たんぽぽ、ですか
『こんにちは?』
魔力を込めて地縛霊の女性に声を掛ける。
時代劇の町娘っぽいちょっと軽めな着物的な服を着ているから、明治維新前の霊かな?
かなり色白で儚い系美人に見える。霊の姿って必ずしも死ぬ前の本当の姿を表しているとは限らないが、この通りの姿だったら今なら凄いもてそう。
と言うか、今だったらモテるけど、江戸時代だったらひ弱そうでダメかも?
昔はお尻の大きな安産体型が人気だったって聞いた事があるけど、江戸時代の武家でもそうだったのかな?
……主家が跡継ぎ問題で口出しするんだから、杉原家って武家だったよね?
庄屋ではなく。
まあ、それはさておき。
『あら?
こんにちは〜。
声を掛けられるのは久しぶりだわ〜』
ぼうっと座ってい霊がこっちを向いて応じた。
まあこっちを向いているとは言え、霊自体は物置の下に埋まったままだけどね。
「え〜っと、私たちはこの敷地にあった慰霊碑に悪戯をしたせいで祟られちゃった人の対処に呼ばれた退魔師なんだけど、貴女はどうしてここに居るの?」
江戸時代の話だったら別に白骨死体があろうと問題じゃあない筈だけど、なんで隠されてるんだろ?
『私はお花って言うんだけど、妾の娘なのに正妻様の娘である妙様を娶る予定だった主家の福田の若様に見初められちゃって。
まあ、それでもちゃんと私が子を産んで福田家と杉原家を繋ぐ役目を果たせるなら良かったんだけど、私って体が弱いから。
しょっちゅう熱を出して寝込むし、埃っぽいところに行ったり、そうじゃなくても冬になると変な感じに呼吸が出来なくなることが多いしで、絶対長生きしないでしょって事で幼馴染と駆け落ちして出てっちゃった事にしようって父上と妙様と話し合って決めてたの〜。
だから福田の若様が諦めるまでここにあった蔵の地下に隠れている事になったんです。
でも冬で寒かったせいか、ちゃんと布団を持ってきて貰っていたんだけどうっかり5日もしない間になんか息ができなくなって死んじゃったみたいなんですよ〜』
あっけらかんとお花が教えてくれた。
おやま。
なんかこう、かなり不幸だけど特に誰も恨んで無いっぽい?
「う〜ん、埃っぽいところや冬に呼吸困難になるってことは、喘息持ちだったのかな?
確かにちゃんと掃除していない蔵の地下で寝起きするなんて、ダメでしょう」
碧がコメントする。
喘息って冬はダメなんだっけ?
と言うか、蔵の地下なんて暖房なしじゃあ布団があっても寒いでしょうに。
昔の人なら体質的問題がなければ大丈夫だったんかね?
「ちなみに、なんで昇天してないの?
誰かと約束でもしてたとか?」
その駆け落ちした筈の幼馴染を待っているって言うなら、その霊がこの敷地近辺にいるのか探してみても良いけど。
『いえ、元々長生きしないだろうと自分でも思っていたし、回りの人間もそう思っていたから将来を約束するような相手は居なかったんですけどね。
もう一度暖かい陽の当たる野原に寝転がって日向ぼっこしたかったなぁって言うのが心残りだったみたいで。
うだうだ夢想している間にここから動けなくなっちゃって』
お花があっさり答えた。
日向ぼっこへの未練で地縛霊になるとは珍しい。
て言うか、ここの上の蔵を撤去した際に物置なんぞ置いて誤魔化さなければ、今頃お花ちゃんも自然に昇天していたかも?
まあ、死骸が地下5メートルぐらいのところにあるから上の地面に日が当たっても足りなかったかな。
「そう。
じゃあ天へ還るのを手伝おうか?
多分、物置を退けて遺骨を掘り出してもどうせお墓に入れられちゃうから、日向ぼっこは難しいと思うわ」
碧が提案した。
そうだよねぇ。
本霊の希望で、供養の為と言われても白骨を地面の上に放置しておく訳にはいかないだろうから、地下から掘り出されても暗い場所に安置される事に変わりはない。
だったらここで碧に助けて貰って輪廻の輪へ還る方が良いでしょう。
『そうね。
さっさと生まれ変わって、次は野原に咲くたんぽぽにでもなりたいかな〜』
お花が言った。
たんぽぽになりたいとは、斬新な希望だね。
名前がお花だから、花になりたいと思うのかね?
どうせだったらせめて金木犀とか木蓮みたいな何年も生きて花を咲かせる木の方が良いと思うけど。
まあ、本人の希望が叶うかどうかは誰にも分からないんだし、否定する必要もないか。
「じゃあ、祝詞を唱えるわね。
遺骨に関してはここの当主にちゃんと回収して墓に入れてはどうかと提案しておくわ」
碧が言った。
微妙に周囲に合わない物置を態々置いて隠蔽している杉原家側が我々に言われたからって大人しく言う通りにするかは知らないけど、提案は出来るだろう。
……古い事件性が無い骨って勝手にお墓に入れて良いのかな?
それともどこかに報告する必要があるんかね?