呪詛の二の舞は止めて欲しい
「あら。
源之助が、まるで寄席っぽいあの番組で積み上げてる座布団の上にいるみたい」
涼しくなってきてから久しぶりの晴れだったのでベランダで干した炬燵の布団を、流石にまだ炬燵に入るには早いと炬燵のテーブルの上に畳んでおいていたらいつの間にか源之助が上に丸まっていた。
猫って居心地のいい寝場所を見つけて占領するのが早いよねぇ。
「確かに!
もっと布団を積んでたらこれが崩れたりしないか、ちょっと実験してみようか。
源之助がどうやって登るか興味があるし」
リビングからそっと覗き込んだ碧が提案した。
「面白そう。
明日の昼も晴れらしいから、私と碧の布団を干した後にここに畳んで積もう」
ふふふ。
明日の夜か明後日の昼が楽しみだ。
まあ、猫だから上手い事積み上げた布団の上にあっさりストンと飛び乗るかもだけど。
登ろうとして崩れてもしれっと布団を自分の好みの形に乱れさせて巣作りするかもだから、明日の昼の間にしっかりこっちの部屋に掃除機をかけておこう。
炬燵を使う時の床カバーも先に敷いておこうかな。
やっと涼しくなってきたし、そろそろクーラー無しでも源之助が膝の上に来てくれるシーズンだね。
まあ、炬燵を使い始めたらそっちに入り浸るから、碧はまだしも私の膝の上には殆ど来ないけど。
「そう言えば、使用者が魔力を流さなくても動く様な魔道具って凛の前世の世界でもあったの?」
丸まって気持ち良さげに眠っている源之助の写真をスマホで撮りながら碧がふと聞いてきた。
「上手く魔力を流せない人も稀にはいたから、そう言う人用のがあったね。
まあ、普通に使う魔道具をオーダーメイドにしたら高いんで、大抵の場合は魔石の魔力を流し込む簡単な魔道具を使っていたようだけど」
全ての魔道具をオーダーメイドにするよりも、起動する部分だけの動作をする魔道具を一つ作らせてそれを各種魔道具に毎回使う方が安上がりだ。
「そっか、そう言う魔力を流し込む符か魔道具を作れれば、普通に退魔協会で売っている符を霊力を使えない一般人でも使えるのか。
そう考えると、色々と応用は効きそうだね」
碧が言った。
「まあ、確かに?
元素系の適性があれば、それなりに真面目に鍛錬すれば殆どの元素の魔力をある程度は使える様になって魔法陣の新規開発は無理でも既存の魔道具を作る程度は出来る様になる筈だと思うけど・・・考えてみたら魔素が薄くて魔石も無いこの世界じゃあ、適性が低い元素の魔素を使えるように鍛錬するのが難しいかもね」
大抵の元素系魔術師は得意な元素があり、それは魔術師としての才能が発現した時点で使える。
他の元素もその魔素にしっかり馴染んで理解を深めればある程度は使えるようになると魔術学院では習ったが、こっちの世界では得意では無い元素の魔素に馴染むと言う行為そのものが難しそうだ。
何と言っても、違う元素の魔素と馴染むための魔石も魔道具もないのだ。
退魔協会で売っていた符の値段を考えると、あれを使い捨てで鍛錬に使おうと考える人間はあまり居ないだろう。
どうせ悪霊退治にはどの元素だろうと大して差はないのだし。
前世だったら魔物と戦ったり攻撃魔術を放ったりする際にどの元素を使うかは術の有効性にそれなりに大きな違いが出たので、魔術師として戦う可能性がある人間はそこそこ必死に鍛錬していたが、魔物がいないこっちの世界では必要性がない。
ちなみに黒魔術師はどれだけ魔石や魔道具で元素系魔力に馴染んで理解を増やそうとしても使えなかった。
元素系魔力と、黒魔術と白魔術って3つの大きく違う力なのかも知れない。
前世ではどれも『魔力』と一纏めにされてたけど。
こっちでも『霊気』でまとまっちゃってるよねぇ。
「攻撃用の符って時々術者が悪ノリして作ったようなやたらと危険なのもあるからなぁ。
あんなのを誰でも起動できるとなったらかなり危険だね」
碧が眉を顰めながら言った。
「考えてみたら、術師が退魔のために符を使って被害を出したら損害賠償責任があるって教わったけど、一般人が悪戯のつもりでそう言う符を発動させて被害を出した場合って責任を問われるの?
それこそ呪詛と同じで『まさか火が出るとは思わなかった』の世界になるのかね?」
ある意味、放火で人を殺しても最初の一回はフリーパスとなったら、呪詛を使うよりもずっと本人的には安全に人殺しを計画できちゃいそう。
何と言っても呪詛返しが無いし、術を辿られる危険も無いのだ。
「・・・問題が起きる前に全ての符から生じた被害には使用者に損害賠償責任がありますって明記するように遠藤さんにでも助言しておこうか」
碧が顔を顰めながら立ち上がった。
だね。
呪詛のフリーパスですらふざけんなって話なのに、呪詛返しと言うリスクすらない殺人手段が最初の一回は使い放題だなんて、それが広まったらマジで退魔師全体が危険視されそうだ。
まあ、政治家とかにとっては利便性が高くなるだけかもだが。




