第1話
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TIME : 20XX/04/24 12:04:42
PLACE: ???
DEAD : 1
KILL : 0
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「あの、起きてください」
そんな女性の声が耳に入って来ると共に身体は揺らされて、俺は夢の中から引き戻される。
けれども、肌で感じるぽかぽかとした陽気と、柔かくて甘い花の香りが俺のまぶたと身体をいっそう重くしてしまい、目を開けて起き上がることなんてできそうにもなかった。
となれば、やはり意識はだんだんと遠退いていってしまうものである。
「ちょ、ちょっと、二度寝に入らないでくださいよ」
肩を掴まれて激しく揺らされる俺。
二度寝ができないことを察した俺は仕方なくゆっくりと目を開いた。
途端に目に入ってきたのは一面の青空だった。
青空と言っても、秋の日のような清々しい青ではない。白を混ぜたようなはっきりとしない水色の空だ。あちらこちらに浮かんでいるアイボリーの雲とのコントラストなど当然あるはずもなく、ぼんやりとした印象を受ける。
「は、良かった。やっと起きてくれましたね」
俺は寝転んだまま首だけを動かして声のする方を見る。
俺の横には、白いワンピースを着た赤毛でゆるふわカールの女性が座っていた。
座っているためはっきりとは言えないが、身長は150cmないくらいだと思う。
身長だけで言うと中学生ぐらいだが、この女性を中学生と見間違うことはないだろう。
何というか、おっぱいがすごい。
ワンピースに覆われつつも、ちらちらと見えるそれは、中学生のような小柄な身体とは不釣り合いなほどに大きかった。
いっそのこと、あの谷間に顔を埋めたい。
「む、胸ばっかり見ないでください!」
「ごめん、あまりの大きさについ」
凝視していることを突然注意されて、思っていることがだだ漏れの言い訳をする俺。
そんな言い訳を聞いた彼女は顔を真っ赤に染めて、俺の視線から身を守るように両腕で身を隠した。
「へ、変態さんですか!?起きて早々、初対面の女の子に向かっていやらしい視線を送るなんて」
「いや、それは男の宿命だから。てか、ここはどこだ?その口振りからして、さっきまで俺は寝てたんだよな?」
突然湧いた疑問の答えを出そうと俺は辺りを見回す。
俺がいる場所は一面に花が咲いた草原のようだった。
ピンク、黄色、水色、それぞれの色を淡くしたような色の花が地平線の向こうまで咲いている。
「ここはあなたの知っている概念で表現するならば、天界と呼べる場所です」
「天界?なんで俺がそんな所に?」
「覚えていませんか?今日、あなたの身に起きたことを」
「今日?」
ダメだ。ついさっきのことだと思うけど、全然思い出せない。
ここは敢えて、もっと前から遡ろう。
俺の名前は佐伯朔人。誕生日は9月1日でB型だ。
年は16、だけど高校には通ってない。
いや、違う。高校に籍はあるけど、通っていないんだ。俺は引きこもり、だから。
確か、今日は半年ぶりに家から出ようと思ったんだ。
そして、俺が玄関を出たらスーツ姿の男がいて…。それで…、何があったんだ?
「あなたは死んだのです」
「死んだ?俺が?」
「ええ」
突拍子もないことを言われて俺は混乱する。
しかし、その直後、俺の脳内に一筋の稲妻が通過する。
「そうだ!思い出した。俺は玄関先にいたスーツ姿の男に殺されたんだ!その男は俺を見るなり懐からナイフを取り出し、心臓を貫いて俺を殺したんだ」
「そうです。あなたは胸を貫かれた後、気を失ってしまったので知らないとは思いますが、あなたの死因は失血死です。あなたの胸を貫いた男はその後あなたの身体を82回ナイフで突き刺しました」
「なんだって!?でも、俺はそんなに必要にナイフで滅多刺しされるほどの恨みを買った覚えはないんだけど」
「いえ、あなたを殺したのは通り魔です」
「そんな…」
「だから、私はあなたをここに呼びました」
「何を、言っているんだ?」
言われた言葉の意味が理解できない。
「私は神です。一歩を踏み出す決意を無下にされたあなたにもう1つの人生を与えましょう」
「もう1つの人生?」
「ええ、私の管理する世界では魔王が強大な力を奮って暴れています。あなたにはその世界を救って
欲しいのです」
「ちょっと、何言ってるかわからないな。俺に再び命を与える代わりに世界を変えろってことか?」
「ええ、今日あなたは自分を変えようと思い立ったのでしょう?その決意さえあれば世界を変えるぐらい、ちょちょいのちょいですよ」
「いや、そんなコンビニ行くついでにハガキをポストに投函してきてみたいなお気軽テンションで言われても」
「じゃあ、転生しないんですか?今なら、特殊な能力を1つ授けて転生できますよ」
「わかった、転生するよ」
タダで貰えるものは災難以外なんでも貰っておけ。それが父親の口癖だ。今日のところはこの言葉に従ってみよう。
「では、行きますよ。5…4…3…」
「え、はや!ちょ、待っ」
それが俺の転生前最後のセリフだった。