え、マジ??
「取り敢えず、調べますので暫く集中させて頂けますか?」
碧が部屋の扉を目で示しながら遠藤氏に言った。
上手いね〜。
口で言わずに出てけって示せるのって才能だよね。
私はどうも全部口に出しちゃうから高校でもちょっと角が立って気不味くなったりしたもんだ。
こう言う口に出さずに上手に誘導する技は碧ママが得意そうかも?
ウチの母親だって働いているんだからそう言う技術があるかもだけど、イマイチそれを娘に教える必要があると感じてなかったのか教えてくれなかったんだよねぇ。
まあ、口に出さずにコミュニケートする必要がある様な人が実家に訪ねてくる事があまりなかったってのも関係するかもだけど。
そう考えると、日本の中流階級的な一般サラリーマン家庭って子供の勉強以外の教育が足りないのかも。
碧のところみたいに、タヌキ達とやり合う事も想定してしっかり子供にも大人社会での立ち回りを教えた方が良いと思うけど、大学の同期とかを見てもあまりそう言うのを身に付けている人は居ない気がする。
前世の貴族や商家とかの方がそう言うのはしっかり教育していたな。
子供が家業を当然継ぐという社会じゃない事の弊害かね?
遠藤氏はちょっと留まりたいっぽい顔をしたが、にっこりと笑う碧に押し負けて、部屋を出ようと動き始めた。
「そう言えば、こちらの起動させる符は単体で隔離しておいたら、この小石を触れさせたり霊力を流してみても大丈夫ですか?
一応霊力を流した方が観察しやすいと思うので」
碧がしれっと要求した。
「まあ・・・起動用の符はある意味霊力の籠った物から霊力を垂れ流す効果しかないので、短時間なら結構ですがずっと触れていると霊力が枯渇しますので気をつけて下さい」
遠藤氏が言った。
あ、そっか。
小石を外しておくならまだしも、付けっぱなしだったら私達のお守りと同じで常時起動してるから暫くしたら魔力が枯渇するのか。
数万円出して買った符が、使わないで取っておいたらガラクタに劣化しちゃうなんて・・・ちゃんと購入時に告知されてたんかね?
「そう言えば、これを売り出していたのは何処のサイトだったんですか?」
碧が尋ねた。
「Tikt◯kの販売促進動画経由ですね。
販売会社として登録してあったのは架空の会社で住所も存在しませんでしたが」
遠藤氏が言った。
おや。
こないだ購入を悩んだあのサイトと同類?
どちらかを見て、もう一方が真似したのかな?
「ちなみに、遠藤さんの電話があってからネットで『魔法が使える』と言うグッズを見たら色々とあって、Tikt◯kにも50万円とかで売り出しているのもありましたね。
値段帯が違うので別のグループがやっていると思いますが、そう言うのには本物は混じっていましたか?」
ついでなので遠藤氏に聞いておく。
あの買うのを悩んだ高額商品が本物だったのかどうか、知りたい。
「ネットにある怪しげな魔法グッズの全ては確認できては居ませんが、50万円と言うと・・・『奇跡のマジシャン』ですか?
あれは偽物ですね。
こちらの符を買ってそれを使って動画を作って販売サイトを立ち上げただけな様です」
おお〜。
ちゃんと調べてたんだ??
つうか、本物が5万円で詐欺サイトが50万円だったんかい。
なんかこう、50万円もするなら本物かと思いがちだけど、そう言う心理を突いた詐欺手法なのかな?
「50万円の偽物サイトがあるのに5万円で本物を売るって微妙に不思議ですね。
まあ、取り敢えず白龍さまに来ていただいて調べますので、終わったら内線で連絡します」
碧が再度部屋の扉を目で示しながら言った。
「宜しくお願い致します」
ちょっと苦笑しながら遠藤氏が出ていった。
『別にあやつが居たところで何も変わらんのじゃがの。
ちなみに、この石ころは昔大陸の砂漠地帯におった奴の気配がするぞい。
確か、諏訪の聖域が今の碧の直系の先祖の管理下に移った頃に『人が減ったし面倒になった』と言って境界門の維持をやめてこちらから消えた奴じゃったが。
魔力が散ってなかったと言う事は、転移門周辺の結界が暫く残っておったのかの?』
白龍さまが現れてあっさり言った。
え??
諏訪神社と聖域の管理が碧の直接の先祖に移ったのって多分戦国時代にその時の本家を白龍さまが見放した時の事だよね?
そうすると、500年近く前の聖域??
しかも大陸の砂漠地帯って・・・。
やっぱこれ、中国か中東のヤバい連中が関わってるの??
「ちなみに、その聖域が何処にあるか、地図で示したり出来ます?」
碧が尋ねる。
そうだよねぇ。
碧が直接海外に行って聖域の場所を示す訳にはいかないよね。
まあ、海外の聖域が詐欺やテロに使われていたところで、退魔協会がそこを封印したり出来ないだろうから場所を特定できてもあまり関係がないかもだけど。
『地図の見方は難しいからのう。
ちなみに、この力の残滓の塊はここの近くにもあるぞい?
そちらを先に見に行ってはどうかの』
白龍さまがちょっと想定外な事を言った。
そっか。
日本でガンガン売り出しているなら、こっちに纏まった在庫があるのか。
そこに詐欺・・・じゃないけど、ヤバいかもしれない符を売り出している連中がいるのかもだね。
「あら。
じゃあ、そこに行きましょうか。
でも・・・これって一応現時点では違法行為じゃない気がするけど、警察なり退魔協会が乗り込んでいけるのかしらね?」
碧がふと首を傾げながら言った。
そうだった。
詐欺サイトの方はまだしも、実際に5万円で売り出している方は動画で示した通りに紙をくっつけると水を生み出せると言う『マジックアイテム』を売り出しているだけなんだから、違法行為はしてないんだっけ?
危険な使い道は色々とあり過ぎるけど、水が出るだけなら危険物を販売したとも言えないだろうし。
「そう言えば、符の一般販売って違法じゃあないんだっけ?」
「回復用の符に関しては規制があるけど、その他のはねぇ。
一般人じゃ使えないから売ってもしょうがないって言う想定だったから、態々違法だとしなくても、綺麗な模様がある紙を売るのは勝手にすればって話だし、魔法ができるアイテムとして売ったら詐欺扱いでそっちの規制に多分引っ掛かるって事だったんじゃない?」
碧が言った。
そう考えると・・・潜在的な危険性はありまくりだとしても、お偉いさん達はどうやって今やっている行為を止めるつもりなんだろ?
まあ、私の知ったこっちゃないか。
取り敢えず。
遠藤氏に言って符の材料の在庫があるらしき場所に行く前に、まずこの起動用の符の紋様を解読できるか試さなきゃ。




