第6話 龍の集いの仲間達 ~ ラクトからの恩返し 中編
ラクトを送り出してから、私達は気の抜けた毎日を過ごす様になった。
三人で何度も話し合い、納得したはずだったがアルテナとアリシアはいつもラクトの心配ばかりしていた。
私も口にこそ出さなかったが、寂しさから胸が押し潰されそうだった。
かといって、ラクトに手紙なんか書けない。
ヒーラーとして、真っ当な新しい人生を掴んで欲しいと望んだのだ。
才気に溢れ、魔力の資質にも優れたラクト。
私達みたいな、薄汚れた生き方を決してさせてはならないと思った。
『ナッシュ、ここを離れましょう。
ラクトの為に、私達がここに居てはダメです』
アリシアの言葉に異論は無かった。
きっとラクトはヒーラーになれたら私達の元に帰って来る。
私達にとって嬉しい事だが、それは絶対に避けなくてはいけなかった。
『そうだな』
『...私もそう思います』
こうして私達は旅立ち、居場所を転々とする生活が始まった。
もうラクトと会えない、そんな気持ちが、私達の悪名へと繋がっていった。
怒りに任せ、気に入らない奴を痛めつけたり、時には理不尽な事を言う依頼主も容赦なく叩きのめしたりした。
遂にお訪ね者となってしまった私達は隣国へ逃げ、そして捕まったのだ。
牢獄で身体の崩壊が始まって気を失い、意識を取り戻した時、自分の身体が女に戻っていた。
何が起こったのか分からなかった。
記憶にある身体と少し違うが、懐かしい女の身体だった。
その後、ランドルフ王国からの使いだと名乗った兵士によって王国に連行された。
『誰が私を治療したんだ?』
『それは言えません、治療したお方は先に戻られました』
それ以上の事を兵士は教えてくれなかった。
そして裁判となるはずが、何故か査問会で私は無罪となったのだ。
『私がナッシュです!
仲間の罪は全て私が主導したものなのです』
仲間が既に捕まっている事を聞き、必死で抗議する私だったが、
『龍の集いのナッシュは男と聞いている、貴様は女ではないか』
査問官の言葉に私は全て打ち明けた。
『それは以前怪我をし、ヒーラーが治療した際にアッシュ...男性の身体が融合してしまったのです』
信じて貰えない話かもしれないが、私は必死だった。
龍の集いがした罪は全てパーティーリーダーの私にある。
『ほう...ならば貴様を治癒したヒーラーに聞くとしよう』
『それは?』
査問官の言葉に一人の男性が査問室に入って来た。
それは私が魔獣に齧られた時に治療をした、あのヒーラーだった。
『貴様が治癒したのはこの女か?』
『そうです』
査問官がヒーラーに質問を始めた。
『どのような治療だった?』
『酷い怪我をしておりましたが、幸いにもヒールは上手く行きました』
『そうか、その際にこの女が男に変わったという事は?』
『あり得ません、ヒールでは性別が変わったりしません』
『な?』
どうしてヒーラーは嘘を吐くのか。
私は何故性別が変わってしまったのかを彼に聞いたのだ。
ヒーラーの言葉に頭が真っ白になった。
『そうであろう、性別が変わる等聞いた事が無い』
『...そんな』
これでは私がナッシュだと証明出来ない。
『では私を再び治癒したヒーラーを呼んで下さい!
確か貴国のヒーラーだと聞きました!』
『呼んでなんとする?』
『私が男だった事を知っている筈です。
その者により、私は男から女に戻されたのですから』
『...ほう』
そう言って査問官は目を瞑る。
長い沈黙の時間、ヒーラーの男は複雑な顔で私を見ていた。
『...その者は現在ヒーラー養成学校の講師を勤めております』
『そうか』
再び口を開いたヒーラーに査問官が静かに頷く。
『養成学校に入ったのは自分を助けてくれた恩人達に恩返しをする為だと』
『...まさかそれは?』
『黙って最後まで聞くのだ』
『...はい』
質問は遮られ、ヒーラーの言葉が続く。
『彼は優秀なだけでなく、努力家でしてね、素晴らしいヒーラーになりました、今やランドルフ王国の宝です』
『...ラクト』
間違いない、そのヒーラーはラクトだ!
『その者を今回龍の集い達を引き取る為に隣国へ遣わしたのか?』
『そう聞いております』
『あぁ...』
ラクトが私を助けてくれたんだ。
私が女だと知り、きっと驚いた事だろうな...
『そのヒーラーを呼ぶか?』
『まさか?』
ラクトに会えるの?
『ただ、そのヒーラーは何故か治療したのは無関係の女だった、そう報告しておる』
『...う』
どうして、私に気づかなかったの?
『ナッシュと知りつつ、そのヒーラーは治療し、報告を捏造した。
つまりヒーラーは龍の集いの一員と言う事になる』
『ああ!』
しまった!
激しい後悔が押し寄せ、床を叩く私に査問官は続けた。
『お前がナンシーならば話は別だ』
『と...言いますと?』
『ナッシュは隣国で身体が崩壊して死んだ。
貴様がナンシーと言う無関係の女ならば誰も罪に問われぬ』
『は?』
『どうする?』
その時、ようやく理解した。
ここでラクトを助けるには認めるしか無いのだと...
『...私はナンシーです』
こうして無罪となった私は再びナンシーとなり、ランドルフ王国から冒険者ギルドへの仕事を斡旋された。
どうしてランドルフ王国がここまでしてくれたのか未だに分からない。
「ラクトやみんなは今どうしてるんだろう?」
ラクトは立派なヒーラーになれたと分かったが、どうしても仲間の事を知りたい。
殺されたのだろうか?
調べる術が無い、何故か龍の集いに対する文書は全部抹消されている。
ギルドを辞めて調べ歩く事も出来ない。
私が身を隠せばラクトに迷惑を掛けてしまうだろう。
こうして私の1日が過ぎて行った。
「ナンシー様、お手紙です」
「手紙?」
翌日、私の元に届いた手紙。
仕事の業務以外で手紙なんか来る事が無い筈だが...
「王国から?」
立派な装飾が施された封筒。
しっかりと封蝋までされている。
緊張しながら封を開けた。
「これは?」
中に入っていたのは一通の手紙。
[ナンシー
貴女に来て貰いたい場所があります。
使いの馬車を用意しました。
ラクトが会いたがっています。
リリエッタ]
短い手紙にはそう書かれていた。




