他の能力は?
『ちなみに黒魔術師の亜種的な能力って事は、意思誘導とか洗脳とか、悪霊退治とかは出来ないの?』
話の内容がちょっと物騒になったせいか、碧が念話で聞いてきた。
ついでに携帯を取り出して調べ物をする様な動作でさり気無く後ろの子供達の動画を撮っている。
携帯のカメラってデフォだと写真を撮る時にシャッター音が鳴って微妙なんだよね。
だけど動画を撮る分には音がしないんだから、プライバシー対策として足りないじゃんと思うけど。
アプリでシャッター音のしないカメラも簡単に入手出来るし。
『人によるねぇ。
声だけなタイプもいれば、全部できる上に声もって言うのもいるから。
まあ、魔力を声に乗せるのってそれなりに疲れるし魔力を使うらしいから、ああ言う使い方をしていたら悪霊退治をする余力は無いかも』
歌姫的に酷使されていた元同僚は普通の黒魔術師としての勤務は全部免除されていたが、いつも魔力が枯渇気味で顔色が悪かった。
枯渇寸前まで毎日使っていたから魔力が増えた様だったし、歌声に乗せる魔力を最低限に削るコツを覚えて大分と楽になったとは言っていたが。
『う〜ん、こう・・・募金する時にさりげなく肩に触れて励ますフリでもして、どの程度の能力があるか調べられない?
脩さんの事件もあったし、ちゃんと訓練されていない黒魔術系適性持ちはしっかり退魔師として規制内に入るか、能力を封じておくかしておいた方が無難な気がするんだけど・・・』
碧が微妙そうに聞いてきた。
『流石に街中で寄付した時に怪しまれない程度のコンタクトでは無理だねぇ。
取り敢えず、隠密型のクルミを付けてどこに住んでいるか追跡させてから何とかならないか考えよう』
黒魔術系は、ちゃんと訓練してなくても独学で悪用できちゃうのをついこないだ鈴木絵里が証明したところだからねぇ。
碧としても人ごとじゃ無いと言う危機感があるんだろうなぁ。
黒魔術師の適性持ちはしっかり管理しないと危険って考え方は前世の『黒魔術師は全て制約下に置かねば』と言う考え方に繋がりそうでちょっと怖いけど。
前世で文献をこっそり調べたところ、『制約下』が『実質隷属』に変わるのって意外と早かったらしいんだよねぇ。
まあ、現世では前世の様なガチガチな制約魔術は知られていない様だから、黒魔術師は精々見つけたら確実に退魔師として訓練を受けて登録するか能力を封じるかを強制される程度で済むと思いたいけど。
と言うか、退魔師として働く気が無いんだったら黒魔術師の才能なんぞ封じておいた方が良いしね。
声に魔力を乗せる才能だけを残して他の危険な能力を封じると言う様な才能の選り好みは出来ないから、ある意味政治家になるとか歌手になるとか言った大きなステップを取っちゃう前にやばい才能があるか調べておく方が本人に取っても良いだろう。
それ以前に。
『考えてみたら、黒魔術師系の適性持ちな退魔師って政治家になっても良いの??
必要な時に人を説得する為に意思誘導とかを使う政治家ってヤバくない?』
クルミの隠密用躯体を亜空間収納から取り出しながらついでに碧に尋ねる。
『・・・特に規制があるとは聞いてないけど・・・多分それなりに退魔協会や政府側に見張られるんじゃない?
もっとも、普通に言葉を尽くして説得しても能力を使ったんじゃ無いかって常に疑われるんじゃそのうち嫌になって辞めちゃうか・・・裏取引に手を染めて闇堕ちしそうだけど』
碧が肩を竦めつつ答える。
あ〜。
確かに説得成功率が高い人間って便利だろうねぇ。
それこそ、退魔協会が政府内に何人か非公式に送り込んでそう。
こないだの鈴木絵里みたいな公式には退魔師でも退魔師の一族でも無いのに意思誘導ができる人間なんてとっても便利で都合が良い存在だから、前科付きでさえ無ければ彼女の事も退魔協会が喜んでスカウトしたんじゃ無いだろうか。
そこそこ美人だから、疑わしい状況で相手を『説得』しても色気で誘惑したと言い張れそうだし。
『クルミ、あの左から2番目の女の子にくっ付いていって、家まで辿り着いたら連絡を頂戴?
ついでに周囲の環境とかがどんな感じかも分かる範囲で気に留めておいてくれると助かる』
隠密用躯体にクルミを移しながら魔力を多めに渡して頼む。
『了解〜』
クルミがふわっと虫っぽく空に飛び上がり、上から少女に近づいていった。
『取り敢えず、クルミ経由でもう少し分かるまでは、待ちかな?
流石に子供の顔写真じゃあネットで検索してもあまり情報は無いよね?』
碧に尋ねながら帰路につく。
大学生ぐらいになったら色々とSNSとかに写真をアップしてあって個人的な情報が得られるかもしれないが、あの子は中学生ぐらいな感じに見えたから個人情報をネットに晒すのは保護者が許して無いだろう。
多分。
・・・ちゃんとそう言うのって止められてるよね?




