地縛霊
「こっちから行ってみようか」
碧が先ほど通ったのと別の小道を指して提案した。
「そだね。
……同じ敷地内なんだから、最終的には本家の方に戻るよね?」
敷地の外へ出てしまったらもう一度ここまで戻って来る羽目になる。
「大丈夫でしょ。
こっちの方から戻って来るっぽいルートの小道が本家の横の方にあったし」
碧が応じる。
そんな小道あったんだ?
どうも私って注意力散漫なのか、そう言う道とかを見逃すことが多いなぁ。
まあ、今回は悪霊と穢れの痕跡を探すのに注意を払っていたからって事で。
……でも、そう考えると本家のそばで特に悪霊を感じ取れなかったのは、その蔵の下に埋められている死体とやらの無念や穢れがもうすっかり薄れているからなのかな?
黒魔術師って死者の声が聞こえすぎるから、通常は感覚をかなり鈍くしているし、しっかり感じ取ろうとしている場合も狙ったものだけを感知しようと範囲を絞る癖がついているからなぁ。
目の前に幽霊が出て来て要求を突きつけるとか文句をがなり立てないと、気付かない可能性も否定できない。
そんな事を考えながら小道をぶらついていたら、暫くして白い蔵っぽい建物の横に出てきた。
前方に本家らしき日本家屋が見えているし、更に横にはもう一つ蔵(多分)があるから、ちゃんと戻れたらしい。
蔵の横に出てこれたのはラッキーだ。
本家の正面に戻ってきたのに態々奥の蔵の方へ近付くのは家令とかに見咎められそうだからね。
『ちょっと気分転換に違うルートを通ったら蔵の横に出てきました〜』って言い訳が出来る方が良い。
「んで?
悪霊なり地縛霊なり、感じられる?」
碧が蔵の後ろで立ち止まって尋ねてきた。
「う〜ん、ちょっと待ってね」
魔力視に集中し、蔵の内部を確認していく。
虫やネズミらしきものの死骸はあるが、地面の下まで確認しても人間の死骸や霊はいないようだ。
「こっちは居ないみたい」
と言う事で横の方の蔵へ移動。
本家から見えないように蔵の後ろ側へ植木を見に行った素振りで近づき、再度魔力視を集中。
あれ?
こっちの方が新しいのか、もしくは常時使われて掃除がしっかりしてあるのか、ネズミの死骸も殆どない。
そして人間の白骨や地縛霊も見当たらない。
「う〜ん?
無いねぇ。
あの霊の思い違いだったのか、彼が休眠している間に死骸が撤去されたのか……」
元悪霊が落ち着いて外に注意を払わず大人しくしている状態を休眠と言うのかは知らないけど。
だけど一度建物の下に埋めちゃった死骸を掘り出して撤去って中々出来る事でも無いと思うんだよね。
いくら先祖の悪事だとしても、旧家としてはそんなスキャンダルっぽい事は埋めたまま掘り返さずに知らぬふりをしそうな気がする。
本家の離れが元々蔵だったのを改造したのかな?と思い、魔力視の出力を上げて本家の周りを視て回るが、離れの下にも白骨は無いようだ。
「どうも、見当たらな……あ。
ちょっと待って」
蔵ではなく、ガレージの後ろにひっそりと建っている古ぼけた物置の下に、霊が居た。
物置って蔵なの??
それとも、元々あった蔵が古くなって取り壊した際に、白骨死体の埋まっている場所の上に物置を設置したのか。
更に集中して探したら、確かに物置の下の地中に人骨が埋まっていた。
「あっちのボロい物置の下に人骨と地縛霊がいるね」
碧に物置の方を指差して伝えた。
「こんな立派な蔵が2つもあるのに物置まで必要なのかと思ったけど、そっちを掘り返せないから適当に上を塞ぐのに物置を置いたのかな?
ちゃっちいミニコンテナっぽい物置だから、地面を補強させずに置くのにはちょうど良かったのかも。
でも、あれを意図的に置いたとなると、江戸時代とかの先祖の話じゃなくなるね」
碧が顔を顰めながら言った。
確かにねぇ。
蔵なりガレージなりって建てる際に土台を固めるために地面を調べたり掘り起こしたりってする必要がありそうだもんね。
古くからある蔵がボロくなってきたから建て直すにしても、土台部分を掘り起こすのは都合が悪いと認識されていたのか。
ちゃんとした昔風の蔵だったら案外と長持ちするだろうに、なんだって建て替える羽目になったんだろ?
最初が手抜き建築だったんかね?
そんな事を考えながら、そっと本家からの視線が通らないルートを選びながら物置の側へ寄る。
さて。
地縛霊さん、起きてるかな?