こっちですかぁ
「是非お願いします!」
ぐいっと織絵ちゃんが身を乗り出して言った。
かなりマジで急いで能力を封じたいみたいだね。
「構いませんね?」
遠藤氏の方に目をやって確認する。
「まあ、問題なく出来るのでしたら・・・」
ちょっと苦笑気味に遠藤氏が答えた。
『もしかしたら、退魔協会の方から黒魔術師の適性持ちは出来るだけ弟子入りさせて育てろって言われてるのかも。
転嫁付き呪詛の転嫁回避とかは黒魔術師じゃないと難しいじゃない?
他にも色々と使い道がありそうだし。
後で変なことを言われない様に、白龍さまに出てきて貰って監修してもらいながらやっている風にでも見せたらどうかな?』
碧が念話で伝えてきた。
確かに、呪詛返しの転嫁が増えてきてるから黒魔術師の需要は増えてそうだね。
だからこの沖田氏もグダグダと粘ってたのかな?
とは言え、業界に縁のない若い子を無理やり引き込むのはNGでしょ。
どうしても黒魔術師適性持ちに退魔師になって欲しいなら、弟子入り料金を無料にするとか、退魔師になって数年間優先的に退魔協会の案件を受ければ返済不要になる奨学金制度を作るとか、工夫をしないと。
取り敢えず、現時点ではそう言う仕組みは出来てないようだから、今道を選ばなきゃいけない織絵ちゃんは封印する権利があるし、それが妥当だろう。
弟子入りした後で返済不要な奨学金制度が出来たところでそれを受け取れなそうだし、何より織絵ちゃんが封印したいのってお金の問題じゃない気がする。
『うん、お願い!』
ひょいっと部屋の中に白龍さまが現れた。
『では、教えた通りに問題なく出来るか儂が確認してやろう』
重々しく白龍さまが部屋に宣言する。
「ありがとうございます。
では、暫く額に触れますので私を拒否しない感じにリラックスしていて下さいね」
目を丸くして白龍さまを見ている織絵ちゃんに声を掛けて、そっと彼女の前の椅子に座り、額に手を当てる。
うん、普通に黒魔術師の才能があるね。
亜種の才能があったせいで発覚したけど、記憶をさらっと読んだ感じでは特に浮遊霊とかをうっかり使い魔化したとか、誰かに意思誘導を使っちゃったと言う事は無いっぽい?
ただ、兄と母親のやり取りで、不自然な感じに母親が気を変えたり、兄の要求を跳ね除けた後に妙に疲れたりしているのを見た記憶がある。
うわぁ。
兄も黒魔術師の能力持ちなの??
しかも地主出身な一族の父親が政治家で、自分もその跡取りだと思ってる権利意識の塊っぽい長男じゃない、これ?
妹を可愛がる様子も無く、自分勝手で権利意識バリバリな生き方に色々と家族として恥ずかしい思いをしてきた記憶が垣間見れて、思わずうんざりした。
この兄貴が能力持ちなら、こっちも絶対に封じるべきでしょ。
調べる際に、過去に意図的にその才能を使ってないか確認すべきって沖田氏に言わないとだね。
不味いな、織絵ちゃんの封印に私が口出ししたせいで反感を買っちゃた可能性が高いから、こちらの言う事に耳を傾けてくれるか怪しくなっちゃったな。
失敗したかも。
父親は・・・留守がちでいつも忙しそうにしていて家族の相手よりも有権者の人気取りに忙しく、長男の人格問題も気付かずに問題を起こした際も息子の言い訳をあっさり信じて問題を揉み消しているダメダメ親父なようだが、少なくとも虐待的な関係では無い様だ。
どうやら織絵ちゃんと谷敷ママが避けたかったのは父親よりも長男の方だったのかな?
母親が自分の生んだ息子を避けたがる様になるなんて、悲惨だね。
谷敷ママは子育てをしっかり出来そうな人なのに・・・と思ってもう少し記憶を探ったら、どうやら父方の祖母が初孫の育児に口を出しまくった上に只管甘やかしたようだ。
父親も祖父もそんな祖母のやっている事に気付かなかったのか関心が無かったのか・・・。
もしかしたら、息子は早い段階で才能に目覚めて意思誘導を周囲の人間に使っていたのかな?
しっかり育てなきゃと強い意思を持っている母親と違い、安易に流される程度にしか関心も信念も無い祖父母や父はあっさり意思誘導に流されたのかも。
取り敢えず。
長男もだけど、父方はかなりダメな家族だね。
これで息子の方が意思誘導を使えなくなってダメさ加減がハッキリしたら、今度は今まで無視してきた娘を利用しようとしてくる可能性は高そうだ。
確かにさっさと封じて退去が一番かも。




