歴史は重要
「考えてみたら、お正月ってお盆とツートップで旧家の本家に一族が集まる時期なんだから、親族の何も分かっていない子供とかが悪戯をする可能性はダントツで高いよね。
その時期に非常用連絡先すら用意しておかないなんて、退魔協会も怠慢じゃない?」
鎌倉駅でのピックアップに合わせた時間で家を出ながら、碧にコメントする。
命に関わる事もある半公共的なサービス業なんだから、緊急時の連絡手段は年中無休で提供しておくべきじゃないの?
退魔協会は国にお墨付きを貰った、ほぼ半官半民な組織でしょうに。
まあ、それを言うならお役所なんかはガッツリ休みを取っているんだから、公共だったら年中無休すべしとは言えないだろうけど。
でも消防とか警察は一応いつでも緊急通報に応じるよね?
・・・とは言え、お金をとっている時点で退魔協会は公共サービスからは一線を画しているか。
「まあねぇ。
なんか、昔は一応年末当番みたいのがあったらしいんだけど、緊急用って事はしっかり調査とかもする暇がないじゃない?
調査されると都合が悪い案件なんかを態と三が日に持ち込んで、除霊が上手くいかなかったらイチャモンつけてどう考えても1日や2日で起きたわけじゃない穢れや悪霊被害まで格安で対処させようとする旧家がほぼ毎年、しかも複数出てきていたらしくて。
流石に当番だった退魔師個人にそれを対処しろとは退魔協会も言わなかったらしいけどストレス値が凄かったらしくて、とうとう退魔師側がブチ切れて絶対に年末当番は断るって皆でストライキしちゃったらしい」
碧が教えてくれた。
「・・・もしかして、ストライキを裏で糸を引いていたのが碧のお父さんだったり?」
「うんにゃ。
独身時代のお母さん。
なんかその関係でお父さんと出会って付き合う様になったらしい」
ちょっと苦笑しながら碧が教えてくれた。
流石に歴史のある神社の宮司一族に年末年始の緊急対応当番は押し付けないか。
若い女性も一人でヤバげな案件に対応する羽目になる様な当番をさせるなと言う気もするけど、そう言う意味では退魔協会って悪い意味で男女平等だよね。
女性蔑視っぽい男性優位な意識もろだしな癖に、仕事に関しては男と同じだけ女でも出来るだろうって押し付けるんだから、矛盾してるよね〜。
確かに魔力に男女差はほぼ無いから、妊娠中で悪阻に苦しんでるんでも無い限り退魔の能力に男女差はないだろうけど。
でも、そう考えたらもっと男女平等に退魔協会の幹部にも女性が居るべきだよね。
政治家とかとの付き合いや、頭の固い旧家の依頼とかが多いから、女性だと舐められるとか男性側にとって都合が良いことを言って男を優先的に昇進させていそうだ。
まあ、それはさておき。
「ヤバい案件をイチャモンありきで押し付けてくる旧家も困ったもんだけど、本当に緊急事態になった時に退魔師に連絡がつかないのも困ったもんだね」
呪詛とかだって、マジでヤバいタイプだったら2、3日で死ぬ可能性はあるのだ。
年末の31日の休みも含めると、4日間はフルに連絡が取れない期間っていうのは危険だよね。
と言うか、呪詛で誰かを殺そうと思っているなら年末年始を狙うべきなのかぁ。
病院へ救急搬送されても治療をするのは若い見習いもどきの可能性が高そうだし、大手の病院にいるかも知れない白魔術師系の退魔師も年末年始は休んでいそうだ。
神社とかだって人混みが凄いから呪詛で体調不良だったらお参りに行かなそうだし。
まあ、反対にある程度歩ける状態だったら普段は神社になんて行かない人がお参りに行くことでうっかり呪詛返しを喰らう可能性もあるかもだけど。
「本当に古い有力な家だったら退魔師と個人的に付き合いがあることが多いから、退魔協会が休みでもなんとかなるでしょって言う考え方なんだろうねぇ。
今回はその頼みの綱な相手が旅行に行っちゃっていたのが想定外だったみたいだけど」
碧が肩をすくめながら言った。
そう考えると、退魔協会が年末年始にしっかり休んでも被害を受けるのは一般人寄りな人だけって想定なのかな?
普通の一般人だったら、ヤバい呪詛を掛けられたり危険な慰霊碑や曰く付きな骨董品が家にはない可能性が高いって考えなんだろう。
以前の兄貴達みたいにスキーで慰霊碑を壊す不幸なバカも稀にいるんだろうけど。
「しっかし、何だって子供が壊せる様な脆い慰霊碑なり危険な骨董品なりを家に置いておくかねぇ?
さっさと祓っておくなり厳重に隔離するなりすれば良いのに」
子供って何故か不思議と入っちゃいけない所を見つけ出して悪戯する生き物でしょうに。
そんなのが彷徨く事もある家に危険物を放置しちゃあいけないよ〜。
「定期的に祈りとお供え物を捧げておくと一族に繁栄を齎してくれるって言う系統のモノも多いからね。
そう言うのが忘れ去られて感謝の念も送られず、おざなりに放置されると危険度が上がっていくことが多いから、今回もそう言うケースかも?」
碧が指摘した。
あ〜。
今まで散々助けて貰ってきたのに、科学の時代になったら迷信だと切り捨てて放置ってよくありそう。
一族の歴史はちゃんと真面目に内部では周知して重んじないと。
うっかり外で自慢したり、持ち出して友達に見せようとかしかねない子供はまだしも、大人はちゃんと過去の一族の習わしの重要性を理解して、しっかり感謝と祈りを続けないと。
退魔師の実在を知っているなら、一族の守り神的な霊とか座敷童的な存在だって居てもおかしくないだろうに。
それともプライドから『自分の一族は超常的な存在に助けられなくても成功できた』と思いたい心理が働いて、感謝するべき相手を忘れたくなるのかね?
とは言え、よっぽど我慢できないぐらい怒りが溜まっていない限り、子供が近づいてくるだけでも放置よりはまだマシって思ってくれそうなもんだけど。
壊すとか何か不味い悪戯をするとかしでかしたんだろうねぇ・・・。




