ついで??
「終わり〜。
慰霊碑の場所も読み取ったから、そっちに行こうか」
そっと杉原拓海の精神に『親では無く、自分が自分に何を期待するのかが重要だよね?』と言う静かな問いを差し込み、碧の方へ行く。
周囲から期待されないからって適当に流されて投げやりに生きるのは勿体無い。でもだからって第三者がもっと生産性がある方向へ生き方を修正する様に強制できる問題でも無いからね。
私ができるのはせいぜいちょっとした視点の変化を促す……かも知れない問いを投げかけるだけだ。
上手くいかなかったら、まあ親から貰う金で穀潰しな人生を歩めば良いだろう。
サバゲーに入れ込む程度だったらまだそれ程害はない。
「どんな感じだった?」
家の外に出て、慰霊碑の方へ向かいながら碧が尋ねてきた。
「木にペイントをぶつけたら皮膚呼吸的な何かに支障が出るかもと思って適当にそこら辺に転がってた岩を使ったと言う、ある程度は善意の行動だったみたい。
ちなみに、憑いていた悪霊は多分その殺されまくった兄側一家の最後の息子?
どうも跡取り争い自体を始めたのが、最終的に仲裁に入ったとか言う主家の人間に唆されての事らしいよ」
読み取った情報を碧に伝える。
「へぇぇ、拓海氏は敢えて慰霊碑にペイントガンを撃ちつける様な碌でなしじゃあ無かったんだ?
それは良かった。
慰霊碑側の霊に関して言えば……権力争いの中で騙された被害者かもだけど、真実は闇の中だし、今更分かったところで何が出来る訳でもないからねぇ。
穏やかに眠りについて、さっさと来世に渡ってもらおう」
碧はちょっと驚きに目を丸くしたが、肩をすくめてそのまま足を進めた。
だよねぇ。
その主家の人間だってとっくのとうに死んで生まれ変わっている可能性が高いし、悪い事しまくっていたならカルマ値を下げて猿なり猪なりに生まれ変わっている可能性もそこそこあるだろうからね。
悪霊になって今だに転生していないんだとしたら、因果応報って事でそれはそれでありだろうし。
主家の名前すら分からないし、跡取り争いがいつ起きたのかもはっきりしないんだから、黒幕が主家の人間だとしたところで私らが調べるのには無理があるからね。
『若は逝ったのか?』
杉原拓海の記憶通りに歩いて、ピンクや黄色のペンキでギタギタになっている岩の所へ辿り着いた私らの前に、大分と薄れてぼんやりとした霊が複数現れた。
「来世に向かって一直線……だと期待してる。
岩を汚した彼も悪気があった訳じゃないし、もうこの地にしがみついてもしょうがないでしょ?
さっさと還りましょう」
碧が応じた。
う〜ん、どうもこの霊達は『若』への心配が心残りで残っていたっぽい感じ?
怨みマシマシって感じじゃ無いせいか、年月で大分と自我が薄れて形も朧げになってきてるみたいだ。
『今の杉原家の人間が、我らのことすら知らぬとはな。
まあ、昔の争いやその結末をいつまでも悔いても意味はないだろう。
若が既に去ったのならば我らも逝こうと思うから、手を貸してくれ』
前に出てきていた霊があっさりと応じた。
跡取り争い程度で関係者を殺しまくっている事を考えると最低でも江戸時代、下手をしたら戦国時代だろう。何百年も前のやりとりだ。
忘れて来世へ渡ろうと考えてくれて、良かった。
あ。
「そう言えば、杉原家って血で血を洗う跡取りとか遺産争いが多かったみたいだけど、他にも敷地内に慰霊碑があったりするのか、知ってる?」
ついでに尋ねてみた。
態々やってあげる責任は無いけど、また呼ばれて来るのは面倒だからね、
他にも慰霊碑があるなら依頼主と交渉して、追加料金ありで全部祓うのも可能って交渉してみても良いかも。
『うむ、時代は違うが争って殺し合い、霊の安寧を祈るために作られた慰霊碑が彼方と其方にあるな。
あと、本家の蔵の地下にも打ち捨てられ、後世で埋められた死骸の残骸に憑いている霊がおる筈だぞ』
霊が右の方と左奥の方を指しながら言った。
おいおい。
そんなに内部で殺し合いをして遺恨を残しまくったのに、良くぞまあ現代までそこそこ栄えていられたね。
よっぽど杉原家の人間が有能なのか、腕のいい退魔師と伝手があったのか。
ちょっとびっくりだよ。
「ありがとう。
残りのに関しては、後で考えるわ。
あなた達はもうお休みなさいな」
碧が話しかけ、祝詞を謳い始めた。
辺りの空気が煌めき始め、清らかになっていく。
パン!
碧が祝詞を終えて、柏手をうつ。
シャラーン。
音では無い音が響き渡る様な感覚が碧から溢れ、周囲を清めた。
うん。
さっきの慰霊碑に居た霊達も綺麗に消えた。
ついでに、さっき示された左奥の方の穢れ溜まりっぽかった塊も消えちゃったぞ?