第6話 龍の集いの仲間達 ~ ラクトからの恩返し 前編
再開します。
1日の業務が終わり、冒険者達が出たギルドの建物は静寂に包まれる。
聞こえているのは職員達がペンを走らせる音だけ。
一人の女性が席を立ち、私の前にやって来た。
「本日の報告書をお持ちしました」
「ありがとう」
ギルド職員のサリムから報告書を受け取り、目を通す。
毎日の事だが慣れない、まさか私が冒険者ギルドマスターになるなんて。
こんな未来は誰が予想しただろう?
数年前までお尋ね者だった私が、龍の集いとして、悪辣な事ばかりしていたのに。
「どうされました?」
「いいえ、なんでも。
今日はもう良いから終わってちょうだい」
「はい、お疲れ様です」
複雑な気持ちが顔に出てしまっていた様だ。
ギルドの職員達が出ていき、薄暗い部屋に私一人が残される。
このギルドに来て早いもので三年が過ぎた。
ランドルフ王国を逃げ出し、仲間を犠牲にしてしまった私。
身体の崩壊が始まり、私は捕まってしまった。
以前の身体は恋人のアッシュと融合していたので、定期的に男の性を吐き出さないと身体のバランスが崩れてしまうのは分かっていた。
仲間と寝る訳にいかないので、いつもは町に居る適当な女達を相手に処理していたが、逃亡中はそれが出来なかったのだ。
いや、しようと思えば出来たが、しなかったのが正解だろう。
もう嫌になっていたのだ、ラクトの居ない生活に...
「...ラクト...アッシュ」
幼馴染みで恋人だったアッシュを死なせてしまったのは私のヘマが原因。
魔獣の口に齧られた私の前でアッシュは首を噛み千切られ死んだ。
私も直ぐに後を追えると思ったが、どうした訳か生き延びてしまった、アッシュの身体と混ざり合う事で。
正直絶望しか無かった。
恋人を失ない、女としての身体も、将来の希望まで失なってしまったのだから。
私を助けたのは魔獣退治を依頼した奴等だった。
魔獣退治をするには国規模の依頼になるが、秘密裏で退治しようと企んだのだ。
魔獣から取れる貴重な素材を自分達の物にするのが目当て。
奴等の提示する報酬に目が眩んだ冒険者達がそれに乗った。
私達もそんな連中の一人だった。
私を助けた目的は奴等の女にする為で、親切からでは無かった。
私がアッシュと混ざってしまったのが分かると、奴等は私を宿に残し姿を消してしまった。
私は死を望んだが、出来なかった。
それは私の身体の中に、間違いなくアッシュは生きていたのだから。
私はナッシュと名を変え、再び冒険者として生きる決意を固めた。
私を治療したヒーラーはランドルフ王国の人間と聞いていたので、そこを拠点と決めた。
理由は簡単で、私からアッシュの身体を引き離せば彼が生き返るかもしれないと思ったからだ。
しかし、そんな事は出来ないと知った。
ようやく探し当てたヒーラーはランドルフ王国でヒーラー養成学校の講師を務めていた。
病気の息子を助ける為、金が必要となり、魔獣退治に参加していたのだ。
ヒーラーでも死んだ人間を再び生き返らせる事は出来ない、そして私も元の姿に戻せないと言った。
絶望したが、やはり死ねなかった。
それは仲間の存在があったからだ。
自らの過ちから旦那と子供を失なったアリス。
国を追われ、幼い弟を失なったアルテナ。
二人の仲間と支え合い、生きて来た。
目的なんか無い、ただ弱者を虐げる奴等は許せなかった。
報酬を横取りしたり、女を食いものにする奴等を叩きのめした。
恨まれるのは覚悟していた、金も奪ったし。
そんなある日、アルテナが一人の子供を拾って来た。
ラクトと名乗った子供は10歳だと言ったが、どうみてもそうは見えなかった。
もしやと思いアルテナから話を聞くと、やはり両親から虐待されおり、死にかけていたという。
仲間に入れてやって欲しいとアルテナが言い、アリシアもお願いと言った。
面倒はごめんだと言ったが、本当は私も二人と同じ気持ちだった。
なぜなら、ラクトに恋人だったアッシュの面影を見たのだから。
早速ラクトを引き取る為、私達三人は親と話をつける事にした。
予想通りの屑共だったが、少しばかり痛めつけると、あっさりラクトを手放した。
手切れ金を奴等に投げつけ、ラクトは私達の仲間となった。
「楽しかったな...」
ラクトと暮らした時間は私達が失くした物を取り戻す気がした。
アルテナは弟として、アリシアは息子の様に、私は男としてしか接する事が出来ないのがもどかしかった。
ラクトが膨大な魔力を持っている事は直ぐに分かったが、それは教えなかった。
魔術師として鍛えれば、大きな戦力になると分かっていたけれど、ラクトが私達の元を去る事が怖かった。
ラクトが自分から消える事は無いと分かっているが、危険と隣り合わせなのが冒険者。
何かあってラクトを失なってしまうんじゃないかと考えるだけで恐ろしく、私達は雑用だけを彼に頼み、そのまま見習いとしていた。
そんなラクトが町に居るヒーラーの手伝いをしていると知ったのは三年が経った頃だった。
そのヒーラーを調べると碌でもない奴で、ラクトをタダ働きさせている事が分かった。
私はヒーラーの元を訪れ、ラクトに支払う筈だった金を取り上げた。
最初は抵抗していたが、ヒーラーの資格を持たない偽物だったので、そこを強要と奴は逃げ出してしまった。
落ち込むラクトに私は何が出来るか考えた。
そして思い出したのだ、私を治療したヒーラーの事を。
それがラクトの運命を変えて行くと覚悟し、奴に手紙を書いた。
[どうかラクトを頼む]と...




