許可は得て・・・ないよね?!
田端氏の警察手帳を見せて、白龍さまが示した2階へ上がる。
そのまま指示通り左に曲がって奥へ進み・・・208と書いてある部屋の前で止まった。
さて。
中に人が居ると良いんだけど。
寮だったら寮母(男性寮っぽいから寮父??)さんが鍵を開けてくれたら入れそうだけど、捜査令状がある訳でもないのに部屋を調べさせてくれるかは微妙な気がするな。
どうなんだろ?
私が入っていた学生寮は掃除係の人が入ってくるからプライバシーは微妙だったけど、非常時じゃなければ赤の他人を部屋に入れるって言うのは少なくとも建前上は無かったと思う。
冤罪問題が色々と新聞を賑わしている今時だったら、警察だからこそちゃんとした手続きをしないと勝手に中には入らせないかも?
つうか、入り口の所にいた警備員か管理人か知らないおっさんはついてこなかったし。
考えてみたら良いんかい、これ??
そんな事を考えていたが、田端氏のノックに応じてあっさり扉が開かれた。
「あれ。
絢小路君じゃないですか」
ドアを開けた青年を見て、遠藤氏が声を上げた。
絢小路?
あの詐欺紛いにサークルの皆から金を掻き集めようとした絢小路家の人間?
サークルの先輩の弟か、親戚なのか。
考えてみたら私とも遠い親戚になるかもだけど、そこは素知らぬ振りをしておこう。
どうせ誰も知らない事なんだし。
「え?
どなたですか?」
絢小路君とやらが遠藤氏を見て首を傾げながら尋ねる。
「退魔協会の遠藤です。
君が絢小路裕嗣氏の弟子として登録された時に手続きをした人間です。
大学に通う間は退魔師の学びは休みの時だけにすると大叔父さまと合意したと聞きましたが・・・絢小路家の符を金儲けに使っていると、裕嗣氏はご存知なのですか?」
遠藤氏が一歩前へ進みながら聞いた。
ほおう?
絢小路家って殆ど退魔師がいなくなったって聞いたけど、大叔父さんとやらは現役の退魔師なの?
よっぽど後に生まれた末っ子だったとでも言うんじゃない限り、祖父の弟って事はそろそろ現役引退だと思うが。
師匠役が引退しちゃった場合って弟子はどうなるんだろ?
他の退魔師のところに弟子入りする際にまた礼金を払う必要があるんかね?
そんな事を考えながら見ていたら、ずいっと寄ってきた遠藤氏の圧に押し負ける感じで絢小路君が一歩下がった為、まるで部屋へどうぞと招いたような見た目になったのでそのまま遠藤氏が部屋に入っていった。
「え・・・。
符、ですか?」
オロオロと突っ立ってこっちを見ている絢小路君を無視してついでに田端氏と私たちも部屋の中へ入っていく。
大仰な事にならないようにゴツい警備か捜査の人たちの殆どは建物の外で待っているんだけど、1人着いてきた男性が扉の前に立って他の人が入って来ない(もしくは絢小路君が逃げない)ように警戒するようだ。
「そう、これですよ。
郵送した物の一部が暴発して郵便局を水浸しにしたので、危険物の販売という事で違法行為ですし・・・家伝の符を勝手に一般へ売り出すのは絢小路家が認めていない行為なのでは?」
机の上にあった乾かしている最中らしき符を手に取りながら遠藤氏が言った。
部屋の中を見回したら、奥の押し入れっぽいスペースに積んである段ボール箱から魔力を感じる。
「やっちゃいけないとは言われてないし・・・」
絢小路君がモゴモゴと言い訳がましく呟く。
いやぁ、常識として、先祖代々伝えてきた符を売り物にするなんて・・・聞かれたら師匠の裕嗣さんとやらは絶対に禁止したと思うよ?
まあ、だから何も言わずに勝手に売っているんだろうけど。
退魔協会で売っている符だって皆どれも細心の注意を払って解読されないように偽装しているのに、一般への売り出しなんてあり得ないんじゃない??
まあ、退魔師が殆ど居なくなった絢小路家の他の人達は金になるなら家伝の紋様を売り物にするのもあり!と判断するかもだけど。
考えてみたら、一族の殆どが退魔師にならなかった(もしくはなれなかった)場合って、代々受け継いできた符の紋様の知的所有権って誰にあるんだろ?
ある意味、師匠の裕嗣氏とやらが死んだら、弟子であるこの絢小路君が見習いだろうと引き継ぐの??
それとも、ちゃんと一人前になっている人じゃないと引き継げないと言った決まりがあるんかね?
裕嗣氏は自分が死ぬ前にそこら辺をしっかり遺言書で指示を出しておかないと、下手したら符の紋様がバンバン金と交換でネットに公開されそうだよ〜。
それはそれで危険そうだが・・・退魔協会はそう言う場合になんとか出来るんかね?
「ちなみに、この段ボールに入っている砂利はどうやって入手したんです?」
押し入れにある段ボール箱の蓋を開けて、中に入っている小石を指差しながら絢小路君に尋ねる。
なんだって中国か中東かの古い聖域の石を日本の旧家(といっても退魔師としては没落寸前疑惑あり)の見習いが持っているの?




