封印
「退魔師は超常的な力を持つことで幾らかの特権を認められ、所得も一般労働に比べると高くなります。
ただしその反面、一般の方は超常的な力に対抗できないことが多いので能力者として自覚していた人間が意図的にその力を使って他者を害した場合、一般人の犯罪行為よりも厳重に罰されますし能力の封印も対応処置の一つとして行われます。
通常ですと退魔協会による検査で能力の有無がはっきりする前のやらかしは注意程度で大目に見られることが多いのですが、今回は悪質かつ意識的な能力の使用による危険行為への誘導、及びその結果として死者を含む人身事故が起きたので、厳罰の方はまだしも能力の封印は必要でしょう」
遠藤氏が説明するように宣言した。
そう言えば、検査に関する規則は読んでいたが、検査前にやらかした場合の罰則って見てないな。
ケースバイケースって事で明記してないのか、それともあの分厚い規則書の後ろの方にあるのか。
ある意味、何をやったかもだけど、どんな性根な人間なのかが今後の危険性に大きく関わるからね。
そこら辺はガチガチな規則ではなく、現場の判断なのかな?
「うむ。
意図して友人に飲酒運転をするよう意思誘導をする様な人物は退魔協会へ迎えるのに値しないし、民への危険性が高すぎるだろう。
封印は必要と思われる」
沖田氏がちょっと形式張った感じに賛同した。
封印する時に複数の術師の判断のもとに行うって決まりでもあるのかな?
二人の合意で足りるのか、私と碧には声明は求められず、そのまま沖田氏が高階尊の頭を再度鷲掴みして、集中した。
お。
能力を封印しているのってこう言う風に見えるんだね。
前世に習ったやり方だと、力の出口とコントロール器官を焼き切る感じなので本気でやるならそれなりに魔力が必要だった。現世でもやり方にあまり違いがないのか、ガッツリ沖田氏が能力を注ぎこみ・・・高階尊の能力を封じた。
本人が封印なんぞ嫌だと思っていると、ここで抵抗されて中々派手な魔力バージョンの相撲みたいな力の押し合いになる事もあるのだが、高階尊は感覚で使ってきただけの素人な上に白龍さまの天罰で私欲の為の悪用を禁じられた影響のせいか、意外とあっさり封印が終わった。
「息子さんの行動に関しては後日警察と退魔協会の調査員とで調べて、どの程度事故に直接関与していたのかを確認した上で起訴等の対応が決められます」
遠藤氏がため息を吐きながら高階父に告げた。
そう言えば、退魔師が能力を使って犯罪を犯した場合は退魔協会が処罰の決定及び場合によっては執行を受け持つらしいが、能力が封じられたら普通の刑務所でも高階尊を拘束できるから能力の封印以上の事は一般の司法制度が受け持つのかな?
意識誘導の物理的証拠の提出が不可能だから、ある程度は普通の裁判とは違った流れになるだろうけど。
「・・・え?
何しやがった!?」
今頃になって高階尊が自分の能力が使えなくなった事に気付いたのか、激昂して椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がる。
いつも通りに意識誘導を使おうとして、魔力を集められなかったのかな?
「高階さん。
今まで息子の能力の使用によって彼の要求に応じる癖がついているかも知れませんし、それはある意味高階さんには対抗できない目に見えない暴力であったと言って良いかも知れません。
ですが、これからはもしも貴方が息子の言葉に安易に従って何かをしたらそれは貴方の責任です。
今後はしっかりと息子の言葉を吟味して、彼の要求に従うことが社会的通念として正しい行為か考えてから行動する事をお勧めします」
怒鳴り散らす高階尊を無視して、遠藤氏が高階父に言い聞かせた。
あ〜。
確かにいつも息子の要求に従ってきたなら、癖みたいな感じで意識して考えて行動しないと意思誘導を使われなくてもついうっかり今まで通りに言う事を聞いちゃうかもだよね。
「尊さんの祖父母の方々も随分と彼の要求に甘いそうですから、そちらともちゃんと話をしておく方が良いでしょうね」
ついでに忠告しておく。
織絵ちゃんの記憶によると、地主一族らしく祖父母世代もそれなりに権力と資金を持っているっぽかったからね。
こう言うクソッタレな男の行動を甘やかして許容する金蔓がいるのは危険すぎる。
下手に勘当して追い出したら今度はそれこそヤクザとか半グレみたいな集団に入って更に突き抜けた悪事をするかもだけど、そこまでの根性は無いと期待しておこう。
と言うか、交通事故を起こす様な意思誘導をした事に対して禁固刑にはならないのかな?
まあ、運転する側がどの程度あっさり気を変えたのかとかを調べる必要があるんだろうけど。
父親として、今までしっかり向き合って躾けようとしてこなかった報いを含めて頑張れ。
変に凄腕弁護士を雇って息子を釈放させるよりも、暫く刑務所に入れさせちゃう方が良いかもよ?
そう言えば、運転手側だった友人の弁護士も高階家の息が掛かった人間なんだっけ。
そこら辺もちゃんと注意しておく様、遠藤氏に言っておかなきゃね。




