声
「・・・お・がいしま〜す」
「・・・・ねがいしま〜す!」
碧と駅のそばのスーパーで割引きになっていたグレープフルーツジュースを買って帰る途中で、若い子供達が声を揃えて寄付を求めているのが聞こえた。
「またかぁ。
良い加減にして欲しいんだけど」
碧がちょっと顔を顰めた。
「そう言えば最近よく駅のそばで変な募金を求める外人のおっさんがいるよね」
ここのところほぼ毎日、夕方になると黒人の男性が小学生ぐらいな子供(こちらも黒人)三人ぐらいを引き連れて、ガーナか何処かの恵まれない子供たちのために小学校を建てるのに協力をとお金を求めて声を上げているのだ。
「まだ同じアジアの国で、洪水で家を流されたバングラデシュとかパキスタンの復興に支援をって言われるなら納得できなくもないけど、何だって全く関係のないガーナの小学校のために日本人が募金しなきゃならないのか不明〜。
しかもなんでガーナの子供が日本に居るのかも不明だし、子供を寒くなってきた今の時期に外に立たせて募金活動させるのも不思議だし。
幾ら駅前でもこんな郊外と言っても良いところで募金を求めるより、コンビニで働いている方が確実にお金が入りそう」
碧が不快そうに言う。
碧的にはおっさんが日本で募金活動をするのは本人の勝手だとしても、被保護者である(と思われる)子供達にそれを手伝わせているのが気になるっぽい。
と言うか、マジで何で日本でガーナの為の募金を求められるのかも不明だよねぇ。
それだったらガーナを植民地支配したヨーロッパの国ですべきじゃない?
確かに生まれた国と環境による有利さ・不利さの違いはめっちゃ大きいのは認めるけどさ。
それに下手に道端で立っている人に募金をしても、詐欺的な犯罪組織に金を渡している可能性もありそうだからなぁ。
犯罪組織じゃなくても、単に運営者の贅沢に使われることもあるらしいし。
先日、有名なスーパーモデルが運営しているイギリスのチャリティ団体が寄付された募金の不適切な使用で摘発されたとどっかに記事があった。
何万ドルものお金が運営者や協力したモデルたちのスパやエステ代に使われていたらしい。
そう考えると道端で叫んでいるおっさんよりは、国連のユニセフとかにネットで募金する方が確実そうだ。
それはさておき。
歩いているうちに募金活動をしている子供たちのそばに近づいたが、今日は日本人っぽいのが箱を手に並んでいた。
「お?
いつものアフリカの小学校じゃないね」
碧がちょっと興味を惹かれた様に目をやる。
「交通事故で遺児になった子供の為の基金だって」
横に立てかけてあった看板を読み上げる。
年末に向けて資金が足りなくてやっているのかな?
それとも受け取る側じゃなくてどっかの学校の授業かクラブ活動の一環か何かなのかな?
ある意味、自分が遺児でお金に困っているから寄付して下さいって子供に人前で叫ばせるのは微妙そうな気がするから、何かの活動の一環の可能性が高いかも?
こう言う募金活動に子供を参加させる際の規定ってどうなっているんだろ?
子供の労働って規制がある気がするが、ボランティアだとどうなのかな?
そんな事を思いながら子供たちの横を通り過ぎようとしたら、ふと誰かの声が耳についた。
なんか、注意を引く声だ。
特に良いとか悪いとかではないけど、注意を引き寄せる・・・魔力の含まれた声。
「どうも、黒魔術師の亜種的な才能を持った子があの中にいるっぽいね」
碧にそっと声をかける。
「亜種?
セイレーン的な声で魅了する才能だったり?」
碧も注意を引く声に気付いたのか、そっと本屋に立ち寄る様な様子で足を止めながら横目で子供達の方を見る。
「上手くなれば技術で魅了できるかもだけど、基本的には単に人の注意を引く程度かな。
でも、人の注意を引けるだけでも歌手や政治家として成功しやすいかも?」
少なくとも前世では歌やスピーチの音だけで問答無用に他者を魅了したり洗脳出来る能力者は人間には居なかった。
幻獣なんかにはそう言う攻撃手段を持つのも居たけど。
人間の場合は注意を引いて耳を傾かせる効果がある程度だが、ある意味周囲の人間の注意を引いて自分の話している事に耳を傾けさせられるだけでも十分に利用価値はあったから、そう言う能力がある黒魔術師は王族に利用されるか・・・声を潰されていた。
こっちではどうなるかな?
最近だったら女性の政治家もいるし、本人に野心があるならアナウンサー経由で政治家にでもなるかもね。




