危険な時代の到来?
「なんかさぁ、子供の方が慰霊碑とか御神体のヤバそうな雰囲気を素直に感じ取れて危険なちょっかいを出さないかと思ったんだけど、日本人って野生の本能が完全に消え失せちゃったのかなぁ?」
依頼主の所へ行く為の新幹線プラットフォームへ向いながら、碧に愚痴る。
2回連続で依頼の原因がアホなことをやった子供って……ちょっと日本の将来に危機感を感じる。
「最近は塾だ習い事だで本家の方へお盆にも戻らない家庭が増えたみたいだしねぇ。
お年玉が期待できる年始だけ集まるんだと、田舎の屋敷での常識みたいのを学ぶ機会無しで育つ子が多いんかも?
しかも今時の子供だったら野山や寺社とかで遊ぶんじゃなくって、家の中とか近所の公園に集まって携帯のソシャゲや◯witchとかで遊ぶだけなのが多いみたいだから、穢れとか神威とか感じる機会もなくていざ目にしても分からないんじゃない?」
碧がため息を吐きながら応じる。
あ〜。
「確かにゲームで遊ぶばかりじゃあ悪霊とか神聖な霊気とかに触れる機会がないし……ある意味、ラノベだったら退魔師とか悪霊が現代ファンタジーで出て来る話があっても、ゲームじゃあそれこそもっとホラーテイストなゾンビ系か、もっとファンタジーなRPGになりそう」
もう少し、親世代も子供を連れて霊山に登るとか、寺社を巡るとかすべきじゃない?
まあ、今時は大人ですら真面目に悪霊や守護霊とかの存在を信じていない人が多いから、そう言う教育を必要だと思わないんだろうなぁ。
「現代ファンタジー系なラノベを読み始めるのって中学生からなのかもね」
碧が応じる。
昔からの霊への敬意の代わりがラノベで培う警戒心か・・・。
厨二病満載そうでちょっと微妙。
「退魔師や超常の存在を隠す事にした明治維新の政府の人や、戦後のGHQの連中の決断は間違いだったんじゃ無いかなぁ」
昔の人はもっと超常な存在の危険性を肌で感じていたんだろうに。
今ではそれこそ肌で何かを感じても、鳥肌も頭痛も『気のせい』で済ませて不味いことをそのままやってしまっているっぽい。
「まあ、退魔の力は物証性が無いから・・・退魔師が実在する存在だと広く知られていたら今以上に詐欺とかヤバい新興宗教系が増えていたかも?」
碧が指摘する。
「ああ、それは確かにあるかもねぇ。
壺を買うように言ってくるのが一律詐欺じゃないとなると、騙される人は増えるかもね」
「日本で黒魔術師系や白魔術師系の退魔師が大々的に怪しげな新興宗教を興して無いのって退魔協会がそれとなく裏から妨害しているかららしいからねぇ。
単なる妄想系の詐欺師っぽいカルト宗教は放置しているのが微妙に笑えるけど。
どうせならそっちも潰せば良いのに」
碧がため息を吐きながら言った。
「退魔の力を悪用してないなら、理想を説くのを止める権利はないって考えなのかね?
どっちにせよ、子供がヤバい慰霊碑に悪戯しまくるのは何とかして欲しいわ〜。
……あと10年か20年もしたら、中途半端に残っている慰霊碑や守り神とかが暴発し終わって無くなると思う?」
戦後のどん底の後の時代に育った世代が旅立つかヨボヨボになって現役を退き、もう少し甘く、そして科学の全能性を信じながら育った世代が当主になって、霊的な物に対する敬意を払わなくなりつつあるのが今って気がする。
それこそ高度成長期ぐらいに生まれた世代なんて人口ボーナスと、日本人の勤勉な国民性と、世界の状況のお陰で日本が経済大国になったと信じている人が多いから、一族を見守ってきた守り神的な存在とか、一族を恨んでいるのをギリギリ宥めてきた悪霊的な存在とかを信じてない人の方が多そう。
不動産とかで問題になる悪霊の存在は信じても、自分の一族が関わる大きな存在なんて信じてないから一族の歴史も真面目に耳を傾けず子供にも教えてないんだろうなぁ。
「かも?
それはそれでちょっと寂しい気がするね。
まあ、スイッチ一つで暗がりが追い払えて、アプリで簡単に遠くの親戚に連絡がつき、電話一本で救急車も警官も呼び出せる世の中じゃあ未知の存在への畏れと祈りが薄れるのは当然かもね」
碧が言った。
「とは言え、何百年も残ってきた存在は数十年忘れられた程度でパワーダウンはしないから、報復は中々痛い事になるでしょ。
ある意味、そう言うのが全部消えるまでは却って危険な時代になるかもね」
歴史を忘れ捨てる様な生き方はちょっと切ないし。
やっぱ、もっとちゃんと一族の歴史をみんな真面目に子供へ教え伝えるべきだよね。
あけましておめでとうございます!
今年も宜しくお願いします




