自分達だけが住民じゃないんだったね
「よくラノベで、ダンジョンが突然地球に現れた時にそれを封鎖する様な建造物を作ると吹っ飛ぶって設定があるじゃん?
あれって考えてみたら魔力を封じる様な素材でやった場合は境界門から漏れる魔力量次第では魔素濃度が危険なぐらい高まる事もあり得るかもだけど、普通のコンクリでの物理的隔離だったら大丈夫だと思わない?
それともやっぱダメなのかな?」
境界門の対処を専門らしきおっさん達(女性も混じっていたかもだが白い防護服はユニセックスな感じで不明だった)に任せ、帰路についた私たちは帰りのレンタカーの中で境界門についてだべっていた。
「う〜ん、昔だったら境界門から出てくる妖を足止め出来るだけの強度で石を積んで建造物を作るのが難しすぎてやらなかったんだろうけど、確かに今だったら出来そうだよね。
とは言え、金網じゃあネズミとか虫サイズの異世界生物が通り過ぎちゃって意味がないだろうから、しっかりコンクリで隙間なく覆う様な小屋っぽいのを山奥に作るのはそれなりに大変そうだけど。
ちなみに、魔力持ちな動物や魔物だったら魔力の籠っていない建造物をあっさり壊せるとかってあるのかな?」
碧が逆に聞いてきた。
ふむ。
確かにラノベあるあるな設定で、魔力の籠っていない素材は魔力持ち相手に脆弱であっさり破られると言う話はよく見るね。
前世では全ての素材に実質魔素が籠っていたから、ほぼ全く魔力の無いコンクリが魔力を込めた攻撃に対してどうなるのかはちょっと不明かも。
とは言え。
「私が腕に魔力を這わせて壁を殴ったところでぼっこり穴が開いたりしないと思うから、魔力が籠ってなきゃダメ設定はフィクションな気がする。
まあ、実際に試したことは無いから後で帰ったら実験してみよう」
ある意味、腕や足に魔力を込めれば壁や扉をぶち壊せるとなったらいざという時に便利そうだ。
「それに考えてみたら土属性の魔力持ちな魔物だったらコンクリをザリザリ削れるかも?」
碧が更に付け加える。
あぁ。
確かに、土属性の適性持ちだったら石やそれに近いコンクリを魔力で影響するのは可能そう。
実際に前世では土魔術師が山をくり抜いてトンネルを作ったりするのに動員されていたから、コンクリの壁も山と同じ扱いでくり抜けちゃうよね。
人間の魔術師が帰ってこれないと言われている境界門に自分から入ることは無いだろうが、土属性な魔力持ちの魔物や動物にはそれなりに土を掘るのが得意な種類もいたし、そう言うのは地中の岩とかも何らかの方法で排除できていたのだ。
コンクリもダメだろう。
「そう考えると、ある意味壁を作るよりも昏睡結界とかを張らせてカメラで監視しておいて、結界に触れて侵入者が昏睡している間に殺すなり無理やり境界門の向こうへ押し戻すなりした方が良いのかもねぇ」
とは言え、常時昏睡結界を展開するだけの魔力の消費はこの世界じゃあ厳しいだろう。
私クラスの魔術師を交代制で貼り付けなきゃいけないとなったら現実的じゃ無いよね。
あれ?
「え、じゃあ『適当に壁で囲ってカメラで監視』って『多分危険な魔物は来ないだろう』と言う希望的観測でやっている実はちょっと穴だらけな対処な訳??」
危険じゃね??
「まあ、多分そう言うやり方で今まで大丈夫だったから、今回もそれで行くって感じなんだろうねぇ。
世間的にほぼ認知されていない現象に対処する為に費やせる予算は限られているだろうから」
碧が肩を竦めながら応じた。
あ〜。
昔はそれこそ完璧な対応なんか出来なかったけど、それで大丈夫だった。だから今もその程度で大丈夫だろうって考え方かぁ。
確かに、異世界側の魔物や生き物にしても境界門は潜ったら帰ってこれない危険な穴って認識されてるっぽいから、自発的に入ってくる様なのは少ないんだろうけど・・・今のグローバル化した世界で適当な対処をしてたら、運が悪いと全世界でパンデミックになったり、世界が滅びたりしかねないんじゃ無いかなぁ。
「なんかこう、運に任せ過ぎじゃ無い?」
実際に、今回だってヤバい蛭もどきが入ってきたんだから。
あれがもっと数が多くて、死に絶える前に鹿の群れにでも取り憑いて、どれかの個体でこっちの世界に適応できる様な変異が起きたりしたら・・・マジでSF映画みたいな世界崩壊の危機だって起きかねなくない?
今だって蚊は世界で一番人間を多く死なせている虫だって話なのだ。
そんな感じに人間なり動物なりをガンガン害する寄生虫とか病原菌が爆誕したらヤバいだろうに。
もっと能動的に、境界門を潰す様に研究とかしたらどうなんかね?
それとも、白龍さまはあっさり前回のアホが通った境界門を崩壊させたけど、人間には無理なのかな?
「結局さ、グローバル化した現代社会だったら・・・日本だけ神経質になって完璧を期しても他の国でやらかすかも知れないんだから、そこまでお金をかけてもしょうがないじゃんって話らしいね〜」
碧がポツリと言った。
マジか。
確かに一理あるけど。
ちょっと知りたくなかった考え方だぞ。




