episode 34 同志との出会い side琴美
心の底から驚くというのは、こういう事なんだと初めて知った。世の中には溢れんばかりの人間がいて生活してるわけだけど、どれだけの人がこの体験をした事があるのだろうと分かるはずのはない事を考えてしまう程に、今置かれている状況に驚いてる。
だってネットの中だけの仲間というか同志だと思ってた女の子が、今目の前にいるんだから。
そりゃね? いつかリアルで会ってお話してみたいなぁとか思った事はあるよ?
でもさ! こんな出会い方ってある!?
自分の好きな人の家庭教師の生徒で、同じ店でバイトしてる女の子がKokoroちゃんだなんて――それなんてラノベ!? 三冊買うから誰かタイトル教えて!
「やっぱりKokoroちゃん……なんだ」
「ホントにコトなん!?」
確定した。目の前にいるJKのスタッフさんは我が同志のKokoroちゃんだ。
「…………そうだ、よ」
いきなりの事だったけど、Kokoroちゃんと会えて嬉しいはずなのに、このJKがKokoroちゃんと分かった途端声のトーンが急激に下がった。
心の準備が出来てないとか色々と言い訳はたつけど、一番根っこにあるのは不安だろう。
ずっと顔も知らない相手だから好き勝手言えてきたところがある。
だからこうして顔を見られてKokoroちゃんに幻滅されたんじゃないかって思っちゃったから。
Kokoroちゃんは予想をいい意味で裏切る女の子だった。
確かにここでバイトする為に金髪をやめて髪を染め直したり、メイクを変えたって言ってたけど、目の前に立ってるのは誰が見ても美少女のそれで、ラノベだったら間違いなくヒロインに相応しい女の子だったから。
そんな女の子があのKokoroちゃんだっていうんだから、陰キャの私が身を縮み込ませてしまうのは仕方がないはずだ。
「うっそ! マジでコトなん!? こんなんアリ!? 滅茶苦茶ビックリしたんだけど!!」
「……う、うん。私も驚いた」
ダメだなぁ、私って。どうしてキラキラと眩しい人には卑屈に俯いちゃうんだろ。ついさっきまで目の前にいるのがKokoroちゃんだって知る前は楽しくお話出来てたのに……。
「くー! なんか嬉しい! なんだかんだで会えるわけないって思ってたから滅茶苦茶嬉しい!」
(――え? 今、嬉しいって言った?)
聞きなれない言葉に俯かせていた顔を上げると、バカンッ! って音と共に両手で頭を抱えて崩れ落ちてるKokoroちゃんがいた。
「ったー--!!」
「お前、俺の言った事わかんねーの?」
視線を移せば、ちょっと凹んでたのを更に凹ませたトレーを持ってる月城さんがしゃがみ込むKokoroちゃんを見下ろしてる。
月城さんの背中からゴゴゴゴゴゴと強い圧を感じるのは気のせいだろうか。
「加減してよ! おかげで英語の文法2,3個忘れちゃったじゃん!」
「こんな事で忘れるのはしっかり頭に入ってない証拠だ。明日から厳しくいくからな」
「うっ! 地雷踏み抜いた!?」
「ぷっ! あはははは!」
師匠の時と違う。勿論私とも違う世話のやける妹を相手にするような月城さんと、涙目になって抗議するKokoroちゃんを見て思わず笑いが込み上げてしまった。
「わ、笑うなし! コト!」
「あははは……ごめんごめん、でも可笑しくて」
声だけで話してた時と全然イメージが違った。
会うまでは私みたいな陰キャなんて鼻で笑うイメージがあったから。Kokoroちゃんも陰キャだみたいな事言ってたけど、話方からそんなはずはないと思ってたから。
だけど、本物のKokoroちゃんはそんなんじゃなくて、ネットで話してた時のまんまだった。
「ねえ、Kokoroちゃん」
「なんだし!」
「キーボードの件もあるし、連絡先交換しない?」
「あ、う、うん! そだ! アーシもうバイト終わりだからこれからご飯でも食べに行かない?」
「おいこら! 私がいるの忘れてんじゃないの!?」
「あ、おばさんまだいたんだ」
「あーっ!? 今なんつった!?」
「だからおば――おぎゃっ!」
角! 今、月城さんトレーの角でKokoroちゃんの頭叩いたよ!?
「流石に……これはないでし――ひいっ!」
「あ? なんだ? なんか文句でもあんのか? 言ってみろよ、オイ」
ひいぃぃぃ! 月城さんが月城さんが――怖すぎるぅぅぅ!
「はいはい、そこまで! 心ちゃんは速攻であがる! 雅君は落ち着く!」
激おこの月城さんと涙目のKokoroちゃんの間に割って入った人見さんがテキパキと2人に指示する。
「は、はいっす!」
「…………」
敬礼ポーズをとるKokoroちゃんは慌てて立ち上がった。
「あ、待ってKokoroちゃん。今はししょ……友達といるから近い内に会おうよ。連絡するから」
正直今日はトータルコーディネーターを務めてくれる師匠に思い切って切った髪型を見せるだけのつもりだったから、Kokoroちゃんのお誘いは嬉しかった。
だけど、流石に今からというのは師匠に失礼極まりない行為だと思うし、なによりこのままここにいれば月城さんとお話出来るかもしれないという期待を天秤にかけた結果だ。
腹黒だと言われるかもしれないけど、陰キャの私が月城さんに振り向いてもらう為には綺麗ごとばかり言ってられないんだ。
――だって、Kokoroちゃんの正体が分かった今……彼女の好きな人が月城さんだって分かっちゃったから。
「ん、わかった。そん時ゆっくりはなそ! 連絡待ってる」
「うん。楽しみにしてるね!」
言って私達は改めて連絡先を交換した後に、Kokoroちゃんは更衣室の方に向かっていった。
「2人ともホントにごめんな。心には今度きっちり叱っとくから」
「そうしてそうして! アタシなんておばさん扱いされたんだかんね!」
「JKからみれば石嶺はすでにおば――」
「――あ?」
「いや、なんでもない」
まったく月城さんったら。女の子に年齢に関わる事はタブーなのに。
「えっと、三島さんもごめんね。あいつに酷い事言われなかった?」
「あ、はい。私は全然大丈夫です。というか、知り合いだったしね」
「あーなんかそれっぽかったね。2人ってどんな関係なの?」
「えーと、それはちょっと内緒というかなんというか」
別に私が廃人クラスのゲーマーだというのはバレても構わないんだけど、それを話しちゃうとKokoroちゃんも同様の人種だって事までバレるだろうから、ここは下手な事は言わない方がいいよね。
もしかしたらKokoroちゃんも隠すつもりなかったかもしれないけど、勝手は判断はしない方がいいのは間違いないはずだ。
「そっか、まぁ無理に聞き出すつもりはないけど、心って癖の強い奴だから三島さんみたいな女の子と仲良くなるイメージがなくてさ」
「ううん、言葉使いはアレだけどKokoroちゃんってとってもいい子なんだよ?」
「あいつがいい子、ねぇ」
半信半疑といった色を滲ませている月城さんに苦笑いがこぼれる。実際嘘なんてついてない。本当にKokoroちゃんは人の気持ちが分かる優しい女の子なんだから。
でも具体的に教えてあげるつもりはない。
だってKokoroちゃんは私のもう1人のライバルなんだから。
「ま、とりあえずお詫びとして、一品奢るから何でも頼んでよ」
「あ、マジ!? ドケチの月城が珍しい! ね、琴美なに頼む? ここは値段の高いの頼もうよ!」
「あ、はは。そうですね」
師匠分かってますか? お金に煩い月城さんがKokoroちゃんのフォローの為に奢るって言った意味が。
「ま、決まったらまた呼んでよ。俺は仕事に戻るからさ」
言って月城さんはカウンターに向かおうと背中を見せたところで、顔だけ私の方に向けた。
「髪切ったんだね。やっぱり勿体なかったよな。凄く可愛いよ、似合ってる」
「オイこら! サラッと琴美を口説くなぁ!」
「あほか、そんなじゃねえっての」
キャンキャン怒る師匠を軽く流して今度こそ席から離れていく月城さんの後ろ姿を見て、こんな事を思ってしまった。
(褒めて欲しいって思ってたけど、褒められてもあんまり嬉しくない、な)




