蛟だった
「あの白尾さまって本当に元は白い蛇だったんですか?
それとも何かもっと大きな幻獣が蛇の形を取ってたとか?」
家に帰り、お茶を飲んでまったりしている時にふと碧が白龍さまに尋ねた。
確かに、それはちょっと気になるよね〜。
単にアルビノな蛇が人から祈られてお供え物を貰うだけで氏神レベルの力を身に付けられるとしたら、中々怖い。
つまりは変な宗教団体が祀る存在も同じ感じにパワーアップされるって事になりかねない。
まあ、今回は契約でお互いに縛られた相手だったからこそ契約違反の際に怒った報復の力を及ぼしやすかっただけで、関係のない第三者への脅威度はもっとずっと低いのかもだけど。
『あれは知り合いの龍の眷属になった蛟じゃ。
竜よりちょっと下ぐらいの魔素を持つそれなりな幻獣だからこそ、人間と一族の守り神になる契約なんぞ結べたんじゃ。
普通の蛇では例え人間側が神様に連なるモノだと誤認して祈ったり供え物を与えてたりしても受け取れる力は微々たるものだから、存在のランクが上がる前に寿命で死んでおる』
白龍さまが教えてくれた。
蛟ですかぁ。
イマイチ詳しいことは知らないけど、竜の亜種の一つっぽいね。
蛟って日本の伝説にちょくちょく出てくるから、昔繋がっていた境界門の幻想界側に沢山いて時々遊びに来ていたのか、もしくはあの白尾さまとやらが色々とあちこちで人前に姿を現して伝承に残ってきたのか。
まあ、複数いた可能性が高いかな?
ネットで話がガンガン広がる現代ならまだしも、昔の日本で各地に伝説を残すには複数居なくちゃ無理そうだ。
「へぇぇ。
でも、大槻家の守り神を辞めちゃったら、どんどん弱っちゃわないんですか?
幻獣って境界門を通って幻想界とかで魔素を補充しないと不味いんですよね?」
碧が尋ねた。
旅行に出るって言ってたから直ぐではないだろうけど、そのうち弱りそうだよね。
養鶏場にいた風鼬だって存在を維持できなくなって鶏を襲っていたけど、結局体が崩壊し始めていた。
あんな感じに知り合い(?)がボロボロになるのはちょっと嫌だな。
『一族を多少助けて、その代わりに長年祈りと供え物を貰っていたのならそれなりに収支はプラスだったと思うぞい?
それに、これから暫くはあの一族からの畏れが力になるじゃろうし』
白龍さまが指摘した。
そう言えば、畏れも祈りと同じで超常的な存在をレベルアップさせる力があるんだっけ。
それなら暫くは大槻家の人たちから力を受け取れそう。
とは言っても、喉元すぎればってやつで数ヶ月程度で忘れ去っちゃうだろうけど。
数ヶ月経つ頃には色々と事業とかが思うように進まないのに一杯一杯になっている可能性が高そうだし。
「何かを畏れたらそれが神に成り上がれるなら、強力な幻獣がもっと氏神さまとして地球に残っていそうなものですが。
意外と御神体の岩とかに同化して眠っている幻獣は多いんですか?」
やばい存在を畏れ祈るのは日本人の得意技だったらしいから、ちょっと強力な幻獣がきたら直ぐに拝まれてそう。
『無数の人間を噛み殺せるだけでなく、祈りや畏れを吸収できるだけの格がある存在は幻想界でもそうゴロゴロ居る訳ではないからの。
日本に流れ着いて、どこぞの神社や一族の氏神となった存在は少ないと思うぞ?』
白龍さまが尻尾を緩く振りながら言った。
どの程度の格が必要なのか不明だけど・・・そう多くはないんだたったらちょっと安心かな。
今日の白尾さまもそれなりに力があった。
あれとガチで戦って祓うのは厳しかっただろう。
白龍さまが話をつけてくれたから、戦わないで済んだけど。
ああ言うのが相手の場合、氏神さまレベルな存在のバックがない退魔師って『無理です』って依頼失敗を受け入れて戦略的撤退をする以外、選択肢はないのかな?
対話でなんとか説得できれば良いけど、怒っていたら難しそう。
悪霊ならまだしも、守り神から堕ちた祟り神だったら人間のロジックで動かないかも知れないし。
意外と退魔協会の仕事って奥が深いのねぇ。
・・・もしも今回の事件が普通に退魔協会へ依頼されていたら、協会はどうやって対処したんだろ?
まさか、そう言う時の白龍さまってことで、藤山家にゴリ押し?
退魔協会の殉死率ってどのくらいなのか、今度確認してみようかなぁ。
碧と一緒に依頼を受けている間は大丈夫だろうけど、怜子さんとか蓮くんが酷い目に遭ったりしないと確認しておきたい。
まあ、退魔協会だって人手不足だって言うのに無理な案件を回して失敗って事で契約不履行の違約金を払う羽目になった上に希少な退魔師を失うことは避けようとするだろうから、本当にヤバい案件はそれこそ碧みたいな氏神さまの愛し子を押し込むか、『無理です』って言って依頼を拒否するかだろう。
現実的な話として、依頼を拒否出来るのは限られた人数が被害を受ける場合だけの選択肢だろうけど。
まあ、超常的な現象のせいで人が大量に死んだとか、どっかが立ち入り禁止になったとかって話は特にはネットでも見ないから、その点ではこっちの世界は前世より安全そう?
前世では時折天災級のドラゴンとかが襲ってくるなんてこともあったからねぇ。
取り敢えず。
新学期が始まるまではのんびり寝正月を続けよっと。
取り敢えず、これでひと段落です。
明日は休みますが、明後日からまた宜しくお願いしますね〜。