猫部屋のある店舗
「見て見て〜。
こないだの子猫たち、青木さんの不動産屋で飼う事にしたらしいよ!」
大学から帰宅したら、碧がタブレットで何かを見ながら声を掛けてきた。
「不動産屋で・・・って店舗で??」
源之助を見る限り、子猫ってテーブルに飛び上がって書類を含めた色々な物を蹴り落として邪魔をしたがるし、充電ケーブルとか噛むしでオフィスに飼うには向いていないだろうに。
それに、クリップとかを誤食したらヤバいんじゃない??
第一、猫アレルギーの客だって居るだろうに。
それにオシッコとかされたらあのブリーダーのところとか先日の猫屋敷の様に、強烈な悪臭が染み付くからダメでしょ??
「ほら」
碧に見せられたタブレットの中では猫たちが中々アスレチックに色々工夫がされた部屋の中で遊んでいる姿が動画に映っていた。
「これってライブ映像?」
三つほどカメラのアングルがある様で、空っぽな猫ベッドと取っ組み合いをしている子猫2匹、そして母猫に毛繕いされているっぽい3匹目が見える。
「青木さんって奥さんも働いているから日中は家に人がいないから子猫達が心配で、ついついずっとペットカメラを見続けちゃったんだって。
それを見ていた社員に、どうせだったら事務所を拡張しようとゲットしていた隣の店舗の一部を猫部屋にして、猫カフェもどきな感じで公開して客引きに使うと共に社員や青木さんの癒しにしたらどうかって提案されてオフィスで飼うことにしたって。
取り敢えず今はみんなで面倒をみつつ、夜は当番制で社員が交代で新しく作った仮眠室で寝てるらしい」
青木氏の不動産屋のウェブサイトの説明を碧が読み上げた。
タブレットを受け取ってサイトの説明に目を通す。
今回の多頭飼育崩壊の様な極端なケースは滅多に無いにしても、どうやら不動産屋と言うのはちょくちょく管理している物件で発見された子猫について相談を受けることが多いらしい。
今時、マンション探しもネットで行う人が多い。
そうなると客を店舗に引きつけるにはプラスアルファが必要であり、確かに子猫はそれに役立ちそうだ。
ついでに見にきた客の誰かが子猫を引き取ってくれたら良いな〜という希望もあるだろうし。
しっかし。
「あの子猫達を保護してからまだ1週間程度しか経っていないのに、もう猫部屋が完成しているなんてビックリだね」
流石地元に密着した不動産屋。
「考えてみたらライブカメラをストリーミング出来るウェブサイトも作成が早かったよね。
でもまあ、これであの仔達の様子が分かるから良かった」
碧がタブレットを取り返して猫部屋の方へ画面を戻した。
「確かに。
家にいる方が猫と時間を過ごせる様な気がするけど、考えてみたら社会人だったら会社で過ごす時間の方が家で過ごす時間より長いよね。
4匹いるなら猫達だけで寝るのも寂しがらないだろうし。
・・・休日までオフィスに入り浸る様になったら奥さんが怒りそうだけど」
そうなったら離婚の危機じゃ無いの?
それとも接待ゴルフとかに行っているサラリーマンとかの事を考えたら、週末も夜しか家に居なくても問題は無いのかな?
オフィスで猫と戯れているなら、少なくとも浮気してどっかの女に貢いでいるんじゃない事はリアルタイムで確認できるし。
「まあ、猫の面倒は社員みんなで交代でやっているみたいだから、大丈夫じゃない?
予約制で子猫と遊べる様にしたら、部屋探しのついでとか、友達の部屋探しのついでに来る客が増えたらしいよ。
管理先で見つかった猫を保護したのも『良い人っぽいから信用できる』って感じる人も多いみたいだし、この『イイね!』の数を見る限り、十分リフォーム代の元は取れてそう」
猫が嫌いだったり猫アレルギーな社員が居たらその人にとっては不幸なんだろうけど、今時だったら勤務先で客が増えて経営が上向くのは安心だろうから勤務時間中に猫と遊ぶのが業務の一部になるのもそれ程問題ではないかな?
交代で泊まり込むのに関してはどう言う感じに手当が出るのかは知らないけど。
「そう言えば、また今度何件か霊障チェックの依頼があるんだって。
子猫達も見たいし、次は青木さんのオフィスで待ち合わせって事にしても良い?」
碧がタブレットから目を離さずに聞いてきた。
「良いよ〜。
ついでにクルミに何か不満が無いか、聞き取りさせよう」
猫カフェとかだって猫の休憩時間があるらしいのだ。
子猫達が24時間人の目に晒されるのがストレスだったら青木氏に何らかの改善案を申し立てないと。
カメラだって視線だ。
敏感な猫だったら嫌がるんじゃないかなぁ?
・・・源之助みたいな性格だったら全然気にしてないかもだけど。