結局何だったんだろ?
「結局、遠藤氏は何が聞きたくて電話してきたのかな?
もしかして、悪用される可能性があるから迂闊に白龍さまの古い鱗や爪を売るなって遠回しに警告する為?」
電話が終わった後に碧に尋ねる。
ヤバい符が出回っているから聖域の素材を新たな取引先に売らないでくれと言ってくるかと思ったけどそれは無かったし、イマイチ何を求めて電話してきたのか不明だ。
流石に藤山家が白龍様の体の一部を古くて生え変わりの際に落ちた物だとしても売るとは思っていないだろうに。
それとも退魔協会の幹部連中だったら売るのかね?
そんな欲に塗れていると氏神さまに見捨てられるぞ?
と言うか、龍の氏神さまが殆ど残っていないって話だから、どこかで欲をかいて見捨てられてきた家が多いのかな。
まあ、特に何も悪い事をしてなくても、豊かになって無難で面白くない跡取りばかり選ぶ様になって飽きられた可能性もあるが。
豊かになった家ってそれを安定して次世代以降に繋げていこうとすると、選ばれる資質が拡張期の時とは違ってくるからねぇ。
大きくなった家の維持には根回しとか金勘定が上手な当主の方が向いているかもだけど、それじゃあ幻獣には面白味がないだろう。
まあ、幻獣が加護を与える相手が当主である必要はないけど・・・自力じゃなくて生まれだけで偉くなった人間って、自分が全てにおいてトップじゃない場合だとついつい自分の下にいる優れた人間に自分への忠誠を示させたり、下の立場をしっかり周囲に見せ付ける為に敢えてそいつを貶めたりする事が多いからなぁ。
氏神クラスの幻獣のお気に入りにそれをやったら、人間社会の柵なんぞ捨てちまえってさっさと愛し子ごと氏神さまが出奔しちゃいそうだ。
その点、藤山家は元は分家とは言え良くぞ現代までちゃんと続いたよね。
「多分・・・符を今の時代になっても凛の話にある魔道具みたいな使い方が出来ると思っていなかったんだと思うよ。
実際にそう言う案件が出てきて、白龍さまの爪や鱗を使ったらどんな被害が出るか分かったもんじゃないって焦って、遠藤さんに現状確認しろって誰かが命じたんじゃない?」
碧が肩を竦めながら言った。
「でも氏神さまだった幻獣や鬼として退治された魔物からの素材で、それなりに凄い魔道具っぽいのを持っている旧家もあるんでしょ?
今更何を慌ててるの?」
退魔協会の幹部に多い様な旧家の連中だったらそれこそ家宝として危険な符や魔道具を持っているだろうに。
「龍神さまが姿を見せる聖域は今じゃあ日本には殆どないらしいからね。
白龍さまみたいにしょっちゅう顔を出す氏神さまじゃない所だと、もう帰ってくる気がないのか単に出かけているだけなのか不明ってなっている聖域も多いらしいし。気楽に魔道具っぽい物を作れるほど素材がある家は殆ど無いと思う。
だから凛が言う様な魔道具は先祖代々の家宝で、今生きている人間が作った物なんてないんじゃ無いかな?」
碧が指摘した。
そっか、凄い物を作るのが可能なのは一応知識として知っているが、家宝レベルを作れる素材や知識は既に失われているのか。
物作りの技術は、実際に作る素材と需要が無いと絶えちゃうからね。
「じゃあどっかで新しい聖域が出来たとか、幻獣か魔物の素材をゲットした人間がいて、一般人が魔道具として使える様な符を作って売り始めたのかな?」
うっかり開いた境界門に入ってしまって帰り損ねて死んだ幻獣なり魔物なりがいて、その骨や魔石を使えば魔道具が作れるかも知れないが・・・そんなレベルの危険な存在が現世にあらわれて、ニュースになる様な被害を起こさずに人知れず死ぬかね?
「う〜ん、どんな符が出回っているのか分からないし、それを作るのにどの程度の素材が必要なのかも分からないから、イマイチ話が見えないよね。
まあ、何か私らにやってくれって正式に依頼するんだったらそのうちもっと説明してくるでしょ」
碧が肩を竦めた。
あまり気にして無いみたいだねぇ。
前世だったらそれこそ爆弾テロに使う様な危険な魔道具だってあったから、それを感知して防ぐ知識がない現世じゃ危険じゃないかなぁと私的には思うんだが、碧としてはそこまで危険な符は作れないと思っているんかね?
まあ、何と言っても基本的に魔石がない世界だからねぇ。
幻獣なり魔物なりが迷い込んで死んだとしても魔石は一つだし骨に残る魔力の濃度はそれほどでも無いから、危険性はあまりないのかな?
考えてみたら元素系の符を買って実際に試したことは無いから、効果がどの位か知らない。
被害が出たら賠償責任があるって聞いたら、私らが悪霊相手に高い金を払って使う理由がないからねぇ。
もしも退魔協会が何か依頼してきたら、色々とサンプルを要求しようかな。
白と黒魔術師である我々に依頼してくる理由はあまり思いつかないけど。




