モヤる
「うっわぁ、もしかして退魔協会で問題になっている『一般人でも使える符』って大陸から来たのかも??」
タブレットでネットを見ていた碧が突然声を上げた。
「え、なんでそう思うの?」
何やら沖縄は独立して将来的には中国の一部になるべきだとか言う様なよく分からない妄想をSNSで大量に広めているとか言うニュースを先日も見たから、あちらの連中が日本にちょっかいを出してきても不思議は無いって言えば無いが、一般人向けの符もそうだとどうして分かったんだろ?
「見て。
中国のTikt◯kの販売サイトで、『君も魔法が使える!』って売り出してる。
まあ、単なる詐欺かもだし、中国の動画サイトを使っているから中国人がやっているとは限らないけど」
碧がタブレットをこちらに動かしながら言った。
まあ、日本じゃあメジャーな動画サイトってこないだサイバー攻撃を受けて情報漏洩したって発表したところ以外だとアメリカのYo◯Tubeか中国のTikt◯kしかない気がするから、どこかの国の企業が提供している動画サイトがその国の関与を意味するかは確実じゃないよね。
動画を再生してみたら、何やら紋様が描かれた紙を手に持った男が裏と表をしっかり見せて仕掛けのない普通の(?)1枚の紙である事をアピールした後、もう一枚の紙をその符の右上に重ねて見せたところ、紋様が燃え上がると共にそこからザバっと水が流れ出た。
テロップに『ご覧の通り、魔法陣の描かれた紙を使った、魔法です!
火が出る魔法陣もありますが、それだと化学反応で発火させているのか映像では分かりませんから、誤魔化しの効かない水を生み出す魔法陣を使いました!』
と書かれている。
言うならば、水球の術の失敗版に近いかな。
まあ、水が出てきて攻撃しちゃったら困るから、バケツに水を溜める程度が無難なんだろう。
「確かに発火だと化学反応で起こすことが可能だから、こうやって水を出す方が本当に魔法だって感じがするけど・・・イマイチ有り難みがない魔法だね」
どうせなら火球が飛び出して的に当たって火花でも散らす方が迫力があるだろうに。
ただまあ、一般家屋の中でそんな事をしたら火事になって大騒ぎだから、この程度の方が現実的だし、必要な魔力量が少ないかも。
「まあね。
これ1枚30万円、2枚だと40万円ってぼったくってるよね。
1枚使ってみて上手くいかなかったら返金OKな2枚セットにしても、普通に水道の蛇口を捻るのとほぼ同じ効果しかないのに」
碧が呆れた様に符を使った後に画面に提示された販売価格や条件を指しながら言った。
「これって、単なる新しい詐欺じゃない?
見た目は一般人でも使える様に見せてるけど、実は普通の魔力が必要な符を使っていて・・・しかも実際に購入して送られて来るのは模様が描かれただけの普通の紙か、何も来ないとか」
実際にヤバい符が出回っているのは退魔協会が慌てているから事実なんだろうけど、魔法陣として売り出されている紙の大多数は詐欺なんじゃないかな。
この動画は本物の符が使われている様だし、この動画を作った人間は一般人で退魔協会が慌てている一般人用の符を手に入れて詐欺を思い立ったのかもだけど、30万円やそこらで本当に一般人が使える符を送って来るとは思えない。
「確かに!
でも、単に水が出るだけの符だとしたらぼったくり価格だけど、30万円だったら出せない事はないからちょっと試しに買ってみない?
どんな仕組みなのか、退魔協会に頼らずに解明できるなら解明してみたいな」
碧が提案した。
「こう言う詐欺に金を払うって知られると、騙されやすい人間だって目をつけられて次から次へと怪しげな広告が来る様になるって話だよ?
布団とか、シロアリ駆除詐欺とかに引っ掛かった高齢者のリストがそれなりな値段で売買されるって言うじゃん」
最近だったらランサムウェアとかで払う人間もリスト化されてそうで怖いよねぇ。
ちゃんとPCのバックアップを定期的に更新して、ランサムウェアでPCが使えなくなっても機体を初期化してバックアップから復元できる様にしておかなきゃ・・・と思うんだけど、まだやっていない。
怪しげな詐欺サイトに接触するなら、そう言うセキュリティ対策もしっかりやっておくほうが良いだろうなぁ。
「う〜ん・・・確かに変な連中にカモだと目を付けられるのは不味いね。
聖域の雑草を使ったお守りを売り続けて良いか、確認したいところなんだけど」
溜め息を吐きながら碧が言った。
「だったら、どこかに私書箱でも借りて、ヤバいの専用の現金振り込み形プリペイドカードでも作ってネットカフェから注文して私書箱に送らせる?
専用の捨てアカウントを作ってやり取りすれば、ヤバそうになったら全部切り捨てられる・・・かも?」
ちょっと手間だけど、確かに聖域の雑草を世に出し続けて良いのかは気になるところだからねぇ。
一個1500円程度なので利益は大した事ないけど、やっぱ喜ばれると嬉しいからね。
碧なんかは回復師として世に尽くしていないのの代わりにカリスマ祈祷師と肩凝りや腰痛用のお守りを販売している面もあるのかも?
退魔協会に関係ない収入源が欲しいって言うのも事実ではあるだろうけど。
「そこまで手間を掛けるのも面倒な気はするんだよねぇ。
マジで退魔協会がもう少し情報を寄越してくれれば良いのに!!
あいつらがお守りの事を知っているかどうか分からないから、お守りを売り続けて良いのかも相談できなくて本当にモヤる!!」
碧がうが〜!!と叫びながらソファに身を投げ出した。
おっと。
源之助がびっくりして目を覚ましちゃったよ?
顔を上げてジト目で見る程度だけど。
それはさておき。
本当に雑草とお守りに関しては悩ましい。
今度何か理由をつけて退魔協会に行って、それとなく遠藤氏に触れてどの程度知られているのか記憶を読めないか試してみるかなぁ?
まあ、遠藤氏が知らなくても上層部とか違う部署が知っている可能性はあるんだけど。




