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第6話 龍の集いの仲間達 ~ アルテナからアリシアに戻った日

三人、三つに分けます。

 半年前、ランドルフ王国に連れ戻された私は静かに死を待っていた。


『もう思い残す事は無い』

 残された仲間の事が気にならないと言えば嘘になる。


 しかしラクトに会えた。

 彼は立派なヒーラーになれたんだ

 そう考えるだけで自分の人生は誇れるような気がしていた。


「アルテナ」


 門番が現れた。

 今日、私に審判が下るのだ。

 結果は分かっている。

 戻って以来、毎日の様に行われた取り調べ。

 私は全ての罪を認めた。


 正直、身に覚えの無い物も多々あった。

 明らかに罪をなすりつけられた物も。

 しかし反論しなかった。

 今更なのだ、有罪の証拠も無いが無罪の証拠も無い。

 あるのは龍の集いが悪事を働いて来た事実だけ。


「はい」


「出なさい、時間だ」


「分かりました」


 牢屋の鍵が開き、ゆっくりと歩き出す。

 これから審判の場に行く。

 死罪を言い渡された囚人はその場で処刑場に引き出されるのが通例だ。

 せめて見苦しい最後だけは見せない様にしよう。


 せっかくラクトが治してくれたこの身体。

 また傷をつけてしまうのは忍びない。

 出来るだけ綺麗に、出来れば心臓を一突で死にたいと思う。


「入れ」


「はい」


 部屋の前で門番は立ち止まり、鍵を開ける。

 そこは審判の部屋。

 中に並ぶのは私を尋問した人々と、被害にあったとされる冒険者や商人達。

 冒険者や商人達に見覚えの無い顔も混じっているが、どうでもいい。


 「冒険者パーティー、龍の集いアルテナ」


 中央に座っていた査問員の1人が名を呼んだ。

 あの人は私を尋問した1人。

 鋭い目付きはどこかで見た覚えがある。


 「冒険者や商人から数々の訴え、全ての罪を認めるという事で宜しいかな?」


 「認めます」


 しっかりと頷く。

 言い訳なんかしたくない、潔くだ。


「分かりました。

 では判決を、()()()()には死罪を言い渡します」


「お受けします」


 ゆっくりと頭を下げる。

 不思議な程、心は穏やかだ。

 故国を逃れ、実家の汚名を(そそ)ぐまでは、そう思って最初の頃は生きてきたのに、いつのまにかそんな気概は失せていた。


「宜しい、連れて行きなさい」


 査問員が頷くと衛兵が私の両脇を掴もうとする。


「1人で行けます」


 衛兵の腕をほどき前を見据える。

 一礼をして衛兵に続き、審判の部屋を出た。


「何処で処刑するのですか?」


 衛兵に尋ねるが、何も答えない。

 外に連れ出されての処刑かと思ったが、衛兵が立ち止まったのは屋内の一室。


「入りなさい」


「分かりました」


 どうやら屋内での処刑になるのか。

 と、いう事は血を撒き散らす様な方法じゃない。

 縛り首か毒だろう。


 「アルテナは今、死にました」


 「は?」


 衛兵の言葉が理解出来ない。

 死んだって私はまだ生きてるのに?


『まさか今から拷問を?』

 それは無いか。

 牢屋の生活は三食付きでベッドにはクッションが置かれ、暖かい毛布まで支給されていたのだから。


「そこにある服に着替えなさい、終わったら呼ぶように」


「はい?」


 混乱する私を他所に扉が閉まる。

 確かに部屋の真ん中には服が入った箱が置かれている。

 その横には大きな鏡と別に小さな箱、そして一脚の椅子、小さな箱には化粧品まで。

 これが意味するのは...


「最後に死に化粧をって事か」


 綺麗な服を着て最後を美しく飾る。

きっとこの後、改めて処刑されるのだ。

リリエッタさんの配慮だ、彼女の温かな気持ちが嬉しかった。


「...この服って」


 用意されていた服に言葉を失う。

 これは私の祖国の衣装、サリム王国の貴族が纏う物だった。


 汚してしまうのが勿体無い。

 断ろうと思ったが、最後にもう一度だけ着てみたいと思う気持ちに勝てなかった。


「久し振りね」


 鏡に映った自分の姿に懐かしさがこみ上げる。

 故国で母親が着ていた衣装。

 私はまだ子供だった、隣には可愛い弟がいて...


「終わりましたか?」


 流れる涙を拭っていると門番から声が掛かった。

 今から脱ぐ時間は無い、せっかくだからリリエッタさんの温情に甘えるとしよう。

 結局化粧は出来なかった。


「はい、終わりました」


「「失礼します」」


「貴女達は?」


 私の返事を聞くや部屋に入って来たのは門番では無かった。


 二人の女性。

 彼女達は私と同じサリム王国の衣装を纏っていた。


「よくお似合いですよ」


「やはり故郷の服は良いでしょ?」


「は?」


 一体彼女達は誰だろう?

 故郷という事は彼女達もサリム王国の人間だろうか?

 そういえば髪や肌の色が私と同じだ。


「お化粧を始めます」


「最後の仕上げですよ。さあ、お座り下さい」


「...はい」


 訳が分からない。

 言われたまま椅子に座ると彼女達は慣れた手つきで私の髪を()き始めた。


「終わりましたよ」


「...これは」


 鏡に映っていたのはサリム王国伝統の化粧を施された私。

 美しい髪飾りで装飾された私の姿だった。


「さあ付いて来て下さい」


「...あの」


 続いて表れた先程の衛兵が優しく私を呼ぶ。

 先程までと態度がまるで違う、混乱する私は黙って三人の後に続いた。


「どうぞ」


「これは?」


 牢屋の建物を出ると用意されていたのは一台の馬車。

 これってランドルフ王国の紋章が飾られているではないか。


「乗れません!」


 これに乗れるのはランドルフ王国の貴族か、外国の要人だ。

 少なくとも罪人が乗っていい物じゃない。


「許可は国王陛下から」


「...国王陛下?」


 今なんて言ったの?

 国王陛下ってランドルフ王国の?

 そんな方がどうして私に?


 何が何やら分からない私の背中を先程の女性達が押す。

 気づけば馬車は走りだしていた。


「着きましたよ」


「ここは王宮...」


 開いた扉の向こうに見えるのはランドルフ王国の王宮。

 王都には護送されて初めて来たのだが、牢屋の窓から見える建物には見覚えがあった。

 本で見たランドルフ王国、王宮の絵。

 それが私の目の前に...


「さあお入り下さい」


「いや、私はあの...」


 門の前に並んでいた王兵達が一斉に剣を掲げる。

 これは要人を迎える際の礼、故国サリム王国の儀礼だった。


「到着されました」


 一際大きな扉の前で立ち止まり、案内の兵が言った。

 何かが始まる、私の運命を変える何かが。


「うむ」


 扉の向こうから威厳溢れる声がする。

 開いた扉の中にいた数人が私を一斉に見た。

 皆正装をしている。

 彼等の醸し出す雰囲気は間違いなくただ者では無い。


 部屋の奥が一段高くなっていて、その壇上に置かれた豪華な椅子、そして座る1人の男性。


『まさか...ここって...』

 口を開くも声が出ない。

 間違いない、ここは王の間だ!

 あの方はランドルフ王国の国王陛下に違いない、肖像画でしか見たこと無いけど。


「さあ」


「行きましょう」


「...あのちょっと」


 二人の女性が私の両手を取り前へと進む。

 こんな事って、一体?

 国王陛下の階下に進むと二人の女性が膝まづく。

 慌てて私も二人に倣った。


「私がランドルフ王国国王ラムセス三世である。

 貴殿がアルテナで間違いないかな?」


「...あ、その...そうでございます」


 頭が真っ白になる。

 直接国王陛下からお声を賜るなんて...


「ふむ、緊張致しておるな」


「申し訳ございません、未だ何が何やら」


 必死で貴族のマナーを思い出す。

 しかしダメだ、何しろ貴族としての私は10歳から止まっているのだから。


「陛下、アルテナでは些か不味うございます、先程アルテナの処断が終わりましたので」


 階下に並ぶ1人の男性が言った。

 さっき聞いた声だ...まさか?


「そうか、ではアリシアで良いかな?」


「それならば」


『は?』

 思わず口から出そうになる。

 なぜ私の本当の名前を...リリエッタさんから聞いたのか?

 しかし、なぜ国王陛下がその名前を。


「元サリム王国、伯爵令嬢アリシア・カサリ、(おもて)を上げよ」


「はい」


 正式に名前を呼ばれ、反射的に顔を上げる。

 とっくにマナーなんか忘れてたと思っていたが。


「ほう...」


「確かに元サリム王国の者に間違いありませんな」


 私の顔を見た周りの人達が何やら呟いている。

 何の事だ?

 確かに私の肌や瞳の色はランドルフ王国では珍しいが。


「どうだ、アリシアに間違いなかったか?」


 先程の男性が声を掛ける。

 間違いない、さっき審判の間で私に死罪を言い渡した人だ。


「はい、カサリ伯爵のアリシア令嬢に間違いございません...」


「...先程確認致しました」


 両隣に居た女性達は私を見つめながら報告した。

 横目で見ると二人の目に涙が浮かんでいた。


「この者達は元サリム王国で貴族省の登録係をしておった者達だ」


「...貴族省の登録」


 懐かしい役名だ。

 サリム王国では貴族の子が生まれたら全て登録を義務つけられている。

 それは毎年行われ、容姿、身体の特徴、果てはホクロの位置まで。

 偽貴族を防ぐ為だとは聞いていたが。


「さすがはラクトだな、そこまで復元するとは」


「え?」


 今何て言ったの?

 男性は慌てる私を見て微笑みを浮かべた。

 年の頃なら40代、大きな身体、なによりその鋭い眼光、もう確信した。


「貴方はリリエッタ様の....」


「うむ、リリエッタは我が娘だ。

 此度の事、全て報告は受けておる。

 ランドルフ王国で宰相を務めるマーロンだ」


「畏れ大い事です」


 慌てて平伏する。

 まさかリリエッタさんのお父様が王国の重鎮だったなんて。


「そろそろ始めるかな」


「陛下お願い致します」


 陛下の声に再び部屋の緊張が高まる。

 何が始まるというのか?


「アリシア・カサリ、貴殿を元サリム王国へ還す事とする」


「何と仰せに?」


 サリム王国へ還す?意味が分からない。


「アリシア様は家族でサリム王国を脱出し、逃亡中に王国の追手に捕まった。

 違うかな?」


「...そうです」


 息が詰まる忌まわしい記憶。

 14年前、クーデターで国を変えようとした父は失敗し、私達一族は国を追われた。

 その道中、追手に捕まり父と母は命を落とした。

 私は必死で弟の手を取り逃げた、だが結局その弟まで...


「辛い事を思い出させてしまったかな?」


「いいえ」


 リリエッタのお父様の言葉に首を振る。

 どうやら私は反逆者の娘としてサリム王国に連れ戻されるのか。

 その為にこの女性達はランドルフ王国に呼ばれたという事なんだな。


「何か誤解をしておるな」


「誤解ですか?」


 陛下に向き直る、何が誤解なのか?


「アリシア殿、サリム王国は現在存在しないのだ」


 宰相であるマーロン様が代わりに答えた。


「サリム王族が莫大な借財を返せずにな、周辺諸国に散っていた14年前の貴族達が先日再びクーデターを...まあ少しだけ我が国も手助けはしたがな」


「...まさか」


「アリシアのお父上達、そのご遺志を継ぐ者が居たという事だ、サリムの王族は国を棄てて逃げおったわ。

 これから新しいサリム王国が出来るのだ。

 もう帰っても安心だぞ、アリシアの立場はランドルフ王国が保障する」


「お父様...」


 熱い涙が頬を濡らす。

 まさかこんな素晴らしい事が現実に起きるなんて...


 こうして私は14年振りに故国に帰る事が出来た。

 新しく生まれ変わったサリム王国。

 私は伯爵家を再興し、国に尽くす事となった。


 そして数年後、ランドルフ王国の招きでリリエッタさんとラクトの結婚式に出席するのだった。

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