お知り合いですか
「こちらです」
大槻さんに案内されて奥にある離れへ進み、中庭っぽい場所へ案内された。
「終わりましたら声をお掛けますので、本邸の方で待っていて下さい」
碧が中庭に出る掃き出し窓を開きながら大槻さんに言った。
祓うにせよ、説得して立ち去らせるにせよ、依頼人がいると邪魔だからね。
変に口出しされて相手の怒りを煽られても迷惑だ。
しかしなんともねぇ。
離れの素材とかは立派そうな木材を使っているのか、綺麗な木目の無垢材や高級そうな壺とかが所々に置いてあったのだが・・・掃除とかに手を抜いている様で柱も微妙にくすんだ感じだし、所々に壺とかを移したのか違和感のある空きスペースがある。
マジで一族の守り神的な存在に対する敬意が薄れていたみたいだね。
つうか、嫁姑争いの余波で大槻さんの義母がこう言う事への関与を断固拒否するにしても、義父は一族の当主(か次期当主)としてちゃんとやるべきでしょうに。
本人が毎日できないにしても、月1程度でも顔を出してしっかり真摯に祈りを捧げていれば使用人とかも、もっとちゃんと真面目に掃除をしていただろう。
と言うか、壺とかを撤去してもっと人が見る場所に動かしている(と思われる)時点で、敬意は薄れまくってるか。
いや、もしかしたらちゃんと感謝の意を捧げないからご利益が下がってきて、資金繰りが苦しくなって壺を売っちゃった可能性もあり?
ちゃんと祀らないから効果が薄れたのか、薄れたから祀る気が減ったのか、卵と鶏の関係に近いが、この場合はほぼ確実にちゃんと祀ってなかったのが始まりだろう。
義祖母とやらが入院して、お供えとか感謝の念がガクンと減ったんだろうねぇ。
中庭には微妙に過去の神聖だったかも知れない気が漂っているが、今では怒りと怨みで思わず咽せちゃいそうな雰囲気だ。
流石にこんな雰囲気の場所でシーソー遊びをしたとは思えないから、子供達が悪戯をして岩を壊した時点で怒りが爆発したんだろうなぁ。
で。
中庭を見回したら、何やらグレーっぽい存在が割れた岩の上にトグロを巻いていた。
『白尾ではないか。
久しいの』
突然現れた白龍さまがあっさりとそのグレーな存在に声を掛けた。
おや?
知り合いらしい。
『白龍さま!
お久しゅう御座います』
尻尾をゆっくり振りながらシュ〜〜っと言う感じの霊的な威嚇音みたいの発していた白尾とやらが、尻尾を動かすのをやめて白龍さまの方にぴょいっと首を向けた。
「お知り合いですか?」
碧が白龍さまに尋ねる。
『うむ。
知り合いの龍の眷属じゃったの。
暫く見なかったからあやつと一緒に幻想界に渡ったのかと思っておったぞ?』
白龍さまが碧に応えてから、白尾とやらに声を掛ける。
『此奴らの先祖にちょっと黒龍殿の眷属と喧嘩をして弱っていたところを助けてもらったので、一族の守り神として祀る代わりに助けると言う契約を交わしてこちらにおりました。
どうせ人間なぞ約束を直ぐに忘れると思っていたら意外と律儀者が多く、当初の予定より長くこの地に居たのですが・・・』
白尾さま(守り神だったならそう呼ぶべきかな?)がため息を吐いた。
おや。
元々契約がそのうち破られるのは想定内だったんだ?
つまりさっきまでの怒りは、今までずっと律儀に約束を守ってきたのに今になって破られたって言う失望感みたいなものなのかな?
白龍さまと話をしている間にさっきまで充満していた怒りや怨みがかなり薄れてるし。
『ふむ。
こちらが儂の愛し子である碧じゃ。
こっちは愛し子と一緒に仕事をしている凛と言う。
お主が一族のものに怒りをぶつけた結果寝込んだ連中を助けてくれと碧達が呼び出されたのだが・・・もう気が済んだかの?
何か壊さねばここを立ち去れぬと言うのだったら相談に乗るが』
白龍さまが尋ねる。
なんか知り合いが相手だからか、今回は随分と白龍さまがアクティブに関わってくるねぇ。
やっぱ古い知り合いは、知り合いの眷属でも懐かしいのかな?
『そうですねぇ。
私が宿っている岩を投げるなんて言う不届きな事をした童や、契約を忘れて自分たちの能力で今の繁栄があるなんて思っている愚か者達を懲らしめてやろうと思いましたが・・・白龍さまの愛し子の為となったらここで引きましょうか。
どうせ今までの契約が切れた反動で暫く体調不良に苦しむでしょうし、私が押し留めていた悪意や怨みが押し寄せてくるようになった時にそれに対処できずに没落するでしょうから、無理にここで罰する必要はありませんな』
ひょいっと岩から飛び立ちながら白尾さまが言った。
龍の眷属レベルでも、自由に宙に浮かべるんだねぇ。
『幻想界へ帰りたいなら儂の境界門を使うか?
あやつの門は暫く前に閉じてしまったが』
白龍さまが白尾さまに問いかけた。
怒りと怨みが薄れたらちょっと神聖さがある感じになったから、マイナーな氏神程度の力はありそうだけど、このレベルでは自力で異世界へは渡れないのか。
『暫く久しぶりにちょっと世界を見てまわりたいと思いますが、それが終わったらお言葉に甘えさせて頂いても宜しいですか?』
白尾さまが言った。
『勿論じゃ』
白龍さまが鷹揚に頷いた。
ふむ。
取り敢えず、忘れ去られて怒りに我を忘れた一族の守り神だった存在と戦って浄化させる必要は無くなったみたいね。
ラッキ〜。