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Face ~どいつもこいつも顔ばっかかよ!!~  作者: 葵 しずく
3章 遅れてきた最後のヒロイン
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episode 10  こんなはずじゃ……

 花火大会当日 午後5時前。

 私は自宅の最寄り駅前にいる。もうすぐやってくる心と美咲を迎えに来たのだ。

 電車が停車する度に浴衣や甚平姿の客が次々と駅から出てくる。これから会場周辺の出店巡りか早々に場所取りをするのか、とにかく皆楽しそう。

 因みに私も浴衣姿だったりする。

 家のテラスから見るといっても雰囲気は大切だと、お母さんが着せてくれたんだ。浴衣を着るなんて小学校5年生以来だからちょっと照れ臭いんだけど、私に合わせて心と美咲も浴衣を着てくると言ってくれたから、浮いたりはしないだろう。それにしてもいつの間に浴衣なんて買ってたんだろ、お母さん。


 2人ともウチのマンションを知ってるのにわざわざ駅前で2人を待ってるのは、もし心と美咲が完全に被ってしまったら2人だけでは気まずいだろうという配慮だったりする。

 2人の友達を上手く引き合わせるという大仕事がある私にとって、特等席から見られる花火より気になって仕方がないのが本音だ。


「夕弦おまたせー!」

「あ、美咲。いらっしゃい、待ってたよ」


 改札を抜けて、履きなれない下駄の音を響かせて私の元へ駆け寄ってきたのは美咲だ。

 ちょっと危なっかしくて転んじゃわないか心配したのは内緒。


「随分早かったね。もう2本くらい後の電車だと思ってた」

「へっへー! なんたってVIP席からの花火大会見物だからねぇ。楽しみ過ぎて早く来ちゃったよ――って言いたいとこだけど、せっかくの花火大会を満喫する為に先にしなきゃいけない事があるからね」

「え? それって……」


 先に済ませる事。それは多分この後ここへ来る心との事だというのはすぐに察しがついた。


「それって心の事だよね? でも、集合時間までまだ時間あるから美咲だけ早く来ても――」

「――考える事は一緒ってわけだ」

「そうみたいだね。西宮さん」

「え? 心!?」


 まだ待ち合わせ時間まで30分もあるというのに、美咲だけじゃくていつの間にか私達の後ろに心が立っていた。

 

「んじゃ西宮さん。あっちの方でいい?」

「……うん」


 突然現れた心に驚いた様子も見せずに美咲は人混みから少し離れた場所を指さして、移動しようと促してくる。

 ここだと雑音が煩いからなのだろうと美咲の後に続く心に着いていこうとしたんだけど、美咲が私の足元を指さして足を止めた。


「夕弦、アンタはここで待ってて」

「え? なんで?」


 美咲の言ってる事が分からない。

 今日はこの機を利用して2人の橋渡しをするつもりだったんだから、寧ろ私が仕切らないといけないはずなのに。


「ん、この子の言う通り夕弦はここで待ってるし」

「心まで!?」


 ちょっと待ってよ。そんな事して2人が喧嘩なんて始めちゃったら、花火大会どころじゃなくなるんだよ!? ってもう2人とも向こうに行っちゃってるし!?

 私なりに色々考えて対策を練ってきたのに、これは全くの想定外だよー!


☆★


「あはは、夕弦の奴泣きそうな顔でオロオロしてるよ」

「あの子も色々考えてくれてただろうから、面食らってんだろうね」

「だねぇ――さて、同学年でもう2年生なのにおかしな話だけど、改めて自己紹介しようか。はじめまして、榎本美咲だよ」

「アーシも一応――西宮心。よろしく」

「まあ、私の事は知らなかっただろうけど、西宮さんは有名人だもんね」

「悪い意味でっしょ?」

「耳に入ってくる噂は、ね」


 やっぱり花火大会の日に夕弦の家にお邪魔すると電話した時から、夕弦が連れてくる友達との事を考えていた。

 2人で会っている時に何度か話していた女子の誰かなのは分かっていたけど、正直名前を聞いても知らない女子だった。

 それはそうか。あの事があってから周囲にアーシの事が話題に上がらないように立ち回ってきたんだから、当然アーシも誰も見てこなかったわけだしね。


 まずは2人で話をする事。

 色々考えてみたけど、やっぱりここから始めないと何もできない。できれば夕弦も外して2人でって考えてたら、まさか榎本さんからこの状況を作ってくるとは思わなかった。

 アーシの噂をどこまで知ってるのか知らないけど、今日アーシも来るのを嫌がってると思ってたから想定外だ。


「アーシも来るって夕弦から聞いてよく来たね」

「自分で言っちゃうんだね。まぁ、最初聞かされた時は正直「え?」って戸惑ったけど、ね」

「じゃあ、どうして?」

「ウチの夕弦がめっちゃ懐いてる西宮さんに興味があったから……かな」

「……は? それってどういう意味?」

「そのままの意味だよ。ぶっちゃけると夕弦と最初には仲良くなったのは私なのに、いつの間にか夕弦にとっておっきな存在になってるんだもん。正直おもしろくなかったわけよ」

「……だったら尚更」


 榎本さんの言い分に優越感を感じて小躍りしたい気持ちだったけど、今は我慢して話の続きだ。


「だから、だよ。あの子って一見ポーっとしてそうだけど、ホントは凄く人を見る子なんだよね。そんな子があれだけ懐くんだもん、興味が湧いたって不思議じゃないでしょ」


 そうかなぁ……。アーシだったら仲のいい友達がいつの間にか全然接点のなかった子の方にいかれたら、単純に面白くないだけだと思うんだけど。そう考えると、この榎本さんってちょっと変わった子なのかもしれない。アーシが言うなって話だけど、さ。


「噂の事なんだけど、なんで否定しなかったの?」

「なんでって……どうせ否定しても誰も信じてくれないと思ったから。実際榎本さんも信じてたんじゃないん?」

「うん。ハッキリ言って信じてた。情けない話だけどね」


 榎本さんはそう言うけど、アーシはそうは思わない。

 だって、それだけの発言力と影響力がある人間が広めた噂だから。寧ろ、信じない方がおかしいと言っても言い過ぎじゃない。


「だから今日の事を夕弦から聞いた時は正直「は?」ってなった」

「じゃあ何で今日来たん? アーシが来るなら断る事だって出来たと思うんだけど」

「ぶっちゃけ、言ったよ。西宮が来るなら行かないってね」


 やっぱり言ったんだ。

 まぁ、そうだよね。それがあの学年の普通だもんね……。


「じゃあ、なんでって話に戻るんだけどさ」

「うん」

「その時夕弦に言われたんだよね。美咲はまだ時間を無駄にするの? って」

「……それってどういう意味?」

「噂に振り回されて本当の事を知らないまま、まだ貴重な時間を捨てるつもりなのかってさ」


 らしいといえばらしい、か。

 ホントの素のアーシを初見で引き出してみせた夕弦は、ホントに人を見る目が肥えてると思う。

 それは決して良い環境で手に入れたスキルじゃない事は聞かなくても何となく分かってたんだけど、あの子はそのスキルを保守的に使うつもりはないらしい。


「なるほど、ね。それじゃ今日来たのって――」

「――そう。夕弦の言う事が本当に正しいのか見極めに来た。ちゃんと自分の目でね」

「そっか。正直アーシは夕弦が分かってくれてれば他はどうでもいいって思ってたけど、気を使ってばっかのあの子がリスクを承知でこの状況を作ったのならアーシからは何も言う事ないし」

「うん。というわけで、明日解散するまでよろしく」

「よろしく」


 なんか思ったのと全然違う展開になったけど、これはこれでいいかもしれない。

 夕弦の気持ちをお節介って言葉で片付けるのは違うと思うから、アーシだって頑張らないと夕弦の友達をする資格なんてないし!


★☆


 2人ともどんな話してるんだろう。

 まさか主催者がハブられるとは思わなかった。美咲は多分私の気持ちを汲み取ろうとしたんだろうけど、これじゃ私の気合いはどこに向ければいいの? 

 それに心だっていきなり面識のない美咲とサシなんて困惑してるんじゃないの!?


「あー、こんなはずじゃなかったのにー!」

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