女相手にハーレム物の良い所を語るなよ。
「「「カンパ〜イ!」」」
お試し入会の筈だったサークルでは『早速皆んなでどんな技術を試すか、意見を戦わせましょう!』と言われてどこぞの教室に連れて来られたのだが、何故かいつの間にか歓迎会という名の飲み会に突入していた。
大学生と言うのは『大人』の一員になった事が嬉しくて集まれば飲み会になるのか(とは言え、2年浪人していない限り新入生はまだ酒は飲んではダメな筈だが)、飲み会で仲良くなって『お試し』を『本入会』に変えようと言う下心があるのか分からないが、空いた教室でちょっと話し合ったと思ったら場所が飲み屋に移動になっていたのだ。
「凛ちゃんはどんなラノベが好き?
俺は『転生してゴメン』がお気に入りなんだよねぇ。
やっぱり転生したら内政チートするのがお約束でしょう!」
未成年である私になみなみとジョッキいっぱいのビールを注ぎながら先輩らしき男が声を掛けてくる。
美人さんが客引き・・・もとい勧誘をしていたからか、それともラノベの内政チート好きは男性の方が多いからかは知らないが、来ている学生は男女比6対4ぐらいだった。もしかしたら7対3かも知れない。
お陰で爽やかなつもりらしい笑顔の男子学生がひっきりなしに寄ってきて、ウザイ。
寒村時代の前世の夫は誠実な人間だったし、村全体が貧し過ぎて祭りの時ですら良い気持ちになる程度にしか酒を飲めなかった。
だから最初の黒魔導師としての人生が酒に関してトラウマになっていると気が付かなかった。
大学に入ってから判明したのだが、酔っ払って意味もない自慢話を大声でしている男どもの側にいると自分を碌でもない悪事に使いまくった王族や高位貴族のヒヒジジイどもを思い起こさせられ、非常に不愉快で神経を逆撫でされている様な気分になる。
覚醒しても高校時代は特に男性全般に嫌悪感を感じていなかったので気がつかなかったのだが、自分はどうも前世を思い出させる状況になると男嫌いの傾向が強くなるらしい。
なので。
「『転生してゴメン』ですか。私、ハーレム系の話は嫌いなんですよねぇ」
敢えて空気を読まずに正直に答える。
人生は長いし、一度きりでも無いのだ。
不愉快な人間に付き合っていたらキリがない。
サークル如きで不快な男に時間を掛ける必要はあるまい。
大体、この『転生してゴメン』、子供の頃から過干渉な母親に良い学校に行けと尻を叩かれ続けたガリ勉君が、社会人になったらパワハラ親父に行き当たってあっさり心を折られて自殺したところ、何故か異世界に転生するというかなりツッコミどころ満載な話なのだ。
しかも貧乏農家の三男に生まれたのにどんどん都合の良い内政チートで村を栄えさせ、それで領主に認められて王都に連れられて行く途中で賊に襲われていた侯爵令嬢を助け、その心意気と知識に感服した令嬢と侯爵に請われて婿入りし、更に婿養子の癖に色々やっている間に都合良く助けたロリ娘、エルフと獣人の少女3人を第2〜第4夫人として迎えるというご都合主義と男の夢だけで出来上がっているような話なのだ。
高校時代にもクラスで話題になっていたので一応読んだが、あり得ないことだらけだ。
あれが好きと公言する男なんて、本性が知れると言うものだ。
「あ、あっちでちょっと知り合いが呼んでいるみたいなんで、失礼します」
私の返しに言葉もなく絶句していた先輩に軽く挨拶し、奥のテーブルでもう少しまともな事を話し合っていそうなグループのところにお邪魔する。
「やっぱり石鹸でしょう!
ちゃんと臭く無い固形石鹸を作れれば高級路線で売れるし、臭くても一般市民の衛生環境の向上には役立つわ!」
若い女性が主張していた。
「う〜んでも、まずは石鹸を作る資金を準備する為にお洒落なバスケットとか籠を編むのはどう?
あれだったら街の外に生えている適当な葦とかススキっぽいので作れるだろうし。
あ、私は法学部に新しく入った長谷川 凛よ、よろしく」
自己紹介しながら話に加わった。
こちらだって、覚醒してから色々と金儲け手段に関しては考えてきたのだ。
アイディアは色々と練ったので、是非とも他の人と意見を交わしたい。
現実的な話として、中流階級の上層あたりに生まれれば良いが、貧しい職人家庭や寒村の農家に生まれたら高級路線の石鹸を作る為の素材をまず入手出来ないし、それを買う購入層へのアクセスも難しい。
ネットで内政チートグッズの手作りサイトを見て回った結果、もっと地に足をつけた金儲けが必要だという結論に達したのだ。
第一、前世の寒村の様にムクロジに近い植物が大量に生えていて、それを石鹸の代用品として使っている地域もある。
少なくとも脂臭い安物バージョンの石鹸はムクロジが豊富に入手出来る地域では売れないだろう。
「そっか、作り方を売り込むにしても試作品を作る為の資金が必要よね。
貧しい農村生まれや孤児はラノベあるあるだけど、食事にも困っているような困窮家庭に生まれたら確かに段階を踏まないと石鹸は難しそうね。
あ、私は経済学部の藤山 碧。
よろしくね」
石鹸を主張していた藤山さんが納得した様に唸りながら自己紹介を返してくれた。
うん、こっちのメンバーの方が気が合いそう。