え、この場で??
ギリギリと歯軋りしそうになりながら上から目線な沖田氏と表向きは穏やかに雑談していたら、ノックの後に扉が開き街で見掛けた織絵ちゃんとその母親らしき女性が現れた。
「おはようございます、谷敷さん」
遠藤氏が二人に声を掛ける。
「「おはようございます」」
二人にペットボトルのお茶を勧めながら遠藤氏が我々三人を二人に紹介。
「これって時間が掛かりますか?」
谷敷ママが尋ねてきた。
「いえ、才能の有無自体に関しては5分足らずで分かります。
有している才能の詳細はもう少し掛かりますし、場合によっては鍛錬してもマスター出来なかったり、訓練を積んで霊力が高まったことで新しく出来ることが増える場合もありますが」
沖田氏が愛想良く答える。
この態度は谷敷ママが美人だからかな?
沖田氏は見た目の年齢的に結婚して子供が居そうだが、離婚なり死別なりで独身の可能性もあるし・・・そうじゃなくても男は美人に親切だもんね。
「では、さっさと終わらせて帰らしていただいて良いですか?
前夫は時間に遅れることが多い人なので、待ちたくありませんので」
谷敷ママが提案する。
政治家が時間にルーズだなんて、ダメじゃ無い?
それとも、有権者の言葉にしっかり耳を傾けるせいで予定通りに動けなくて遅れがちになるとか?
朝10時の待ち合わせだったらその前に有権者に会っている可能性は低い気がするが。いつも遅れるのが癖になっていて、時間厳守の感覚がなくなっているのかもね。
「分かりました。
では始めましょう」
沖田氏があっさり頷き、ひと言断って谷敷ママの額にそっと触れた。
「退魔師の適性はありませんね」
暫しの沈黙の後にあっさり沖田氏が告げる。
ほっとしたように息を吐いた谷敷ママの様子からすると、退魔師になりたいとは思っていないようだね。
「次は私ですね〜」
気楽そうに織絵ちゃんが額を沖田氏の方へ突き出す。
彼女の場合は何らかの才能があるのは分かっているんだけどね。
今は普通の声だが、他者に訴えかけようとすると無意識に魔力が籠るっぽいから、才能があったとしたら退魔師の訓練も比較的早く魔力の操作が覚えられる可能性が高いと思うが・・・なまじ声だけだったら色々と面倒かも?
才能があったらそれを活かすべきと親や本人が思う可能性が高いからねぇ。
でも、歌手や政治家になりたいと本人が思うかどうかは微妙だよね。
歌手はまだしも、政治家は父親が使えると思って利用しようと考えそう。
死者が出るような交通事故に怪しげな状況で関わった長男よりも、声をあげれば周囲から注目を集められる娘の方が使い勝手が良いと思いかねない。
跡取りとするって言って秘書っぽい感じに手伝いとして自分の演説やパーティに駆り出せば、注目を集めるのに使えるからねぇ。
選挙活動ってお金の支払いとかが細かく決められていて、うっかり払いすぎたり払わなかったりすると色々と面倒らしいが、未成年の家族だったら協力しても『ちょっとした家族の紹介』って事で済まされてお金の支払いなしでオーケーになりそう。
駆り出される方にとっては良い迷惑だろうが、子供にとって親とは保護者兼スポンサーであり、言うことを聞かなければ欲しい服やゲームを買えないどころか、高校や大学への進学すら協力して貰えない恐れがある。
ノーと言いにくい相手だよね。
まあ、離婚していて母親が親権を持っているようだから、多分そちらに守って貰えるとは思うが・・・情に訴える感情的脅迫って親にされると辛いらしいからなぁ。
変な方向に話が歪まない事を祈っておこう。
「退魔師の才能がありますね。
鍛錬してしっかり制御できる様にするか、封じるか、今すぐとは言わないが早いうちに決めた方が良い。
師匠を探す必要があるなら手伝おう」
沖田氏が小さく息を吐きだして、二人に告げた。
声だけじゃなくてフルに才能があるかぁ。
この後は色々考えなきゃだね。
が。
「今すぐこの場でそれを封印出来ますか?」
織絵ちゃんが母親の手を握りしめながら言った。
え?
今すぐこの場で封じるの??
一応、検査の結果でどう言う選択肢があるかの話は概論的に遠藤氏がしてあったんだろうが、実際に検査結果が出て仮定ではなく現実になったんだから、もうちょっと考えた方が良く無い?
「・・・可能ではあるが。
一度封じたら解除は実質不可能だよ?
退魔師はそれなりに報酬も大きいし、やり甲斐もある職業だ。もう少し現役の人間の話を聞いて決めたほうが良く無いかね?
何だったらそっちの若い女性二人なんかはああ見えてもプロの退魔師だから、君の将来像的な感じになるかも知れないよ?」
沖田氏がちょっと困った様に織絵ちゃんを見て、言葉を紡いだ。
おい。
『ああ見えても』ってなによ。
失礼な!
でもまあ、私らと話すのは良いことかも?




