研究に励め
取り敢えず、目的の聖域産の素材の場所は一応分かったし、それをばら撒いていたアホも捕捉されたから、私らの役割は終わりという事で絢小路君を連行する遠藤氏と田端氏と別れを告げて碧と私は家に帰って来た。
カザフスタンとやらにある昔の聖域に関してはどうしようもないが、どうせどこの国にも幾つかは聖域があるのだ。
どこぞの国や退魔師・魔術師の旧家が本気で聖域の素材を使って悪事を企もうと思い立ったら、昔の聖域を探さなくてもそれなりに現役な聖域と境界門の素材が入手出来てしまう。
排他的な一神教だったり、国が宗教を敵視する国だと強力な幻獣や霊を氏神さまとして祀って程よい距離感で付き合うのが難しいかもだけど、流石にゼロってことはないだろう。
多分。
絢小路君が偶然生み出した魔法陣にしたって、買ったのを分析すれば試行錯誤を必要とするだろうけどそのうち解析できる筈。
紋様を描こうとして失敗したら魔力を垂れ流す様になったって話だったら、ある意味ちゃんとした効果を求める魔法陣よりも作るハードルは低そうだし、そういうのを求めて研究したら比較的簡単に作れる可能性は高そうだ。
「これからは符を使ったテロ攻撃みたいなのにも気をつけなきゃいけないのかなぁ」
家に辿り着き、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出しながら溜め息を溢した碧が呟いた。
「別に符を使わなくたって、火のついたタバコとマッチブックがあれば時限式放火装置になるらしいんだから、少なくとも符での放火に関しては神経質になってもしょうがないんじゃない?」
最近は禁煙規制が多くなって来たことで紙のマッチブックを配る喫茶店とかレストランは見なくなった気はするが、適当に紙に包んだマッチ数本と火のついたタバコがあれば同じ様に放火は出来るだろう。
要は、悪意のある人間がアクセスできる場所には燃えるゴミ的な物を放置せず、建物には火災警報器やスプリンクラーや消火器を設置しておいて放火されにくい様にしつつ被害を最小限に抑えるしかないのだ。
「まあそうだけど・・・爆破型のは薄っぺらい紙2枚で出来ちゃうとなると、危険すぎない?」
碧が指摘する。
「まあそうだけど・・・。
ある意味、駅とか店とか言った普通の公共の場所だったらどうせ大した探知機は無いんだから、入手ルートが限られる上に高くつく符なんぞを入手しなくても普通に爆弾を仕掛けりゃ良いだけでしょ?
そう言うのをしっかり調べて防ぐ様な飛行機の中とかお偉いさんが来る会議場とかはそれこそ金属探知機なり危険物に探知機を設置するところに魔力を流す様にして、符を持った人間が通ろうとしたら起動しちゃう様にすれば良いんだよ。
空港のセキュリティゲートの結界で亜空間収納の符を無効化しちゃうのと同じだね」
前世は基本的に魔力探知ができる人間や魔道具で対処していたが、国王の私室とか謁見室は全ての入り口や窓に魔力を通していて、魔道具を持ち込んだらそれが暴発する様になっていた。
登録した魔道具だけを持ち込める特別なケースを使えば王族とかは魔道具を持ち込む事が許される場合もあったが、基本的に魔道具の持ち込みは禁止だったんだよね。
まあ、死ぬ気で魔力を全部放出すれば魔道具なんぞ目じゃ無い被害を出せる魔術師もいたけど、そう言うのはよっぽど信頼されていない限り魔力封じの首輪を一時的に嵌めなきゃ国王や宰相には近付けなかった。
だから、魔術師は下手に褒賞を得る様な事をすると面倒なことになるってお互いで功績の押し付け合いをする事も多かったと聞く。
功績ゼロだと給料が上がらないし昇進出来ないが、ありすぎると国王に謁見して褒賞を受け取るために屈辱的な魔力封じの首輪を一時的とは言っても嵌めなきゃいけないんで、そこら辺のバランスが難しかったんだよねぇ。
まあ、私みたいに実質奴隷だった人間はそう言う悩みから無縁だったけど。
「そっか、どうしても守らなきゃいけないところは空港のセキュリティゲートみたいな結界を張れば良いのか」
碧が少し明るくなった。
「まあ、そう言う結界は単なる亜空間結界のセキュリティゲートよりも魔力を食うだろうけど。
なんだったら、それ用に白龍さまの爪や鱗を少量売るのもありかも?
まあ、下手に流出させるとどっかのアホな政治家が他国や自分の手下に横流しするかもだから、出すのはマジで泣き付かれたらで、数もしっかり確実に追跡調査出来るぐらい少なくした方が良いだろうけどね」
符の持ち込み管理に関しては退魔協会が色々と研究していけば良いでしょう。
あのアホでも想定外な紋様を生み出せるのだ。
それに対抗できる様な何かだって、旧家の皆様が知恵を絞れば何か生み出せるんじゃない?
そう言う研究系は魔力が大してなくても出来る事が多いんだから、悪霊の浄化とかが苦手な研究者タイプに頑張って貰えば良い。
・・・退魔協会って研究部門ってあるのかな?
あるよね?
まあ、無ければ作ればいいさ。
取り敢えず、これで一区切りつきました。
明日は休みますが、明後日からまたよろしくお願いしま〜す!




