黒幕は誰だったんだろうね
かなりヤバげな青黒い顔色になっている杉原拓海の額に触れる。
うん。
拓海氏と同調した事で、ドロドロの怨みと怒りを纏ったような悪霊がドスドスと彼の胸の上で踊っているのがハッキリ視えた。
部屋に入った時は胸の上にゆらゆら揺れる黒いモヤみたいのが見えるだけだったんだけど、同調してしっかり視えるようになったところ、顔が歪んでいて見分け難いがどうやら元は拓海氏より若く見える少年っぽい霊のようだ。
これは最後に死んだ兄の子供とやらかな?
そっとそちらに触れてみると、焼け付く様な怒りと、絶望感が流れ込んできた。
どうやら、昔にあった兄弟間の跡取り争いは、実は仲裁に入った主家が唆したものらしかった。
少なくとも、少年がこっそり盗み聞きしたり教わった範囲では、主家の重臣が『主人は長男であり、指導力のある兄君が家を継ぐべきだと思っている』と言って次期当主の座を争えと示唆したっぽい。
仲裁に入った時に弟側に付いたのは、結局正妻の息子で嫡男として生きてきた弟の方が政治力に優れていた為。主家が唆した時点で求めていた、陣営に引き込む必要がある味方を集めきれなかったからだと大人達が話していた。
ただ、主家が兄の派閥も殺さずに部下として使えと命じてくれたから問題はない筈だったのに、どんどん『事故』や『病』で死んでいったのは、弟側が主家の言葉に従わなかったからだとこの悪霊は怨み、祟ったのだが……結局退魔師に慰霊碑へ封じ込まれてしまったようだ。
長い年月の間に封印が弱まってきていたが既に関係者は全員死んでいるしと無気力になってこのまま静かに散り果てるつもりだったのが、仇の子孫が彼らの存在の証でもあった慰霊碑を汚した事で、怒りを爆発させて今度こそやり返してやろうと出てきたようだ。
へぇぇ。
ちゃんと後継者争いをした時代から、血筋が絶たれることなく続いてきてたんだ?
意外〜。
でもまあ、今更過去の話なんざ何も知らない子孫を祟ってもしょうがないでしょう。
諦めて昇天しようよ。
つうか、この場合って何だって主家の方を祟らなかったんだろ?
これってちょっと力を持ち過ぎた部下を割って共倒れ……までは行かなくても重臣クラスを半分とか三分の一ぐらい削って使いやすいレベルまで弱める為に、わざと後継者争いを起こす方向へ子供達を煽ったんじゃないの?
杉原家が今でもこれだけ栄えているって事は、主家の試みが上手くいかなかったんだろうけど。
ある意味、先祖の弟氏が兄の派閥の人間を殺しまくったのが正解だったのかもね。
その主家を恨まなかった兄派はちょっと単純過ぎたんかもねぇ。
まあ、これは単に私の妄想でしかないけど。
取り敢えず。
少年の悪霊に宥める想いを送り、浄化用魔法陣を展開させてちょっと強引にだけど昇天させる。
次の人生ではもっと平和に生きられると良いね。
『人』生になればいいけど。
誰か祟り殺していたりしたら畜生かも。
もっとも、飼い猫に生まれ変わるのは悪くなさそうだけどね。
虫に生まれ変わるほどの悪事はしていないと期待しておこう。
ついでに拓海氏の方の精神にも軽く触れる。
ペイントガンを振り回していたのが、実弾が撃てるようにモデルガンを改造して人間を殺したいとか思うような行動の前兆なら何か予防策を講じておく方がいいからね。
余計なお節介かも知れないけど、マジでやばい人なのかは一応確認しておく方が私のカルマ的にも良いだろう。
……と思ったのだが。
意外にも、ちょっとガキで捻くれているが本人は単に友達とのサバゲーの練習をしたいだけの様だった。
つうか、ターゲットにした岩が慰霊碑だとすら認識してなかったようだ。
木にペイントをぶつけるよりも岩の方がいいだろうと思って丁度いいサイズの岩を利用しただけ。
ちょっと考え足らずと言うか、観察力不足だが、懸念していたほど性根が腐っている訳ではないみたい?
なんか記憶をざっと読んだ限り、兄たちの様に一族の事業へ貢献することも求められず、取り敢えず一族の名に泥を塗らなければ好きな事をして良いと甘やかしと言う名の放置育児気味だったようで、何をやっても良いけど何かやれと期待されてもおらず、インターンやバイトをする必要もないから友人と楽しむサバゲーにのめり込んでいるだけ。
期待されないって言うのも切ないねぇ。
前妻との間に生まれた子供たちは誰かが一族を導かねばとそれなりに皆厳しく躾けられたのに、想定外に遅く生まれた末っ子は当主になる可能性はほぼ皆無なだけにどう育てれば良いかわからず、本人の自主性に任せると言う名の放任方針だったらしい。
虐待されるよりはいいけど、何をやっても良いよ〜と投げ出されるのも困るんだろうなぁ。
本人に打ち込める趣味とかがあれば良かったのにね。
まあ、一度苦しんで死ぬかと思ったのだ。
これが人生に関してもっと真面目に考え直す良い機会になったと期待しよう。