返しますね〜
「その先を右に曲がって下さい」
タブレットのマップアプリと絵梨花さんの呪詛の繋がりを確認しながら運転をしている男性に声を掛ける。
最近時折街で見かける大きなSUVなので六人余裕で乗れているが・・・呪師の家に突入して拘束するのって三人で大丈夫なのかね?
呪師の拘束場面を見た事はないが、前世では殺意マシマシなトラップ式呪詛や術や魔道具満載な大物呪師の隠れ家に突入して騎士団がかなりの損傷を受け、回復師が足りなくて複数の神殿に泣きつく羽目になった事があったが・・・大丈夫なんかね?
私たちは車で待っていて良いと言われたけど。
まあ、一応退魔協会の人間が業務範囲内で怪我を負った時は医師の監督下じゃなくても回復師の力を使って良い筈だから、碧がそれなりに対処できるとは思うが。
違法な業界で働く呪師でも、日本だったら即死する様な仕掛けはしないと期待しておこう。
とは言え、銃とか爆弾とかでブービートラップを仕掛けてあったら運が悪ければ急所に一発食らっちゃうなんて事もありそうだけど。
そんな心配をしつつ呪詛を辿っていたら、やがて庭付き戸建ての集まる静かな住宅街に辿り着いた。
マンションよりも呪師が特定しやすいけど、トラップを仕掛けやすくて危険性が高そう。
大丈夫かね?
まあここ数年でかなりの数の呪師が居なくなったから、残っているのはショボい呪師かも知れないけど。
反対にハロウィンの業界の集まりにも出てこない様な用心深いタイプの可能性もありそうで、ちょっと心配だ。
呪詛を転嫁していないからそこまで用心深く無い呪師なのかもだけど、単に命に関わらないなら構わないと判断した可能性もあるからなぁ。
どうなんだろ。
そんな事を考えつつ、呪詛の繋がりが示した家の裏で車を停めさせた。
「ここですね」
魔力感知では中の人影は一人だけなので、中に居る人間を確保すれば良いので話は単純だ。
家族が居たりすると色々面倒だからねぇ。
見習い卒業したてでも無い限り、呪師だとほぼ確実に過去に人を殺める様な呪詛を掛けているので捕まったら大抵は死刑になるらしいからかなり荒っぽい突入でもオッケーらしいが、呪師じゃない家族はそんな訳にはいかないからね。
と言うか、命に関わる呪詛をやったかなんて、どうやって調べるのか不明だが。
もしも黒魔術師に記憶を読ませて刑罰を決めているのだったら、絶対に退魔協会に表立って私が黒魔術師だと認めたく無い。
悪人は罰されるべきだけど、それを決める責任を負うのは精神的負荷が重すぎるし・・・カルマ的影響も怖い。
罪人を取り調べる事自体にマイナスなカルマは無いと思うけど、杓子定規な規定のせいで酌量の余地がある人間まで死刑になったりした場合、それに加担したとカルマ的に見られたらヤバい気がする。
まあ、カルマがどう判定されるのかも、そもそも酌量の余地なんぞを考慮するのかも知らないけどさ。
そんな事を漠然と考えている間に何やら退魔協会の人たちが機械を取り出して家に向けていたと思ったら、ドラマで見る様なサーモグラフィ?っぽい映像が機具の画面に現れた。
「1階の西側の部屋に居るな」
「南と北の部屋から侵入可能か?」
「外に捕縛陣を先に設置しておくか」
ちょっと不穏な言葉が聞こえるが、聞こえな〜い!
「考えてみたら、もう場所が確定できたので呪詛を返しちゃってもいいですか?
突入直前に返したら、多分呪詛返しのショックで碌な反応が出来ないと思いますし、電気をつけて明るくしたら身動き取れないぐらいな頭痛に襲われると思いますよ」
碧がふと提案した。
そう言えばそうだよね。
呪詛返しをしちゃうと呪詛を辿れなくなるけど、既に辿り終わっているし、返された人間が逃げられるとも思えない。
一応ハネナガを庭に出しておいて、もしも逃げられたら追跡できる様に保険は掛けておくかな?
夜だと視界はダメダメだけど、魔力を追いかけて移動するのは霊であるハネナガなら出来るから、見逃さない様について行って貰って日が出てから合流すれば呪師を確実に捕まえられる。
「・・・そうですね、では我々が車から出たタイミングで返してください」
運転手役だった男性が碧に応じた。
ゴソゴソ色々と準備が終わり、なんかゴーグルとかごついマスク(もしかしてガスマスク機能付き??)を取り出して装備した男たちが出ていく。
「じゃあ、呪詛を返すね〜」
碧が嬉しそうに絵梨花さんに声をかけ、一気に呪詛を浄化した。
うん。
ちゃんと家の中へ返って行った。
しかもほぼ同じタイミングで運転手役だった男性がガラスを綺麗に丸く切り取り、何かを中に放り込んでいる。
マジ?!
なんか白い煙っぽいものが出てくるのがハネナガの視界にうっすらと見えるんだけど。
催涙ガスってやつ??
逮捕する時ってそう言うのを使うのもありなんだ??
まあ、銃で撃ったりするよりは後遺症が少ないだろうから、より安全か。
目に見えない睡眠ガスでも流し込む方がもっといい気がするけど、そう言うのは難しいのかな?
しっかり意識が落ちる様な睡眠ガスなんて吸いすぎるとそのまま昏睡状態になって死ぬ可能性もあるかもだし。
でも、呼吸式な麻酔薬とか睡眠ガスって時間単位で吸収する薬分が変わるから、倒れたらさっさと拘束して運び出したらそれでも良さげな気がするけどなぁ。
個人差があって危険なのかな?
取り敢えず。
どうやら中にいた人物は呪詛返しと催涙ガスのダブルパンチになす術もなかったのか、数分後にあっさり縛られた人物がSUVに運び込まれてきた。
さて。
黒田の悪事の証拠が見つかると良いんだけど。
我々は先に帰ってもいいのかな?




