転生双子は国を掌握したいようです
「えっと、だから、ね――」
私は双子の兄に思い出したことをポツリポツリと話し始める。
どういうわけか、私は前世の記憶を持っていていわゆる転生者だった。
そして、それは双子の兄も一緒で5歳のときにお互いに転生者だと知ってからは、どちらかの部屋で話し合うことが多くなった。
「ここ、ゲームの世界にさ、似てるんだよ」
兄も私も、どこか朧ながら見覚えがある世界だという感覚はあった。
だけど、わからないまま時間は過ぎて、私たちは15歳になっていた。
明日は貴族学校の入学式を控えている。
「ついに解決か」
「そうだね」
「で、RPGとか?」
残念ながらと首を横に振った私は、答えを口にする。
前世でゲームは流行りを遊んでいた程度の兄と、ヘボゲーマーだった私が共通してやりそうなものだとRPGくらいだし、いっそその方が良かった。
「――乙女ゲーム」
「は?女が男を侍らせる、あのゲームか?」
「言い方が悪いけど、そう。ただこのゲームの内容ってよく知らないんだよね」
乙女ゲーム専門を自称する友人から話を聞いていただけだしって言っても興味がないのに軽く会話が出来るくらいには聞かされてたけどね。
「道理でイケメンが多いわけだ。てか、俺も思い出した。前世で姉貴がやってたんだ」
バトル部分がクリアできないと泣きつかれて、やってあげたらしい。
「そうなるとマルチエンドか」
「うん。モブなら良かったんだけどね」
「つまり?」
「攻略対象とライバルポジ」
知った事実に頭が痛いと兄が額に手を当て、思い出してきたとますます苦痛な顔をする。
エンディングによってこの先の未来も違ってくる。まずいのはバッドエンドに向かうことだ。
「悪役令嬢の最後って……」
「いや待て。現時点でリリは婚約してない。諦めるにはまだ早い」
始めに誰のルートをやるか選んでからやるゲームだったようで、プレイヤーの選んだ攻略対象の婚約者として悪役令嬢は登場していたはず。
なので、婚約してないのだから何事もない学校生活が送れるかもしれないと兄が言う。
「強制力が働かなければだが」
「あげて落とすな」
腹が立ったので兄の頭にチョップしておく。
「――イッテェ。攻略対象の動向はわかるし、俺らは目立たずにいればいいだろ」
「ヒロイン以外は顔見知りだもんね」
広いようで狭い貴族社会は大抵みんなどっかしらの知り合いで、その中でも攻略対象は上位に位置するため、私たちからすると幼馴染って言葉が近い。
「ま、近づかなければ問題はないはず。さわらぬ神に祟りなしってな」
「だといいけどね」
恒例の双子会議を終えて明日への英気を養うべく、私たちたちは早めに寝ることにした。
***
迎えた入学式当日。
兄の策略で攻略対象たちは集められ、仲良くつるんでいて黄色い声に愛想よくしている。
幼馴染なので集めるのは意外と簡単らしいが、輪から外れるのが大変のようだ。
私たちは目立たないようにその輪に入らず、距離を取っているのだが、とにかく目立つ容姿のせいで視線があちこちから飛んでくる。
容姿プラス家柄が有名なせいで目立ちすぎるし、未だ慣れない視線が辛い。
「間違いなく目立ってるよね、これ」
「あいつらよりマシ。やりにくいが仕方ない、ヒロイン探すぞ」
「りょーかい」
一番よく見ているはずのヒロインの容姿を二人揃って覚えてないので、あまり意味はないんだけど。
動きを探る上で、いち早く見つけておくのは大事ってことでろくに覚えてない相手を探す。
確信を持って言えることは、美人じゃなくて可愛い系、あまり目立たない感じで天然ドジっ娘と言うことだけだ。
「ねぇ、シグ」
「なんだ」
「カツラでもあれば良かったのにね」
華やか容姿はとにかく人目をひく。
そこに三大貴族の令息、令嬢が加わり、羨望の眼差しを頂戴することも多い。
別人と認識されてしまえば動くのが楽になる。
「今度、技術班に作らせるか」
「だね」
くだらないことを話しながら、入学式の会場を歩いて回って、それらしいのを見つける。
制服のリボンを忘れ、恥ずかしそうにしている女の子。
「たぶん、あいつだな」
「そうだね、あの子っぽい。名前くらい聞いとく?」
「どうやって?」
近づくのは得策じゃないけど、まあいいよね。
私は自分の制服のリボンを解くと、ヒロインの前に悪役令嬢っぽく堂々と立つ。
「あなた、名前は?」
「エ、エラです。エラ・グリフです」
蛇に睨まれたカエル状態なのに、視線を逸らさないヒロインが怯えながらに答えてくれる。
エラ・グリフね。覚えた。
「そう。エラ、見苦しい格好はよして頂戴」
高圧的にいって、エラにリボンを押し付けるが受け取ろうとしない。
「私に恥をかかせる気」
「いえ、そうしたら貴女が……」
ここで他人の心配をするとか。
ホント、ヒロインだわ。
「私は自分に似合わないものを身につけるつもりはございませんの」
「ありがとう、ございます!」
リボン自体は学校公式もあるけど、ある程度自由にできるから、今のつけてるのは必要ない。
正直、悪役令嬢には学校公式は似合わないし。
目で早く受け取れと、テレパシーを送るとエラが嬉しそうに受け取った。
名前も分かったし任務完了ね。
離れたところで待ってくれてるシグのそばまでいってそっとハイタッチをかわす。
「エラ・グリフだって」
「子爵家だな。帰ったら調べるか」
調べてわかったのは、エラがグリフ子爵の孫にあたり、2ヶ月ほど前に養子として入ったということだった。
***
学校に入学して一ヶ月後の双子会議。
「やっぱ、出会うのを阻止ってのは難しいな」
私たちはすでヒロインと三人の攻略対象を出会わせてしまっていた。
高いヒロイン力は素晴らしく、一ヶ月の間に随分と仲良くなっている。
世間知らずと罵られることもなく。
ゲーム通りじゃないけど、まるでその通りになっているようにも思える。
「じゃあ、(ヒロインの)グッドエンドでも目指す?」
「そうするなら保険が欲しい」
「意外と慎重派なんだ」
「あのなぁ、お前の命がかかってんだぞ」
現実だもんね。失敗は出来ない。
失敗をすれば待っているのは――。
「どうすっかな」
机をコツコツと叩くシグは何かを考えているようなので、私は黙ってシグの答えを待つ。
「強制力にも勝てる力か……」
両手で机を叩き、立ち上がったシグが衝撃の言葉を発する。
「シグ⁈」
「この国を掌握する」
「はぁ?」
どうしてそうなる。
国を掌握したところで、どうにかなる問題でもないと思うんだけど、シグの目はいたって本気だ。
「もしダメでも時間くらいは稼げればいい」
「う〜ん、まあ、何もしてないのにゲーム通りの展開になったら、洗脳でもされてるのかって感じだよね」
シナリオと同じ未来になるって決まったわけじゃないし、どう足掻いても変わらない未来があっても抵抗しないで終わるのは嫌だ。
でも、どうやって?
「政治に介入するとか」
「それもありだけど、突っ込ませてもらえないだろ。実力を示す。商会を作る」
「前世の記憶で一儲けってわけだ」
この国の経済を牛耳るってことか。
自分たちのためだけに技術班に作ってもらったものも多いから、設計図の用意だけはあるんだよね。
貴族として生まれてるから、コツコツ売っていかなくても、人脈を使えば一気に広めることはできるし、高位貴族相手なら高くても売れる。
まずは財力ってことなのね。
「卒業パーティーを見据えると期限は約二年半だな。逃げ場を作るために外国にも広める」
「大変そう。でも、やるしかないのか」
***
時間もあまりないため、私たちはすぐに行動を起こすことにした。
小さな商会をまるごと買い取り、各分野に精通している引退した商人を呼んで即戦力になってもらう。
庶民にはすぐに安価で大量生産ができる食品を売っていく。
貴族よりも手の届く食品なら受け入れは早いからだ。
貴族相手には、化粧品とかちょっと変わったものを少々吹っ掛けて売っている。
目が回る忙しい一年が過ぎる頃、攻略対象の王子とヒロインが恋仲だという噂が立ち始めると、婚約の話から逃げ続けた私に王子との婚約という話が出てきた。
王子は満更でもなさそうだけど、私は何の恐れも不安もない悠々自適な快適ライフを送りたいのよ‼︎
いっそ、商会で作った人脈を利用して国外に逃げようかしら。
でも、ゲームと同じようにヒロインが王子と困難を乗り越えて結ばれるのかはわからないし、私がゲームの悪役令嬢と同じ未来を辿るのかもわからない。
それはまだ、近くて遠い未来の話だ――。
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