ハニトラ疑惑?
碧が溜め息を吐きながらタブレットをローテーブルに置き、寝転がっていたソファから体を起こした。
「ちょっとねぇ。
昨日母親と話していたら、高校時代から付き合っていた人とそのうち結婚するって話をしていた筈な母方の従兄弟が、別れたって話も無かったのに突然違う女性を親元に挨拶に連れて来たって聞いて。
高校時代から付き合っていた元カノは私も何度か会って気が合った人だったのに、急に別れただけじゃなく違う女性と結婚するって、何事かと思ってさ〜。
まあ、実際に本気で魅了とかがあると思った訳じゃあないけど」
とは言え、私が意思誘導を時折使っているのを見ているから、疑惑は持った、と。
そう考えると・・・意思誘導が出来る私と良くぞ友人付き合いなんてするねぇ。
まあ、碧本人は白龍さまが目を光らせてるだろうから大丈夫だろうと思えるんだろうけど。
考えてみたら、普通の人間だったら悪人を懲らしめるのに意思誘導を使っているのを許容していても、そのうちふと『自分にも使ってない??』って疑念が湧いてきそう。
一度疑い出したら、友人関係に皹が入るのは不可避なんだろうなぁ。
寒村時代は自分の能力は全部隠していたし、魔術師時代は制約魔術でそこら辺は制限されていたのは周知の事実だったけど、ある意味使い放題な現世では意思誘導ができるって知られたら信頼関係の継続は至難の業になりそう。
ただでさえやってない事の否定の証明って難しいのに、やった事ですら物理的証拠が残らない意思誘導の『やってない証明』なんてまず不可能だ。
マジでこれは碧以外には知られない様に気をつけないと。
それはさておき。
「その従兄弟さんも彼女さんも知らないから完全に一般論的な話だけど、誰かと付き合っている時に別れるのって意外とエネルギーがいるから、意外と付き合う情熱や愛情が冷めてきても横入りしてくる人がいなかったらなぁなぁで付き合い続けない?」
世の中、彼氏・彼女が居ないと負け犬という風潮が微妙にあるから、特に相手に魅力を感じなくなっていても次に魅力を感じる相手に出会うまでは現状維持してる感じな人は多い気がする。
まあ、気持ちが冷めてきた相手がハイコストなタイプだったらさっさと別れるだろうけどさ。
でも碧と気が合ったんだったら、その彼女さんも良い感じに自立した女性で負担が軽いタイプだったんじゃ無いかな?
「あ〜。
態々別れ話をする程嫌いになった訳じゃ無いけど、気持ちは冷めてたから気になる人に出会ったらさっさと別れて付き合いを始めたってやつか。
確かにそう考える方が変な意思誘導やヤバい麻薬入りクッキーよりは現実的かも?」
碧が頷いた。
「ちなみに碧の従兄弟って退魔師なの?」
碧ママも退魔師だが、そっちの親戚が退魔師系かは聞いてない。
と、思う。
藤山一族は退魔師が多いみたいだが、碧ママの方はどうなんだろ?
「うんにゃ。
退魔師の存在は知っているけど本人に適性は無かったから普通のサラリーマンとして東京で働いているよ」
碧が応じる。
ふむ。
一般人だったら意思誘導が効きやすいし、そうじゃなくても碧の従兄弟となれば親戚になって損はないとハニトラを仕掛ける連中が居ても不思議はない。
別に意思誘導や麻薬を使わなくても、最近だったらSNSのコメントとかをじっくり吟味して本人の趣味とか考え方を研究しておけば、さりげなく偶然の一致っぽく出会って『とっても気が合う理想的な異性』を演じるのは難しくないって話だからなぁ。
一応確認しておく方が無難かも?
まあ、今まで碧の実家に行った時に会わなかったし話題にも出てきてなかった従兄弟だから、碧へ近付くためにハニトラを仕掛けるターゲットになる程は近くないと思うんで、多分あまり危険は無いだろうけど。
従兄弟を使って碧を呼び出して力尽くで誘拐したら白龍さまの天罰でイチコロだろうし、男の従兄弟経由で碧にハニトラを仕掛けるとも考え難いよね。
とは言え。
話題に挙げたって事は碧はそれなりに気になっているのかも?
「その従兄弟は結婚を考えているって言ってたの?
ちょっと色々あるから結婚式には呼ばれても行けない可能性が高いから、今のうちに会っておこうかとでも言って食事でもご一緒してみる?
どっかレストランの外ででも、私が『偶然』通りすがって声を掛けるついでに従兄弟とその女性と握手する程度なら可能だよ?」
流石に単なるルームシェアの相手を親族との食事に呼ぶのは変だからねぇ。
それこそ私も碧も絶対確実に一生結婚するつもりも子供を産むつもりもない!って思っているなら『パートナーです』ってフリをして私も一緒に行くのもありだが、私も碧もそこまで異性に絶望はしてないし、性的嗜好は同性ではなく異性に向いているから、変な嘘を吐く気はない。
・・・考えてみたら、学生の間は良いにしても、卒業してもルームシェアをしていたらそういう関係だと周囲に見られそうだな。
今の状態ってお手軽で便利なんだけど、自分の住む場所は別に探すことも考えないとなぁ。
温度管理的な面とか、源之助との付き合いとかを考えると同居が一番なんだけど。
私がそんな事を考えている間に碧はちょっと腕を組んで悩んでいた。
「う〜ん。
ちょっと亜希子叔母さんの話を聞いてみようかな」
おっと。
意外と深刻に危機感を抱いてるの?




