血族との契約
依頼人の家は、郊外・・・と言うか田舎?にある馬鹿でかい屋敷だった。
日本家屋の本邸と、複数の一戸建てサイズの離れがあり、更に奥に大きな蔵も見えている。
ちょっと山奥っぽい場所だけど、立派だ。
戦国時代からの領主って感じなのかな?
江戸時代だとあちこちの大名が領地変えを受け入れさせられたらしいけど、大名レベルまでいかない中堅どころの地方の名家だとそのまま地場に根を張って残って居たのかな?
まあ、それはともかく。
新年で休んでいる人が多い上に何やら祟りで一族が倒れたせいか、車を降りて本邸に近付いても妙な感じに静かだ。
風すらも息を潜めているみたいな雰囲気。
風にまで影響を及ぼせる幻獣系なのか、それとも単なる偶然か。
悪霊だって多少は気候へ影響を及ぼせるとは言え、風を止める方向に動くことは滅多にないからなぁ。
怒りをキツい風の変換する悪霊なら時折いるんだけどね。
「取り敢えず、先に息子さんの所へ行けますか?
正確に何をしたのか聞きたいですし、体調も見てみたいですから。
悪霊の残滓が残って居たら更に有難いですし」
碧が玄関に入って靴を脱ぐのももどかしい感じで右に進もうとした大槻さんへ声を掛けた。
「分かりました、こちらです」
足を止めた大槻さんが、左側へ方向転換した。
考えてみたら、こう言う旧家だと客は床に布団を敷いて寝るんかな?
それとも客室とベッドがあるんだろうか。
今時の子供だったらベッドじゃないと慣れなくて眠れなそう?
と言うか、家で布団で寝てる人って今じゃあ少なそう。
旅行に行って旅館や温泉宿に泊まると布団を敷かれる事は多いけど。
和室の畳じゃ無いと、フローリングやカーペットの上に布団を敷いて寝るのってなんかこう・・・不潔そうな気がする。
まあ、畳だってフローリングやカーペットと同じだけ埃やダニが溜まりそうだけど。なんか印象が違うんだよねぇ。
海外のFutonとか言う、薄いマットレスが背の低い木製のフレームに乗っていて広げればベッドとして使えるし、折り曲げれば腰掛けられる家具だったら部屋のスペースを取らずにソファとベッドを両立出来るかもだけど、それだって毎日折り畳むのって面倒そう。
まあ、それはさておき。
そのまま廊下を奥へ進み、別の離れっぽい建物の2階に上がって洋室に案内されたら、点滴を打たれている子供がベッドに横たわっていた。
ガッツリ祟られてるねぇ。
完全に意識不明な様なので、軽く形だけ声を掛けた後にそっと少年の頭に手を当てて、記憶と祟りの詳細を読む。
記憶に関しては、まあ大槻さんの言っていた事と大して違いはなかった。
シーソーの台に使っていた後に、今度は梃子っぽくして物を打ち上げるのに使おうとした挙句、重い物を落とせばより高く飛ぶと思い至り、別の岩を梃子の支点に使って慰霊碑(?)を従兄弟達と一緒に三人がかりで持ち上げて投げ落とすと言う暴挙をしていたのはちょっと想定を超えてたけど。
そうだよねぇ。子供が乗っているシーソーの支点にした程度でそう簡単に岩は割れないだろう。
子供三人で持ち上げられる程度の岩だから極端に大きい訳ではないけど。
『どうやら感謝の念を捧げる岩を割った時点で何やら一族との契約違反が決定的な物になったのか、少年はガッツリ祟られてるし血と契約を辿って他の一族の人間もガンガンやられているみたい』
碧に念話で伝える。
碧もベッド元に来て、少年の胸の上に手を置いた。
『この子だけ先に祟りを解除するのは無理っぽいね。
まあ、直ぐに死んじゃうとか言うほどの事はないみたいだし、身体にやばい影響が出るまでまだ時間の猶予がある様だから、祟り本体の方へ行こうか』
碧が返してきた。
だねぇ。
笑えることに、少年の記憶を更にしっかり視て祟られた時の様子を確認したら、どうやら従兄弟のうちの一人は託卵児だったのか、祟りがかなり緩い。
直接岩を壊す行為に参加しているから祟られているが、契約に関わった血族ではないのか彼だけは神社で厄落としをすれば平気になる程度だ。
皮肉にも、少年の記憶によるとあれは本家の次男の息子だから、祟りを解除できなかったら将来的には彼が家を継ぐ可能性が高そうだ。
まあ、超常な存在との契約が破られ加護が祟りに反転している一族なんぞ、子供達が成人する頃には継ぐ様な富も残っていない可能性が高いが。
今まで繁栄を支えてきた存在はもう何をしようと許してくれないだろう。
私らの介入で祟る事をやめるとしても、幸運の前借りっぽい状態を加護で作り上げていたのだ。
加護がなくなったら今までの前借り分の運を返す羽目になるから、何をやっても裏目に出る一族になりそうだ。
それに仮に幸運の反転が無かったとしても。
加護が無くなるだけでも、何をしてもそれなりに上手くいくことに慣れていた一族はどちらにせよ没落だろうねぇ。
「この子は直接的な加害者だった上に、契約を結んだ血族の一人なので、大元の白蛇さま(?)を祓ってこの地から立ち去って貰わないと祟りだけをここで祓うのは無理ですね。
壊された岩の方へ行きましょう」
碧が大槻さんの方を振り返って言った。
何百年も契約に基づいてちゃんと一族を助けてきたからこそ、こんな豪邸が今でも残っているんだろうに。祓われちゃうなんて可哀想。
でも、一度壊れた信頼関係はどうしようも無いからねぇ。
せめて穏やかに昇天できる様、頑張ろう。
碧ならきっと大丈夫!




