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第2話 リリエッタの想い

「よっぽど疲れていたのね」


 ソファーにもたれ掛かりながら眠るラクト。

 後ろから首を支えながら、ゆっくりと寝かせる。

 ソッと可愛い寝顔に頬ずり、これくらい良いよね?


 膝に掛けていたブランケットをラクトの身体に被せると、握りしめて笑っている。

 もちろん眠りから覚めてはいない。

 どうした事か胸が熱い、大きく深呼吸を繰り返し、再びラクトの寝顔を見つめた。


「あらあら」


 よく見たらラクトの唇にサブレーの欠片が付いてるじゃない。

 細心の注意を払いながら指先で摘まんで食べた。


「...美味しい」


 彼に出す菓子は全て私の手作り。

 ついでに言えば、ラクトの着ている服も私の手製だ。


 昔から料理や裁縫が趣味の私。

 しかし私は周りに冷悧な印象を与えてしまう、加えて貴族の令嬢は余りそういった事を自分でしない。

 だから私の家族や使用人等、一部の人しか知らない秘密なのだ。


「お休み、ラクト」


 応接間にラクトを残し、先ほどスタッフから預かった報告書に目を通す。


「こんなに沢山の人を...」


 昨夜の襲撃で怪我を負い、診療所に運び込まれた人達を誰がどんな治療をしたのか記録した物。


「凄いわ...1人で四肢の欠損を32人も...」


 余りの人数に信じられない。

 一晩でこれほど大量の人間に復元魔法は桁外れだ。

 誰でも出来る事とラクトは思っているが、とんでもない。


 確かにラクトより早く復元魔法を使えるヒーラーは居る。

 しかし彼の復元は他の人と精度が違う。

 ラクトが復元した身体は完全に元通りになっている。

 見た目はもちろん、感覚、その後の成長まで全てが完璧なのだ。


 そして魔力量だ、人より魔力量が多い私でさえ2、3人が限界だ。

 それも休憩しながらなのに、それを一日で30人以上なんか。


「結局ラクトが全員の欠損者を治療したのね...1人の失敗も無しか」


 四肢の欠損者を全てラクトに回す様に命じたのは私だ。


 やむを得なかった。

 昨夜は次々と運び込まれる怪我人に現場を取り仕切る私はパニック寸前だったのだ。

 一刻も早く止血をしないと命に関わる。


 普通の治癒魔法を他のヒーラーと手分けし、ラクトだけ復元魔法を押し付ける結果になってしまった。

 大変な負担だったろう。


 しかしラクトは恨み言を言わなった。

 口にしなかっただけじゃなく、心の中もそうだ。


 私は人の心が読める。

 これは一族の中でも極稀に生まれ持つ秘密の特殊能力。

 お祖父様はこの力で数々の武勲を挙げ、一兵卒から将軍にまで上り詰めた。

 お父様はこの力を使い宰相として他国との外交を担っている。


 その力でラクトの心を読んだ。

 彼は心の底から『困っている人を助けたい』そう考えていた。

 彼の頭には金儲けや名声は全く無いのだ。


「...私の事を誉めすぎよ」


 さっきラクトが思っていた事を思い出してしまう。

 私は綺麗じゃない。

 見た目だって女の子っぽく無いし、いつも気を張っているせいか、誰からも敬遠されているのだ。


 たまに私を誉める奴もいるが、大抵は私の身体か、貴族令嬢の身分目当て。

 そんな連中に辟易していた。


「本当、ラクトって邪気が無いのよね」


 思い返してみれば、最初からそうだった。

 入学式の後、自己紹介をした時に彼が言った。


『ラクトです!

 専攻は治癒魔法、早く立派なヒーラーになって恩返しがしたいです!』

 元気な声で彼は言った。


『どうせ口だけだろう』

 周りの人達はそう思っていた。

 実際殆どの人はそうなのだ。


 国家資格であるヒーラーは大金と名声を得る事が出来る。

 治療院を開業したり、冒険者パーティに加入したりだ。

 そんな野心を持たないラクトは稀有な存在だった。


「でも...本当は冒険者に戻りたいのよね」


 一度だけラクトが私に言った。


『恩返しをしたい人達が居るんです』

 それはラクトの恩人達。

 命を救い、彼にヒーラーとしての道を照らしてくれた冒険者パーティ[龍の集い]。


『行方不明になってしまい、連絡が取れないんだ。

 リリエッタ、どうか探して欲しい』

 涙を溜めたラクトに私は彼等の捜索に協力を約束した。

 家の力を使い、彼等の行方を探したが...


「ならず者の集団だったなんて」


 冒険者パーティとは名ばかり。

 実際の彼等は他の冒険者達を食い物にし、危険な目に遭わせ金を巻き上げたり、護衛の商人を脅し金銭を奪ったりとやりたい放題だった。

 この事をラクトは知らない。


 言えなかった。


 ラクトは奴等の冒険に同行しないで、ずっと留守番だった。

 悪名が高まる前に拠点を移し、次のターゲットを探す事を繰り返していた。


 そんな奴等が、なぜラクトに親切だったのか謎だ。

 利用するために雑用ばかりラクトに押し付けたと言っても、僅かなお金を渡していたし、彼を危険な目に遭わせたりはしなかった。


 なにより、ラクトがヒーラー養成学校に入る為に予備校や学校の入学費用、卒業までの学費、更に寮の滞在費まで全て支払っていた。


「...分からない」


 どうしてそこまでラクトにしてやる気になったのだ?

 訳を聞こうにも、奴等は行方不明。

 6年前、ラクトを送り出してからの足取りが掴めない。


「リリエッタ様」


「なんですか?」


 部屋の扉がノックされる。

 返事をすると1人の事務員がドアを開け、頭を下げた。


「報告書があがって参りました」


「報告書?昨日の件ならもう...」


「いいえ、龍の集いの事です」


「え?」


 思いもよらない言葉に思わず立ち上がる。

 急いで報告書を受けとり、事務員を下がらせた。


「お父様からか」


 報告書は封筒に入っており、我が家の紋章が押印されていた。


「さて」


 ペーパーナイフで封を開ける。

 中には数通の報告書が入っていた。


「なるほど」


 龍の集いは隣国で変わらず悪どい事をやっていたが、遂に王兵達から追い詰められ、メンバーは散り散りに逃げた。

 しかし、とうとう全員が捕まり、酷い拷問を受けて拘束されている、と書かれていた。


「...どうしたらいいの?」


 これをそのままラクトに教える訳にいかない。

 彼の事だ、きっとみんな誤解してると言い出しかねない。


「これは...」


 続いてお父様が書いた便箋に目を留める。


「なるほど...」


 そこには捕まった龍の集いのメンバーをこちらに引き渡す様に隣国と話をしたと書いてあった。


 「被害者の洗い出しに奴等の証言が必要だから...か」


 これなら連中の身柄を引き取る事が出来る。


「よし」


 ラクトが目覚めたら早速旅立つとしよう。

 手紙に連中は酷い怪我を負ったと書いてある。

 先ずはそれからだ。


 ラクトと私の隣国へ奴等の身元引き受け人と、出国願いを宰相であるお父様宛に書くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりのお手製。 それと同時にやはり超有能だが、自己評価が低い主人公。 某カナダ娘見たいにラクトに襲い掛かる日は何時なんだのお嬢様。 [気になる点] おいおい、人の心読むお嬢様か。 な…
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