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Face ~どいつもこいつも顔ばっかかよ!!~  作者: 葵 しずく
3章 遅れてきた最後のヒロイン
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episode 14 出会いはトイレの前で……

 布団の上で騒いだ後に、電池が切れた2人から静かな寝息だけが聞こえてくる。花火の時もお風呂でも部屋でも騒ぎっぱなしだったから、知らず知らずに疲れてたんだろうな。

 静かに上体を起こしてみると、ベッドで夕弦がアーシの隣に敷かれている布団では榎本さんがグッスリ眠ってる。

 見慣れない天井にいつもと違う布団の感触と高さと硬さが違う枕が、自分はこの場では客人だと知らせてくる。

 アーシも疲れてるはずなのに、何故か全く眠れる気がしない。お泊りなんて記憶にない事をしたから落ち着かないんかな。


 他人の家にお泊りなんて、ちょっと前の自分に話す事ができたとしても、絶対に信じないんだろうな。


 楽しかった――本当に楽しかった。


 最初に榎本さんも来ると聞かされた時は拒絶反応でもおこしたみたいに断っちゃったけど、思う所があってセンセに相談してやっぱり参加するって決めたのは正解だった。

 夕弦が転校してきてからすぐに仲良くなった榎本さんは流石夕弦が親しく付き合ってる子だけあって、裏表を感じさせない感じのいい女子だったし、なによりアーシの事を初めから聞いていた噂を取っ払って一緒にいてくれた事が嬉しかった。

 なんたってアーシの方から今度遊びに誘ったくらいなんだから。

 学校では周囲の目があるから今日みたいに話したりするのは難しいかもだけど、こうして外で会ったりする分には榎本さんに迷惑をかけないだろうから、今度会うのが楽しみだし。


 それにしても、まだ全然眠気がこない。こんな夜は家ならパソコン立ち上げてオンラインゲームするとこなんだけど、ここではそれも無理だし、スマホを弄ろうにも液晶の明かりで2人を起こすかもしれないと思ったらそれもできないし。


(うーん、お泊りで気持ちが高ぶってるせいかもしんないから、トイレに行って気持ちを落ち着けてみよ)


 アーシは2人を起こさないように細心の注意を払いながら夕弦の部屋を出た。

 夕弦の家族ももう寝たみたいで、天井に埋め込んであるダウンライトだけがリビングを照らしてた。


(トイレは確かそこを出たとこだったよね)


 初めて入る他人の家というのは明るい時には分かってる場所でも、暗くなったら別の場所に感じられて若干迷いそうになる。

 泥棒のように足音を殺してリビングのドアも音を立てないように開け閉めした先にあるトイレにたどり着いた。

 誰も起こさなかった事を確かめように耳を澄まして音を探ってから、トイレに入った。


☆★


「ふぅ、少しは酒抜けたかな」


 夕弦達が先に風呂に入ってる時に親父に誘われるまま飲んでたら、何となく風呂に入るタイミングを逃してしまった。

 それなら試しに酔ってる今ならもしかしたら羞恥を感じずに演技できるのではと、部屋に戻ってオーディションの練習をしてみたんだけど、結果は相変わらずの大根芝居しかできなかった。

 そもそもの話、架空の人物を演じるとか俺には到底理解できない事で、ましてや沢山のスタッフの前で演じるのだからと、俳優や女優がどれだけ凄い事をしているのか思い知らされただけの時間になってしまった。


「どう考えても俺がオーディションに参加する意味が分からない」


 有紀にどういう意図があって俺をオーディションに参加させたのか全く見えてこない。あいつが意味のない事をするとは思えないけど、ホントなんなんだよ……。


 バスタオルで鬱蒼と茂った髪を掻き上げるようにガシガシと水分をふき取りながら脱衣所を出ると、熱された体が廊下のひんやりした空気に冷やされていく。

 そう! 俺は性懲りもなくパンイチで脱衣所を出たのだ。

 だけどこれはうっかりではなくて、風呂に向かう時にもうすでに皆寝ている事を確認しての行動だ。


「ふう、やっぱり風呂上りはパンイチに限るよなぁ……ん?」


 晴れ晴れしたように両手を万歳と伸ばして解放感に浸っていると、視界の端に映ってはならないものがあった。


「え? あれ? ――――」

「――――きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


☆★


 便座に座って一息ついてたら少し落ち着いた気がして、これなら寝れるかなってアーシはトイレのドアを開けて廊下に出た。

 トイレに向かってる時はダウンライトの光だけでちょっと薄暗い廊下だったけど、トイレの正面にある脱衣所から強い明かりが向けられていて、その光の前に誰かが立っているのを認識するのが少し遅れた。

 その誰かは脱衣所の明かりで逆行に見る形になってて誰なのかよく見えんかったけど、上半身剥き出しのパンツ一枚のオトコなのだと気付くのに5秒かかったのが致命的だったと思う。


(……パンイチのオトコ?)


「え? あれ? ――――」

「――――きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 パンイチのオトコがアーシに気が付いて何か言おうとしてたみたいだけど、あまりの突然の事で気が付いたら大声で悲鳴を上げてた。

 いや、だってトイレから出たら薄暗い廊下にパンイチのオトコがいんだよ? そりゃ悲鳴だってあげるよね!?


 アーシの悲鳴に呼応するようにドタンと音が聞こえたかと思ったら、すぐさまバーンと大きな音を立ててリビングのドアが開いた。

 アーシの悲鳴に駆けつけてくれたのは夕弦だった。

 夕弦はアーシとパンイチのオトコを交互に見たかと思うと、まるで暗殺者のような鋭い視線をオトコに向けつつ少し肩を震わせてる。


「ち、違うんだ!」


 夕弦の姿を見たオトコはオドオドしながらも必死に言い訳をしようと、両手をブンブンと振り出した。


「……家の中をパンイチでウロウロするなって何度も言ったよね?」

「い、いや、そうなんだけど! これはうっかりじゃなくてもう皆寝てると思って!」

「問答無用ー-!!」


 夕弦はオトコの言い分を聞かずに叫びながら鋭いダッシュで一気にオトコとの間合いと詰めたかと思うと、手前でフワッと宙に体を浮かせた。


「私の友達になんてもん見せんのよー--!!」

「ぶっ! ぐわっ! ぎゃふん! あべし!!」


 アーシはFPSだけじゃなくて格ゲーもよくやるから知ってる。宙に飛んで上半身を捻って繰り出す足技は、まさに竜巻〇風脚! モロに食らったオトコは無様に転げるように崩れていく――いや、あべして……。


「大丈夫だった、心! なにもされてない!?」

「う、うん。大丈夫だし」


 繰り出した技はひとまず置いといて、本当に心配そうに駆け寄ってくる夕弦に無事だって伝えたら、ホッと安堵したみたい。

 え? この家ガチでヤバい猛獣みたいなん飼ってんの!?

 あと、顔を盛大に蹴られたってのに妙に嬉しそうに見えんのはなんで?


「いてて……おい夕弦! もうちょっと加減ってもんをだなぁ!」

「うっさい! 変態!!」

「へ、変態!?」


 起き上がろうとしたオトコは夕弦の変態って単語にショックを受けて、また崩れ落ちた。


「ゆ、夕弦、アーシはなんともないから、ね」

「それでもだよ! 変なとこ見られて恥ずかしい」


 変、か。ま、確かに変わってるとは思うし、いきなりパンイチのオトコが目の前にいた時は怖くなって悲鳴なんてあげちゃったけど、なんというか……賑やかな家族って感じでちょっと羨ましいかも。


「あ、あの大丈夫です、か?」


 崩れ落ちて動かなくなったオトコが流石に可哀そうになって声をかけてみたら「駄目だよ! 変態がうつる!」とか夕弦が叫んでる。いや、流石に可哀そうでしょ。


「あ、はは……驚かせてごめんね。よくある事だから気にしないでね」


 え? 竜巻〇風脚がよくある事なん!? マジで!?


「アーシが無駄に騒いじゃったから――」

「いやいや、いきなりこんな格好の奴がいたら驚くでしょ」


 オトコは驚かせてしまった事を謝りながら、崩れ落ちていた体を起こそうとした時、ようやくオトコの顔を正面に見る事が出来た…………んだけど。


「……………………え?」

「……………………は?」


 お互い同時に間抜けな声が漏れたんだけど、それは無理もない事だと思う。


 ――――だって。


「…………心、か?」

「…………セン、セ?」


 パンイチのオトコがセンセだったんだから。

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[一言] そうきたかwwww
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