リスク管理
授業の合間に携帯のアプリを確認したら、スマートウォッチのアカウント登録に使っていたのは大学に登録したメールアドレスではなく、友人とのやり取りとか買い物で店に登録する時とかに使うアドレスだった。
取り敢えず大学の情報漏洩から私のGPS情報がダダ漏れになるリスクは減ったが……考えてみたら、メッセージアプリとかECショッピングのアプリも費用削減狙いで大陸の大国にある子会社へ情報入力とか管理を委託している可能性は十分ありそうだ。
実際にいつも使っているメッセージアプリはそれで一度炎上して、合併した会社とのIDの統一化とかがストップしたと何かで読んだ気もするし。
スマートウォッチに使うアドレスは他にどこでも使っていない捨て垢のを作ってそれで登録しなおそう。
幸い携帯は日本の会社のだから、スマートウォッチからの漏洩さえ対処できればGPS情報は安全な筈。
本当ならばスマートウォッチも買い換えた方が良いのかもだけど、日本製は最近殆ど見掛けないし、アメリカ製もねぇ…‥実はあっちの政府に情報抜かれていても不思議は無さそうだからなぁ。
流石にアメリカは日本人を誘拐したり逮捕したりって事は多分しないとは思うけど、碧を利用したくて弱みになりそうな情報を集めるぐらいの事はしそうだ。
りんご社なんかはテロリストが持っていた携帯の情報提供すら捜査当局に拒否したらしいから信頼できるかもだが、あそこの製品の殆どは隣の大国で製造しているらしいし、アメリカでも新興企業の場合はどの程度政府の圧力に立ち向かえるか怪しい。
まあ、被害妄想気味になったら切りが無いんだけどね。
それこそ日本製のスマートウォッチを買ったところでそっちがハッキングされて情報漏洩してるかもだし。
コストカットという事で日本の会社が他国の会社に外部委託する事は十分考えられるし、最近だったらクラウド化が盛んに行われてるけどあれも言うなればアメリカの企業に情報がダダ漏れになる可能性が高いんだから、便利なデジタル機器を使ったらある程度のプライバシーの侵害は覚悟しなくちゃいけないのかも。
そう考えると、ポイントが貰えるからってスマートウォッチを持つ事自体が不用心なのかもねぇ。
そんな事を考えつつ、垣野さんに教わった喫茶店へ入る。
ここのウェイターになった男性が日本人そのものに見えるのに実は違ったとか言う噂の人物らしい。
他にもコンビニとかレストランとか、何ヶ所か話を聞いたが。
考えてみたら、コンビニなりレストランなりの店員さんに話しかけられてハニトラが成立するのかね?
私だったら店員から頼んだオーダー以外のことで変に話しかけられたら『キモッ!』って感じてマイナス評価なんだけど。
まあ、同じ大学内の留学生として紛れ込むには時間と金がが掛かるからって事でまずは手頃なバイトを使ったナンパを試しているのかもだけど。
そんな事を考えながら、席に案内されて座る。
案内してくれた店員は女性だった。
疑惑の男性のシフトじゃ無かったのかな?
まあ、シフト内だとしても店に来る客全員を一人で対応できる訳じゃ無いよね。
「え〜と、ホットのミルクティーとこちらのミルクレープを下さい」
店員の女性に頼む。
ミルクレープって見た目は美味しそうだけど意外と生クリームが少ない感じで残念なのが多いんだよねぇ。
でも、クレープと生クリームのバランスが丁度良いと素晴らしく美味しいのもあるから、最近は新しい店では取り敢えず一回試すことにしている。
ここでミルクレープが当たりだったとしても、変なバイトが居るところに通う様になるかはちょっと微妙だけど。
ここはケーキの持ち帰りって出来るのかな?
そんな事を考えながら携帯で何かを調べているふりをしつつそっとクルミとの視界共有で喫茶店の中を見回していたら、奥からちょっと見た目が整っていると言えなくも無い男性のバイトが出てきた。
う〜ん。
私的にはああ言う細っそり中背な男性は趣味じゃ無いんだけど、ああ言うのが良いってタイプも居るのかなぁ。
まあ、人それぞれだよね。
そんな事を考えつつ彼の行動を見ていたら、確かに中々フレンドリーに客や店長と言葉を交わしている。
やっぱ黒?
『ちょっと隠密型になってあの男性の腰か背中にでも貼り付いてみて』
クルミに頼む。
『了解〜』
そっと亜空間から出した隠密型のクルミが足元をひっそり飛んで男性店員の方へ近づいて行く。
「お待たせしました〜。
ミルクレープとホットの紅茶です。ミルクはこちらを使って下さい」
女性に店員が来て、手早くケーキと飲み物をテーブルの上に置いていった。
え??
『ミルクはこちらを』って示された籠っぽいのに入っているのって小さな密封容器に入ったコーヒーミルクなんだけど?!
マジ??
ミルクティーって頼んでこれは無いでしょう。
牛乳を小さなピッチャーに入れて出すとか、なんだったら大きなピッチャーに入れて持ってきてここで注ぐんでも良いから、普通に牛乳を頂戴よ!!
『コーヒーミルク』は牛乳ですら無いでしょう!!
ミルクティーは『ミルク』と言っても牛乳じゃ無いと味が合わないだろうに。
『準備できたよ〜』
思わず呆然として目の前の飲み物を見ている間に、クルミが男性の方へ辿り着いた様だった。
取り敢えず。
紅茶はストレートで飲むか。
諦めて一口ちょっと渋いお茶を口に含んだ後、フォークを手に取ってミルクレープを切り込む。
食べ始めれば食べるスピードが遅くても注意は引かないでしょう。
そっとクルミ経由で男性の記憶を読む。
使い魔経由なので表面上の記憶しか読めないが……考えている事はナンパと、どの子が可愛いかだけだね。
あとはバックグラウンドになんか強烈な劣等感??
う〜ん、バイト先で女の子を引っ掛けまくる微妙な人かも知れないけど、ハニトラ要員では無いっぽい?
何か劣等感を感じる原因があって、それを隠そうと嘘を色々ついているから日本人じゃ無いと変に誤解されたのかな?
単に出身地とか家族に関して嘘を言っただけな気がするが、ちょっと距離があるしクルミ経由なのでイマイチ深く情報を読みきれない。
まあ、取り敢えず碧や私を狙って居る訳では無いみたいだからどうでも良いか。
『ありがとね、クルミ。もう帰ってきて良いよ〜』
ミルクレープは可も不可もなしレベルだし、ミルクティーは完全に不可だし、ここにはもう来ないかな。
次はコンビニの方に行ってみるか。