互換性は重要
「なんかこう・・・妙に肉が消えてる感じだね」
碧がカバもどきの死骸に出来るだけ近づかない様に覗き込みながら言った。
「本当にね。
肉を食いちぎられたとか、虫が食べたとかって言うんじゃ無くて、なんかこう・・・映画で見るヤバいリッチみたいのが魔力の元のマジックオブジェクトを破壊されて一気に白骨化する途中みたいな感じかも?」
もしかして、魔力頼りな動きが前提な生き物が魔素が薄い世界に来ると、こんな感じになるの??
カバもどきはこっちに来て直ぐに意識を失って死んじゃったって言うけど、なまじ体にたっぷり魔力があって直ぐに死ななかった場合、徐々に体がスカスカになって生命が維持できなくて死んでいくのが自覚できちゃったりするのかな?
自分がそんな目に遭うかもと思うと、マジでホラーなんだけど。
考えてみたら、フェンリルは一応大丈夫だったけど子は死にそうだったし、あの養鶏場に来てた風鼬はヤバいことになっていた。
あの風鼬のチラチラ消えそうな感じがそのまま死ぬとこんな風に不自然に早く風化するのかな?
あの風鼬は白龍さまがさくっと灰にして風に撒いたから、放置したら体がどうなったかは知らないんだよねぇ。
そう言えば、境界門を通る時に体がズタズタになる事もあるって言っていたから、それで傷付いて更に早く死ぬことになったのかもだなぁ。
人間が無事に境界門を超えてくることが少ないって聞いただけで、どう言う条件だとズタズタになるのかは聞いてないが。
あの厨二病なアホに付き合わされて危うく死にかけた婚約者の人は特に傷を負っていなかったから、一方的にだけ通れて帰れないタイプの境界門だと通る時に傷付かないとかなのかも?
両方向に進める境界門だと魔力の流れが一方的で無く乱れがあって、通る際に傷を負いやすいとか。
まあ、生命力を吸われて動けなくなる様な蛭やワニもどきが待ち受けている様な異世界へ繋がる境界門を行けるとしても通る気はないのでどうでも良いっちゃあ良いが。
「確かに。
想像は色々出来るけど、取り敢えず現実問題としては殆ど何もはっきりは分からないって感じだね。
退魔協会に投げて、それなりなサイズの生き物が通って来たってことは別のがまた来るかもだし、来た際に変な病気なり寄生虫なりを持ち込む危険はないんですかね〜っとだけ言っておこう」
諦めた様に碧が背筋を伸ばしながら言った。
「だねぇ。
色々実験したり触って調べたり出来るならもっと分かるかもだけど、イマイチどの程度触っても大丈夫か分かんないし。
慣れてると思われる退魔協会なり政府なりに任せよう」
政府と言うか官僚とか役人と言うべきかな?
政治家はちょくちょく変わっちゃうし政争に忙しい様だから、あまり信用出来ない。
お役人がそこまで素晴らしいとも思わないけど、継続性は政治家よりありそうだ。
最近は公務員になりたがる人が減って来ているし、一流大学出とかの『出来る』若者は国家公務員になって国を動かそうとするよりも起業しようと思うことが多いらしくて、役人になる人材の質が下がってると言う話も聞くが。
まあ、切れ者じゃ無くても、やる気があればしっかり国を守れるだろう。
多分。
◆◆◆◆
碧が電話して1時間後ぐらいに、ヘリで政府と退魔協会の人が現れた。
駐車場のところに下り立ち、あっという間に人を襲う熊が出た可能性があるとか言って飼い主達を追い出して駐車場を閉鎖した。
人喰い熊なんて言ったらそれもニュースになってSNSで炎上し、怖いもの見たさにアホが集まるんじゃ無いの?
それとも政府が関与していたらそう言うアホが危険に突っ込んできそうな書き込みは即削除させる事が可能なのかな?
「いやぁ、ありがとうございました。
ペットがうっかり入っていって、愛犬が行方不明になった飼い主まで探している間に踏み込んだりしたら面倒な事になりましたし、ヤバい生き物が出て来たらそれはそれでパニックになるところでした」
駐車場を封鎖し終わったところで白い防護服(!)みたいのを着た連中が境界門の方へ行き、彼らを案内し終わった私達へスーツを着たおっさんが声を掛けてきた。
「生き物がこっちに入ってきた場合って危険な寄生虫や病原菌が拡散するリスクはどのくらいあるんですか?」
あの白い防護服を見る限り、それなりに危険性があるかもと思っているっぽいよね。
でも、そう言う話を特に聞いた覚えは無い。
それとも新型で危険な鳥インフルエンザが発見されたとでも言って周囲を封鎖して殺菌しまくるのかな?
牛や豚とか自然の鹿等をガッツリ殺しまくって焼却処分したって言う話はあまり聞かないが。
鳥だけだよね、大量処分の話がちょくちょくニュースに出てくるのって。
牛は鶏と違って種が近い生き物が飛んで来ないから伝染病に罹りにくいんだろうけど、鹿とかから病気を移されたりしないのかね?
「ある程度互換性が無いと、異世界の病原菌や寄生虫もこちらで繁殖出来ないようなんですよ。
ですから地球とかなり環境が違う世界と繋がった境界門だと危険性はかなり低いので、今回のあの変な死骸から鑑みると大丈夫かもと思っています。
境界門が近いうちに閉まるか見張って確認しておき、閉まらない様でしたら封鎖処理をしてカメラでモニターする事になる可能性が高いでしょう」
おっさんが言った。
なるほど。
生態が違いすぎるとこちらの生き物の血や肉を摂取してもちゃんと栄養分として活用できないのか。
まあ、確かにあんな小さな蛭なのに中型犬を昏睡状態にしちゃうって、危険だけど目立ち過ぎるから人知れず寄生して数を増やすのには向かないよね。
ハンター君には良い迷惑だったが。




