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Face ~どいつもこいつも顔ばっかかよ!!~  作者: 葵 しずく
3章 遅れてきた最後のヒロイン
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episode 35 心の濃い夏休み

「いらっしゃい」

「うん! いらっしゃったよ」


 短期バイトも終盤に差し掛かったある日の午後、あと30分程でアーシのシフトが終わる頃、1人のオンナの客が店に来た。

 そのオンナは例のセンセ目当ての客じゃなくて、お目当てはアーシだ。というか、昨日の夜電話があって会わないかと誘われたから、この時間までここでバイトしてると伝えてたんだけど、少し早めに店に顔を出したみたいだ。

 アーシに会いに来たのは夕弦の友達で、花火大会で一緒に夕弦んチでお泊りした榎本さんだ。

 夕弦んチで今度は2人で会おうって約束していてアーシから誘うつもりだったんだけど、先手を打たれてしまった形だ。といっても別にアーシは榎本さんといがみ合うつもりはないし、多分だけど榎本さんもそんな事考えてないと思う、多分。


「もうちょいであがるんだよね?」

「ん、あと30分くらいだし。なにする? わざわざ来てもらったから奢るし」

「マジか! んじゃねぇ……チーズケーキとアイスミルクティで!」

「遠慮がなくて気持ちいいし。りょーかい、ちょい待ってて」


 注文をキッチンに通したらマスターとアルバイトのお兄さんがテキパキと動き出す。因みにセンセは休みでここにいない。

 偶々だけどタイミングが良かった。もしここにセンセがいたら榎本さんが騒ぎ出すだろうから。


「ほい、おまちど」

「お、きたきた! 美味しそうだねぇ」


 注文したチーズケーキとアイスミルクティーをテーブルに運んだら、榎本さんが目を輝かせる。

 まぁ不味くはないんだけど、そこまで美味くもないんだよねとはマスターの目があるから言うのを堪えた。


☆★


「おまたせ」

「いいよ、んじゃいこっか」


 シフトの時間が終わり更衣室で私服に着替えてから、榎本さんが待つテーブルへ向かって声をかける。

 何時もなら更衣室の奥にある裏口から出ていくんだけど、今日は榎本さんを待たせているからフロアから出ていく。 


「お先でーす」

「ご馳走様でしたー」


 店の出入り口からマスターや他のスタッフに声をかければ、榎本さんも皆に挨拶すると、マスターは小さく手を振って他のスタッフも微笑んで見送ってくれた。


「西宮さんのバイト先って雰囲気良さそうだよねぇ」

「ん、アーシみたいなのにも気さくに話してくれるし、皆いい人ばっかだよ。初めてのバイトがあの店でよかったって思ってる」

「ふふ、わかるわー」


 実際あと数日であの店でのバイトが終わると思うと寂しさを感じる程には、【モンドール】という店を気に入っている。 許されるなら短期と言わずにまだ続けたいとも思ってるんだけど、それはきっとパパ達が許してくれないだろうな。


「ふいー、今日もあっちーねぇ。これからどうしよっか」


 昨日の電話ではどこか遊びに行こうと誘されたんだけど、バイトが入ってて何をするにも時間的に中途半端だと言うと、とりあえず会えたらいいってだけになってて何をするかは決まってなかった。


「外は暑いからどっか入りたいんだけど、またカフェに入ってもねぇ」

「だね。でも、どこいく?」


 アーシ的にはただ働いてただけで別にお茶してたわけじゃないから別に違うカフェに入っても良かったんだけど、榎本さん的にはやっぱりキツイもんがあるだろな。


「あ、そだ! 向こうにちょっと行ったとこにモールあったんじゃなかったっけ?」

「あぁ、そういえば聞いた事あるかも。行った事ないけど」


 バイトを始めてよく来る場所だけど、バイトが終わればさっさと帰ってばっかだったから実は殆どこの辺の土地勘がなかったりする。

 でも、確か人見サンがバイトの帰りのよく寄るとか言ってたっけ。


「んじゃそこ行って適当にぶらつかない? んで、休憩した時に話しよっか」

「うん。アーシはそれでいいし」


 すぐに話して終わりだと思ってんだけど、どうやらその前に榎本さんとウインドウショッピングする事になったみたい。

 ここのところ出かけるといえば夕弦だけだったから新鮮といえば新鮮なんだけど、やっぱりちょっと構えちゃうんだよな。



☆★


「いやー歩いた歩いたぁ」

「……歩いたは歩いたけど、それより買い過ぎじゃね?」

「あっはは! ブラつくだけのつもりだったんだけどねぇ」


 モール内を練り歩いたアーシ達は休憩しようと適当に目に入ったカフェに入った。

 確かにブラついたんだけど、気になったショップに入る度に何かしら買ってた榎本さんの足元には、あちこちのショップのロゴが入った袋が散乱してる。

 

「いやー私って部活やってるから、中々ガッツリショッピングの時間作れなくてさ。買える時に買っとけって癖ついちゃってさぁ」

「……いや、だからって買い過ぎだと思うんだけど」


 いかにも高そうなブランド物を買ってないと言っても、これだけ買い込んだらそれなりの金額になったはずだ。

 少なくとも部活が忙しくてバイトが出来ない高校生には、かなりの大金のはずなんだけど……。


「あ、私ンチってお小遣い制じゃくて、必要な物があった時に親にお金もらう決まりになっててさ。普段全然使わないからこういう時はポンと出してくれるんだ」

「そうなんだ」


 ちょっと変わってると思ったけど、子供にカード渡すウチの親に比べればそうでもないかとあまり顔すら見ない親たちの顔を思い浮かべてると「さて」と榎本さんが姿勢を正した。


「花火大会の時、西宮さんの事を見させてもらうって言ったじゃん?」

「ん、言ったね」


 本題に入ったんだと、アーシも椅子を座りなおして真っすぐに榎本さんを見た。


「結論から言うと、今日の事も含めてギャップが凄い子だと思ったよ」

「……ギャップ?」


 一体なにに対してのギャップが凄いと言ってるのか理解できなかった。アーシは特段変わった事してないつもりだし、そもそもアーシを見ると言った榎本さんの前で下手な芝居を打つ理由なんてなかったし。


「今は髪の色も大人しくしてるしメイクも変えてるけど、ちょっと前は完璧ギャルだったじゃん? 言葉使いは現在進行形だけどさ!」

「う、うん」

「でもさ、今もだけどあの時の西宮さんってオロオロしたりして可愛かったんだよねぇ!」


(可愛い? アーシが!?)


 何を言われるのかと構えてたら、予想の斜め上の台詞が飛んできた。

 いやいや! それは流石にないでしょ! だって可愛いなんてこれまで言われた事ないし!


「……えっと」

「ははっ! 確かに夕弦の言う通りだった」

「え? 夕弦?」

「そ! 夕弦が言うんだよ。初めて出会った時と今の心のギャップが可愛すぎるってさ!」


 夕弦のやつ、アーシのいないとこで何言ってんだし!――とか思いつつも実は嬉しかったりする。

 だってこれまでは陰口しか言われてこなかったから。

 昔の事を思い出してしまって無意識に俯くと、耳にかけていた髪が下りて染め直した髪が視界に入った。

 センセの所でバイトする為とはいえ、正直この色に染め直すのは抵抗があった。


――この色の髪を見ると、あの頃を思い出すから。


「夕弦はホントによく人を見てる。他人の噂とかに流される事なく、ね」


 それはアーシが一番知ってること。

 夕弦がそんなオンナじゃなかったら、こうして友達なんてやってるわけがないから。


「初めて見た時は変な奴だと思ったけど、アーシは夕弦に救われたんだし」

「救われた、か。そもそも学校の連中が噂を鵜呑みにしなかったらこんな事にはなってなかったんだけどね。その中に私も含まれてるのが情けないって話なんだけど」


 榎本さんの言いぶりだと認めてくれたっぽいけど、ちょっと自虐的な言いようにどう返せばいいかと言葉に悩む。

 実際榎本さんも噂を信じてアーシの事をそういう目で見ていた1人なんだろうけど、そもそもの話友達どころか知り合いですらない人間の噂話を信じようが信じまいがどうでもいいわけで、榎本さんがアーシに申し訳なさそうにする必要はないと思うんだけど。


「最初は夕弦取られた的な嫉妬からだったんだけど、おかげで西宮さんとこうして話せたんだから結果オーライっていうか……自分が恥ずかしい人間だったんだと思い知らされたっていうか……」

「それは違うし。榎本さんとは夕弦経由で知り合う前までは名前すら知らなくて、ただの同級生ってだけだったんだから、榎本さんが気にする必要なんてないし」

「……でも」

「こう言っちゃなんだけど、夕弦と知り合う前まではアーシもガッコの人間なんて馬鹿ばっかって罵ってたとこあるし……お互い様でしょ」


 実際この学校に入学してきて具体的に何かをされたという事はなかった。ただ噂を信じた連中が巻き込まれないように近づいてこなかっただけで。

 それがショックじゃなかったと言えば嘘になるけど、中学の時の事を思えば天国とさえ思ってたんだから、今目の前で凹んでる榎本さんを責めるつもりなんてあるわけないんだ。


「ありがと……それでもやっぱり、さ」


 榎本さんはそう言って席を立ったかと思うと、勢いよく頭を下げた。


「今まで本当にごめん! どうせ関わる事なんてないからってよく考えもせずに、噂を鵜呑みにしてた……本当にごめんなさい!」

「ち、ちょっ!?」


 大きな声で謝る榎本さんにギョッとして慌てて席を立つアーシ達に、いろいろな視線が突き刺さる。

 それはそうだ。だって、ここはカフェの店内で他にお客やスタッフがいるんだから。

 これじゃアーシが榎本さんに謝罪させてる構図に見えるだろう。実際謝られてるんだけど、それはアーシが望んだ事じゃないって言っても周りにはそんな事伝わるわけもなく……。


「え、榎本さん。気持ちは嬉しいんだけど、ここカフェだから、ね?」


 なるべく小声でそう伝えれば、アーシが言いたい事を理解したのかハッとした顔を見せると、勢いよく席に座り込んで顔を真っ赤にして俯いて掠れるような小さな声で「ごめん」と呟く。

 夕弦が懐くだけあって体育会系らしくアツすぎるとこがあるけど、やっぱり榎本って子はいい奴みたいだ。夕弦の見る目を疑ってたわけじゃないけど、こうして目の当たりにして確信が持てた。


「ねぇ、榎本さん。アーシお願いがあるんだけど、いい?」

「う、うん。私に出来る事なら何でも言って!」


 気にしないでいいって言ってるのに、やっぱり気にしてるみたいで真面目だなと苦笑するも、どうしても言いたい事があったから今はそれはスルーだ。


「よかったら、アーシとも友達になってくんない? ガッコじゃ周りの目があるから、今日みたいに時々遊べたらなって……」

「…………」


 あ、やっぱ調子に乗りすぎたかもしれない。

 断わり辛いタイミングでそんな事言ったら、やっぱ卑怯だよ、ね。


「……それは無理」

「ん、そ、そっか。厚かましい事言ってごめ――」

「――学校でも友達ならいいけど、学校外だけなら無理!」

「…………へ?」


 断られたショックは確かにあった。

 だけど、どうやら無理と言って意味が違ったみたいで思わず間抜けな声が漏れた。


「ていうか、そんなのわざわざ頼む事じゃないよ。私も西宮さんと友達になりたいと思ったから今日誘ったんだし!」

「…………や、でも……ガッコでアーシと一緒にいたら」

「そんなん関係ないし! つか、それ言ったら夕弦はどうなるんだし!」

「なんでアーシの話し方パクってんの!?」


 アーシの真似してる事をすかさず突っ込んだのは完全に照れ隠しだ。

 学校でアーシと一緒にいたら絶対に好奇な目に晒されてしまう事は、わざわざ言わなくても分かっている事。

 だけど、そんなの関係ないと言ってくれた事が思ってた以上に嬉しかったから。


「ゆ、夕弦はちょっとアレだから」

「ひどっ! あとで夕弦にチクってやるかんね」

「あわわわ……ご、ごめん、うそうそ!」


 冗談で言った事だけど、もし夕弦がそれを聞いて悲しむ事があったらアーシは絶対に立ち直れない自信しかなかったから、必死に取り消そうとすれば榎本さんがお腹を抱えて笑い出した。


「あっはっはっは! 冗談だって。心は夕弦のこと大好きなの知ってるし」

「もう焦らせんなし! って今……名前で」

「うん! これでさっきの返事になってる?」


 さっきの返事、友達になってと言った返事。アーシの事を名前で呼び捨てにする事を返事とした意味なんて、一つしかない。


「う、うん! ありがと! こ、これからよろしく――美咲」

「――うん! 私こそ、よろしくね!――心」


 初めは榎本さんを安心させることが目的だったはずなのに、何時しか榎本さんの人柄に惹かれている自分がいて目的が変わってしまっていた。

 だけど、きっとこうなる事を夕弦は分かってたんだと思う。

 アーシの事も、榎本さ……美咲の事もよく知ってるんだから。


 こんなに濃い夏休みを過ごしたのは何時以来だろう。

 この前、ネット友達だった【コト】こと琴美とリアルで知り合えたばっかりなのに、今日は美咲と友達になれたんだもん。

 夕弦がアーシの前に現れてから状況が目まぐるしく変わってく――だけど、それは嫌なものじゃなくて、心のどこかで諦めていたもの。


 そんな大切なものをくれた親友と好きになった人を奪い合うかもしれないけど、どんな結末を迎える事になってもこれだけはハッキリしてる。


 アーシにとって夕弦は唯一無二の親友であるってことを。

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