなんで真っ先に試してみたら、ちょっとエスニック的って言う売り文句通りに少し故郷で祖母が使っていた香辛料に近い様な香りがあって美味しかったですよ〜。
エスニック料理的な辛さは苦手ですかぁ?」
ニコニコしながら店員が話しかけてくる。
集中できないから話し掛けないで欲しいんだけど、そうも言えないからなぁ。
「じゃあこれを二つ買ってみますね。
彼氏が辛いの大好きなんで」
だからナンパを辞めてくれ。と言う圧力を掛けてニッコリ笑ってカップ麺を二つ手に取ったら、流石にナンパはやめた。
とは言え、親しくなろうと言うのは諦めていないらしく、そのままニコニコ立ち止まってこちらに話し掛け続ける。
「辛い物好きな彼氏さんですかぁ。
じゃあ、こっちなんかどうです?
激辛カップ麺!真性の辛い物ファンじゃ無いと無理ですけど、辛い物好きにはチャレンジとして人気なんですよ〜」
クルミ経由の情報で目的意識を持ってナンパしているのは読み取れたから、ちょっとここで離れて貰って落ち着いてもっとしっかり記憶を読みたいんだけど、しつこい。
取り敢えず、もうレジに行くか。
なんだったらレジで財布と小銭を探すふりをして時間を稼ごう。
最近はスマホのアプリで払っているから、小銭を探すのに手間取る振り自然に出来そうだ。
「取り敢えず今日はこの二つだけ買います。
彼にチャレンジ用があるって伝えておきますね」
軽くお礼っぽい感じに頭を下げて話を打ち切り、レジの方へ向かう。
「あ、じゃあ僕がレジをしますよ。
うまくタイミングを合わせれば並ばないで済むからね」
親切そうにハニトラ店員が言ってカウンターの後ろに周り、レジの方で何やら自分の社員証っぽいのをレジに読み込ませていた。
根性だね。
プロだとこのぐらいめげない面の厚さが必要なのかな?
取り敢えずカップ麺二つを渡し、財布を探すふりをしてバッグの中を漁りながら店員の記憶を読む。
うん。
藤山碧と長谷川凛の名前が知識としてある。
うわぁ〜。
マジで私達ってインターナショナルに注目を集めちゃうほど有用性があると思われてるのかぁ。
まあ、私達と言うよりは『碧』と『碧を釣る為の餌』ってポジションだろうけど。
見つけて出会って親しくなれとしか現時点では命令されてないっぽいし、笑えることに私達の写真も無いのか顔を知らない様だけど、ここでキャッシュレス決済用に携帯を出したら何か情報を抜き取られるリスクがあるのかな?
コンビニのレジそのものでは変な事は出来ないだろうとは思うけど、何か上手くいかないからちょっと携帯を貸してくれとか言われたら危険そう。
ヤバいスパイ(もどき?)なスキルに関する情報まで読み取るのは直に触らずにだと時間が掛かり過ぎるので、取り敢えずさっさと財布を見つけて現金を差し出した。
大学周辺にハニトラ要員が他にどのくらい居るのかも知りたかったのだが、少なくとも表面的な記憶の中にその知識は無かった。
セルに分かれてお互いの知識はない状態で活動してるのかな?
流石に大学周辺の店を全部回る気は無いからなぁ。
碧に大学周辺の店にはあまり入らない方が良いかもって言うべきかも?
それとも敢えて接触して何か害意を引き出して白龍さまの天罰デフェンスをぶつけるか。
帰ったら相談だね。