やっぱ後妻の子か!
「慰霊碑に封じ込まれている悪霊次第ですが、出来る限り慰霊碑に鎮めるのではなく、昇天して来世へ移行してもらえるよう、努力しますね。
まずは息子さんの方から取り掛かりますのでご案内をお願いします」
お茶を飲み終わった碧がそう依頼主に告げて立ち上がった。
まあ、私と碧で除霊できない悪霊なんてほぼ存在しないとは思うけどね。
と言うか、存在するかもだけど、居たらそれこそこの依頼主の一族が全員三が日が終わる前にミイラ化しているぐらい強いだろう。
考えてみたら。
悪霊の力が強すぎて、封印が解かれた瞬間に敷地内の人間が全滅しちゃって退魔協会へ依頼が出せないようなケースってあるのかな?
お正月みたいに一族が集まるタイミングでその血族を怨む悪霊が解放されちゃったら、遺産を相続する人もバタバタ死んで最終的に誰が相続人になるかで揉める事になりそう。
まあ、そこまで強力な悪霊なんて現世では居ない可能性が高いけど。
前回のケースの托卵児だった次男の子供みたいに、一族の血を引いていないから悪霊に狙われずに生き残った人って、実は本家の血を引いていないって事が生き残った事で判明しても相続する権利は残るらしいから、最終的には退魔協会へ依頼を出す人が現れるか。
一族の人間が誰一人託卵されなかったなんて事は、慰霊碑が敷地内にあるような金持ちで歴史があるような家系ではきっと無いだろう。
・・・これは私の金持ちに対する謂れ無い偏見かもだけど。
そう考えると、DNA鑑定で親子関係の否認が出来る時代なのに、子供が生まれて1年以内とかなんかそんな法律で決まった期間内じゃ無いと法律的に親子関係を抹消できないなんて、現代日本の法律ってちょっと理不尽だよねぇ。
前世だったら貴族の子供が託卵児だとバレたらあっさり勘当されて相続権を剥奪されたのに。
そうしないと家の乗っ取りが出来てしまうからね。長男なんかは生まれてすぐに神殿で親子関係を確認する貴族が多かったけど、次男以降をそこまで神経質に確認してなかった場合に、長男が事故や病気で死んだ後に慌てて確認して妻と次男が突然伝染病モドキで死亡する事もあったなぁ。
それはさておき。
玄関で出迎えくれた家令が案内してくれた部屋は、瘴気で部屋全体が暗くなっているような感じだった。
まあ、カーテンが半ば閉められていて部屋に光があまり入っていないって言うのもあるけど。
ペイントガンで慰霊碑を撃つようなアホでも、休める様に気を遣ってあげたのかな?
と言うか。
「子供が慰霊碑に悪戯したと聞いていたのですが」
ベッドの上に横たわる大柄な男性を見て、思わずドアの入り口で佇んでいる家令に尋ねた。
これって成人してない??
まあ、小学生とか中学生にペイントガンを持たせる非常識さがなかったと判明したのは良いことかもだけど。
「旦那様のご子息である拓海さまは今年で20歳になります。
本人の強い希望で普段は大学に通うために東京で一人暮らしをしています。年始は一族の一員として顔を出されますが・・・成人された他の一族の方々と話が合わないらしく、もっと若い子供達と一緒になって遊ぶのも嫌だと毎年お年玉を受け取るまで適当に一人で時間を潰しておられるのですが、今年はペイントガンを持ち込まれてその練習に明け暮れていたようです」
家令が無表情に情報を開示してくれた。
マジか〜。
親戚付き合いも碌にせず、お年玉を貰えるのだけを待ってるドラ息子って・・・。
「彼が後継ぎなんですか?」
一族の先が暗すぎない??
「いえ、拓海さまは後妻として入られた麻衣さまとの間に生まれたご子息ですが、お亡くなりになった前妻である優子さまとの間に既に社会に出てしっかり能力を発揮している後継者候補が三人いらっしゃいますので」
との事だった。
あっそ〜。
後継ぎにする必要もないから適当に甘やかして育てたら失敗したってやつ?
ちょっと同情するけど、これを機会に心を入れ替えて頑張るんだね。
折角実家が裕福なのだ。
そのお金のアドバンテージを、知識なり技能なりを磨くのに使って自分の未来を切り拓きたまえ。
まあ、それはさておき。
「じゃあ、除霊しますから」
出てって。
と言う私の声にしていないリクエストをちゃんとキャッチしてくれたのか、家令が一礼して下り、扉を閉めた。
「じゃあ、こっちは任せて」
こちらの情報収集と除霊を私がして、慰霊碑の方は碧が清める事になっている。
取り憑いて悪さしている方はまだしも、乱暴されて目覚めちゃっただけかも知れない慰霊碑に封じられていた、無念な思いを捨てきれなかった霊はそのまま碧に送ってもらう方が良いからね。
考えてみたら、慰霊碑で鎮められた霊ってお盆なんかはどうしているんだろ?
ちょっと興味があるけど・・・流石に観察させてくれって頼むのは無理だよねぇ。
今度それとなく遠藤氏にでも何か知らないか、聞いてみようかな。