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殺してないよ?

お花ちゃんを還し、本家の方に戻って家令の男性に声をかけたら依頼主の元へ案内された。


それなりに時間が経っていたからかお手伝いさんがまたお茶を出してくれることになったので、執務室のソファに座って女性が出て行くのを待つ。


考えてみたら、今日は日曜日なのに依頼主ったら執務室で働いているの?

ちょっと可哀想な気もするね。


折角旧家の本家に嫡男として生まれそれなりに金も権力もある立場なのに、三が日明けの週末ですら在宅勤務って実はブラックな労働環境だよね。


幾ら仕事をする机と椅子が高級品で座り心地が良くても、日曜日まで仕事って言うのは頂けない。

お花ちゃんじゃないけど、のんびり日向ぼっこでもする方が良くない?

まあ、もしかしたら机に向かって売れない小説でも書いているのかもだけど。


いや、金があるなら今だったら自費出版出来るから、『売れない小説』のままにしない事は可能か。

とは言え、出版できても買う人が居なかったら『買われない小説』になっちゃうけど。

考えてみたら今後は『売れない小説を書く』ではなく、『買われない小説を書く』にヒモの典型的職業の形容詞が変わるかも?


それはさておき。

「終わりました」

お手伝いさんが部屋が出ていったところで、碧が報告する。


「拓海も具合が良くなって先ほど目を覚ましたらしい。

ありがとう」

依頼主が軽く頭を下げて応じた。


最初に会った時には無表情に固まった感じだった顔が、少し緩みホッとしている感情が微かに感じられる。

末息子を育てるの…‥と言うかコミュニケーションを取るのに失敗したようだけど、微妙にどうして良いか分からない息子の事もそれなりに大切にしているのかな?


「ペイント塗れにされた慰霊碑に留まっていた他の霊も昇天させて来ました。

他にも別に二つ慰霊碑があったので、まだ霊にそれなりな怨みが残っていた一つの方も清めておきました。

もう一つは霊がほぼ完全に眠りについているのでそのままにしてあります。あちらはそのうち自然に天へ還るでしょう」

無理矢理手を出して追い出すよりも、時間に癒されて怨みを洗い流して来世に行く方がきっと良いよね。


まあ、碧の祝詞ならかなり自然な時の流れによる癒しに近いかもだけど。


「帰りに目についた別の小道を通って帰って来たら、蔵の後ろに出たのですが……杉原さまはあのガレージの後ろにある物置の下に白骨が埋まっているのをご存知ですか?」

多分知っているんじゃ無いかと思うけど、一応質問っぽい形で尋ねる。


あの物置はちょっと周囲から浮いてるからねぇ。

理由なくあれをあそこに残してはないだろう。

あの形にしたのが依頼主ではなくもう少し前の世代だとしても、ある程度の説明は聞いている筈。


聞いてなかったら、それこそ物置をどけてガレージを広げようと工事したらびっくりする羽目になるね。


「……あそこにも悪霊が居ますか?」

依頼主の顔が再び固くなった。


「うっかり喘息で亡くなる前にもう少し日向ぼっこしたかったお花ちゃんと言う地縛霊が居ましたが、悪霊ではありませんでしたよ。

ただまあ、あそこに居ても日向ぼっこはいつまで経っても出来そうに無かったので、来世で思う存分日に当たれるよう昇天するのを手助けしておきました」

来世がモグラとかにならないと良いんだけど。

お花ちゃんだったらきっと元気一杯に花を咲かせて綿毛をふわふわと飛ばすタンポポになれそうだから、本人の希望が叶うと良いなぁ。


「日向ぼっこ??」

依頼主が呆気に取られた様に聞き返してきた。


「妾さんの娘で、喘息持ちで病弱な方だった様ですね。どうも、正妻の娘の妙さんと結婚する筈だった福田家の若様とやらにうっかり見初められてしまったたものの、体が弱くて妙さんの代わりに嫁入りするのは無理だろうと言う事で……幼馴染と駆け落ちした事にしてあそこにあった蔵の地下に隠れていたらしいです。

喘息持ちには冬の寒い時期に蔵の地下というのは体質に合わなかったのか、ものの数日で呼吸困難で亡くなってしまったと言っていました。

本人としては死んでしまったことはしょうがないと納得しているそうですが、できれば遺骨は一族のお墓に一緒に入れていただければ有り難いとのことです」

まあ、そこまではっきりとは言っていなかったけど、今更無縁仏にされちゃうのも切ないでしょう。


「……恨んで無かったのですか。

正妻の娘の相手に色目を使った妾の子を蔵の地下に閉じ込めて死なせたと伝わっていたのだが……」

ボソリと依頼主が呟いた。


自分達のやった悪事を取り繕って無かった事にするのは良くあるけど、事故だったのにもっと酷い事をしたと伝わっているのは珍しいね。

もしかして、周囲の人はお花ちゃんが納得して協力的だったのに気付かなかったのかな?

それとも家を継いだ息子が親の言葉を信じなかったのか。


「元々長生き出来ないぐらい体が弱かったから、異性の注意を引く気すらなかったみたいですね。

遺体の発掘って古い骨でも色々と手続きがあって面倒そうですが、警察に霊が言ったことの証言が必要なのでしたら致しますので、ご連絡下さい」

霊の証言って裁判では有効性はないけど、数百年前の骨に関してだったら何があったって話を聞く参考程度にはなるでしょう。


まあ、なんで普通に埋葬せずに蔵の地下室に埋めちゃったのかは知らんけど。

福田家にお花ちゃんが蔵に居たって知られる訳にいかなくて埋葬出来なかったのかね?


「そうですね。

あの物置はいい加減撤去したかったので、この機会にやりましょう。

ありがとうございました」

依頼主があっさり頭を下げて言った。


おお〜。

意外といい人?

お花ちゃんもちゃんとお墓に入れて貰えそうで、良かったね。





これで一区切りとして、明日はお休みにします。

明後日からまたよろしくお願いしますね!

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― 新着の感想 ―
>と言うかコミュニケーションを取るのに失敗したようだけど 自分が選べなかった責任を背負わなくても良い人生を 末息子に与えてあげただけなのかも?
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