episode 11 ご招待
「ここが私の家だよ」
「おー! 有名なマンションだから知ってはいたんだけど、こうして目の前に立つと圧倒されるなぁ」
「うん。アーシも一戸建てに住んでるから、マンション特有の威圧感みたいなんある」
「……そう」
美咲と心にハブられてから10分くらいして2人が私も元に戻ってきた。
何の話をしたのか訊いてみたけれど、2人とも大した話してないって言うだけで教えてくれなかった。
滅茶苦茶気になるけど、この件に関しては絶対に話すつもりがないみたいで、このまま駄々をこねても仕方ないないから移動する事にして今に至る。
「案内するからついてきて」
「つーか、何時まで拗ねてんだし」
「それな! 夕弦らしくないよ」
「誰のせいだと思ってんの!?」
まったく! 第三者に言われるのならまだしも、この2人にだけは言われたくないものだ。
とはいえ、確かにいつまでも拗ねていたら折角のイベントが台無しになるからね。気持ちを切り替えて2人を我が家に案内する事にしよう。
「おー! なんじゃこのフロント! ホテルか、ホテルなのか!?」
うんうん、その気持ちよく分かるよ。内装の質感も勿論だけど、自動ドアが閉まった瞬間の世間から切り離されたみたいな感覚がこのマンションの豪華さを物語ってる。
(まぁ、お嬢様の心には特段珍しさはないんだろうけど)
「こっちだよ」
私はエントランスを興味深そうにキョロキョロしてる美咲に声をかけながら、エレベーター脇にある端末にカードを通した。
「え? エレベーターってボタン押して呼ぶもんじゃないの?」
「うん。ここのエレベーターってセキュリティーの為にカードに設定されてる階にしか行けないようになってるんだよ」
「マジか!」
「ホテルとかでも同じようなシステム採用するとこ増えてきたし」
「マジか!」
(美咲、マジか! しか言ってないよ)
19階に到着して通路を歩いてる時も美咲1人賑やかな声を上げてて、心が若干引いてる。
「ここが私んチだよ」
言ってカードで鍵を解錠して、2人を迎え入れた。
「ただいまー」
中にいる家族に声をかけると、リビングからお母さんが出てきた。
「いらっしゃい。まぁ、可愛らしいお嬢さん達ねぇ。浴衣とても似合ってるわ」
「ありがとうございます。夕弦さんと同じクラスの榎本美咲です。今日はお世話になります」
「えっと……西宮心……です。宜しくお願いします」
「ふふ、緊張なんてしなくていいのよ。今日は楽しんでいってね」
「はい。ありがとうございます」
「……はい」
明らかにこういうシチュエーションに慣れてる美咲に対して、心はかなりガチガチになってるみたいだ。
あまりこういう経験がないみたいだから無理もない。どちらかというと私も心寄りだから気持ちは凄く分かる。
「あの、これつまらない物ですけど、よかったら皆さんで」
「ア、アーシもこれ」
「あらあら気なんて使わなくてもいいのに。ふふ、それじゃ花火があがるまで時間あるから、皆でいただきましょうね。夕弦、案内してあげて」
「うん。こっちだよ」
「お邪魔します」
「お、お邪魔します」
このままだと心の頭から煙が上がりそうな勢いだったから、私は2人を足早にリビングに案内した。
「ここがリビングだよ」
「お、おー-!! なんじゃこりゃ! すげー!」
「間取りがちょっとウチに似てる」
お母さんと離れた途端いつもの美咲に戻って我が家のリビングに感嘆の声を上げる横で、心は自分の家と似てると漏らす。
後で聞いた話では心の家は二階建ての一戸建てなんだけど、ウチと同じように二階に上がるにはリビングの奥にある螺旋階段を上らないといけないらしい。だから高低差はあるけど、リビングを通らないと自分の部屋に行けないというのは確かに似ているのかもしれない。
「とりあえず先に私の部屋に荷物置こうか」
今更だけど今日は2人とも私と同じで浴衣姿である。そんな浴衣姿の2人が今日のお泊りセットが入った鞄やリュックを持っているというのは、何というかシュール感が半端なかった。まぁ、私が浴衣着て泊まりにおいでって誘ったせいなんだけどさ。
「おー! 部屋も広いじゃん!」
美咲が先陣切って荷物を床に置いて、すぐさまベッドにダイブ。
うん。それは別にいいんだけどさ……。美咲浴衣着てるの忘れてない?
因みに私の部屋は10帖の洋室だ。2人で一緒に寝るお母達の部屋も10帖なのは分かるんだけど、私の部屋まで同じ広さってどうなんだと引っ越してすぐに思った事。
だけど雅君が女の子は色々と置きたくなったりするだろうからと言ってくれて、この部屋が私の部屋になった。
雅君の部屋は隣の8畳間になってるんだけど、あの時は友達が2人も同時に泊まりに来るなんて全く想定してなかったから、今は雅君の言葉に甘えてよかったと思ってる。
「榎本さん。浴衣が皴になっちゃうよ」
「あ! そうだった!」
逆に心は妙に冷静で、子供みたいにはしゃいでる美咲に突っ込んでる姿はついさっきまでとは別人レベルだ。
「とにかくここまで暑かったでしょ? リビングで冷たいもの飲んで休憩しよ」
このまま部屋で休んでてもいいんだけど、3人とも浴衣を着てて動き辛いから、ゆったり出来るリビングに向かう事にした。
「うおおー! 家の壁から下界が一望できるー!」
もうすでに他所行きモードを解除した美咲はガラスで出来たリビングの壁に張り付いて、この家自慢の景色を堪能してる。
「ふふ、気に入ってくれたみたいで嬉しいわ」
そこにお茶をリビングのソファー前にあるテーブルに置いて、はしゃいでいる美咲に嬉しそうな顔を向けてるお母さん。
「ありがとう、お母さん」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございまーす! ここ凄い所ばっかりで驚きまくってます!」
とりあえず家の探検を中断させた美咲がソファーに座ったところで、皆でのどを潤した。
「お、来たんだね。いらっしゃい、夕弦の父です」
そこにテラスで準備していた太一さんが戻ってきて、リビングにいる美咲と心に声をかけてきた。
「あ、お邪魔してます。榎本美咲です」
「は、はじめまして、西宮心です。今日はお世話になります」
「いつも夕弦がお世話になってありがとう。今日は楽しんでいってね」
言って、ずっとテラスで準備してて汗をかいたからシャワーを浴びるとお母さんに告げて、太一さんは挨拶もそこそこにリビングを出て行った。
「主人も言ってたけど、2人とも夕弦と仲良くしてくれてありがとう」
「ちょ、お母さん!」
確かに前から私の友達がどんな子なのか興味津々みたいだったし、昔が昔だったから初見で顔を合わせたらお礼いいたくなる気持ちも分かるんだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい!
「そんなお礼なんて! 私が夕弦の事が好きで付き合ってるだけですから」
ほらー、急に変な事言うから美咲も困ってるじゃん。
「アーシみたいな奴に夕弦が仲良くしてくれて、今日だって呼んでくれたんですから、お礼を言うのはアーシの方です」
「――心」
驚いたと言うか呆気に取られてしまった。
だって心がそんな事言うなんて想像もした事なかったから。どっちかと言えば強引な事ばっかりして迷惑してるんじゃないかと心配してたくらいだったのに。
「ありがとう、心さん。夕弦にこんな素敵な友達がいる事が知れてとても嬉しいわ」
照れ臭さ100%の状況だけど、何だかそれも悪くないと思えた。
本当に環境が変わればここまで変わるもんなんだな。
お母さんに言われるまでもなく、美咲に心、それとここにいないけど亜美に樹。
今の学校に転校しなければ絶対に知り合えない人達。
そんな偶然を重ねて出会えた大切な友達。
これからもずっと仲良くしていきたい。お母さんの嬉しそうな顔を見て改めてそう思えたんだ。
恥ずかしくて口には出さないけど、ね。




