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第5話 魔法剣士ナッシュ 中編

 馬車は二週間を掛け、ようやく王都に到着した。

 気がつけばランドルフ王国を出発して1ヶ月が過ぎていた。

 こんなに時間が掛かると思わなかったが、まあ良い。


 早速王宮に参内し、隣国の王と謁見する。

 堅苦しい事は苦手だが、貴族とは何かと面倒な物。

 早く貴族籍から抜けたくなる。


『...ラクトのお嫁さんになれば叶うかな?』


『さすがにそれはお父様やお祖父様が許さないか』

 そんな事を考えている内に謁見は終わった。

 その後、ナッシュの引き渡し手続きを済ませ、王宮が手配した宿に向かう。


「これは...」


「やり過ぎよ」


 他国の重要人物が泊まる宿は宮殿の様な建物だった。

 こんな所に泊まれるもんですか!

 貴族の私と爵位を持たないラクトでは別の部屋になるじゃないか!

 ラクトに美味しい食事も作れない、頭を撫でる事も、眠る彼に頬ずりも出来ないなんて。


「変えて下さい!」


 案内をした役人に申し出るが、了承してくれない。

 国王の命には逆らえないの一点張り、石頭め!


「仕方ないよ、リリ」


「ごめんね」


 押し問答をする私の袖をラクトが掴んだ。

 これ以上彼を困らしてはダメだ、諦めて建物内に入った。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると大勢の人が一斉に頭を下げる。

 こんなの全く趣味じゃない。


「僕はどこに行けば良いですか?」


 並んでいた1人にラクトは尋ねる。

 寂しい...後で抜け出して行くからね。


「ラクト様はリリエッタ様と同じ部屋です」


「は?」


「なんで?」


 今何て言ったの?


「これをランドルフ王国から、リリエッタ様に預かっております」


「...ありがとう」


 手紙を受け取る。

 封筒に捺されているのは我が家の紋章、これを使えるのは、


「お父様だ」


「げ!」


 思わず奇声を発するラクト、苦手だもんね。

 最初は殺されるんじゃないかって程睨まれたから。

 でも今は大丈夫、6年の間にすっかり認めて貰ったんだ。

 しかしお父様と手紙のやりとりは旅の途中で何回かしているのに、どうしてだろ?

 そっと封筒を開き、中の手紙を...


「何これ!?」


「どうしたのリリエッタ」


「何でもない」


 慌てて手紙を封筒に戻す。

 こんなのラクトに見せられるものですか!

 そこにはただ一言、[励め]と書かれていた。


 案内された部屋も豪華その物、専属のお世話係を断り、ようやく私達は落ち着く事が出来た。


「学校に戻ったら大変だろうな」


「そう?」


「だってリリが居ないんだよ?みんな大変だって」


 ソファに座るラクトの顔色はさえない。

 心配が尽きないのは彼の性分だろう。

 それよりラクトの居ない事の方が学校にとって大変だと思う。


 優れたヒーラーとして診療所で大勢の患者から信頼されているだけじゃなく、教育者としても学校の生徒達からも慕われているラクト。

 彼は自分の評価が低すぎる。


「大丈夫よ、学校への指示は早馬を使ってるから」


「そうだけど」


 ランドルフ王国へ手紙のやり取りは行っている。

 手紙には先に帰した二人の処遇について、お父様から知らされているのだ。

 この事はまだラクトに教えて無い。

 心配性な彼の事、その事に気を取られたらせっかくの時間がもったいない。


「今はナッシュの事を...私達の事を考えましょ」


「そうだね...」


 少しズルいが、話をすり替える。

 こうして素晴らしい1日が終わった。


 励んだかって?


 内緒。



「お待たせしました」


 翌朝私達の部屋に1人の衛士が入って来た。

 彼はナッシュの収監されている監獄の責任者。

 ようやく引き渡しの手続きが終わったのか。


「どうぞ」


 馬車は大きな建物に到着する。

 衛士の後に続き建物の奥へと進む。

 王都だけあって施設は清潔に保たれている。

 これならナッシュの待遇も報告通り、酷い物では無かっただろう。


 しかし報告書には捕まったナッシュは酷く窶れていたとあった。

 やなり逃亡生活はそれだけ過酷だったという事か。


「...ナッシュは」


 歩きながら衛士が呟く。

 独り言の(てい)なのは、言い難い事だからか?


「捕まった時は比較的元気でして」


「それって...」

「ラクト静かに!」


 言葉を挟もうとするラクトを抑える。

 心を読める私と違い何も分からないラクトは不安だろう、しかし衛士は伝えようとしているんだ。


「身体が...どうした訳でしょうね。

 どんどん衰え、いや衰えとは違うか...」


「え?」


 衛士の心に思わず声が出る。

 そんな事って...


「どうしたの?」


「...大丈夫よ」


 私の様子にラクトは心配そうに見る。

 落ち着かねば、これは先の予想が出来ないぞ。


「こちらです」


「ここって」


 案内されたのは監獄内に設置されている医務室だった。

 ナッシュの状態が重篤という事か。


「この二日、ナッシュの意識が朦朧となりまして、医師達にも診せたのですが」


「原因が分からないと」


「はい、貴方達と同じヒーラー方達でも」


「成る程」


「そんな」


 ランドルフ王国が認定したヒーラーでも分からないナッシュの症状。

 ラクトも不安を隠せない様子だ。


「そのカーテン奥にあるベッドに寝かせてます。

 身体は拘束してますが、危害を加える為でありませんので」


「逃亡を防ぐ為ですね、大丈夫です」


 当然の処置だ。

 自由にさせていたら、意識を取り戻したナッシュが逃げる可能性もあるのだから。


「それでは」


「はい」


「ありがとうございます」


 衛士が部屋を出ると扉が施錠された。

 まあ仕方ない、衛士は決まった手順を守っているだけ。


「開けるわよ」


「うん」


 そっとカーテンを引くと一台のベッドに拘束され、仰向けで寝かされた人間が姿を現す。

 意識は無い、静かに閉じられた瞳、痩せ衰えた手足、確かに(やつ)れてはいるが。


「...誰だよこの人?」


 ポツリとラクトが呟く。

 その気持ちは分かる、私だって混乱しているのだ。


 人相書と違うとかのレベルでは無い。


 しかし私には分かった。

 この人は眠っているが、夢を観ている。

 夢の中で彼は言っているのだ、自分の名前を...


「ナッシュよ」


「嘘だ!!」


 激しく叫ぶラクトだが、間違い無いの。


「彼...いいえ彼女がナッシュよ」


 窶れても尚美しい容姿の彼女がラクトの恩人ナッシュ、正しくはナンシーだった。


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