episode 27 役者の本音
「はぁ……そんな話をしてるわけじゃない。話を戻す」
おっと、そうだった。
今は映研サークルに有紀が加わるかどうかの話し合いの場だったな。金と訊くと我を忘れる癖、どうにかしないとイカンなー。
「お高くとまってんじゃねえ! 人気WeTuberだからってなんだっつんだよ。所詮俺達と同じアマチュアじゃねえか!」
さて、これから話し合いの落とし所を探って纏めようとしていた矢先、俺達3人の中に割って入ってきた奴がいた。
「やめろ、遠藤。お前飲み過ぎだぞ」
「ああ!? 別に大して酔ってねえよ! それに間違った事言ってねえだろ。映画やドラマ、舞台の収入で飯食ってるわけじゃないんだからよ!」
どうやら割って入ってきたのは遠藤という奴らしい。
確かにこいつが言う様に動画配信者がプロという括りはない。実際収入を得る得られない関係なく誰でも配信出来るのがネット配信者では、事務所契約をして芸能活動をしているわけじゃなければプロとは言えないかもしれない。
「ウチは別に自分がプロだから参加しないなんて言ってない。ただ目標としている先が違うと言ってるだけ」
「それがお高くとまってるってんだよ! お前の言ってる事は学生のままごとに付き合ってられないって事だろうが!」
「違うの?」
「は?」
「だからままごとじゃないって言うの? こんな物を作品とか言える連中のする事が?」
言って鞄から取り出した数枚の記録メディアを遠藤の前に置く。どうやらDVDのようだが、あれは……。
「その言いようだと観てくれたんだね」
「えぇ、とても不快だった」
「はは、ハッキリ言うね」
口ぶりから察するにアレは梨田さんが有紀に渡した物らしいが、中身はいったいなんなんだ?
「あの、梨田さん。これは?」
「あぁ、これは去年から撮ったコンクール用の作品と学際用に撮った作品だよ」
なるほど。事前に自分のサークルの作品を観さようと、有紀にDVDを渡してたのか。
それを観た有紀が不快だったと言う程の代物だった、と。
「本当は断る為に来ただけだったから言うつもりなかったんだけど、1つ訊いていい?」
「うん。なにかな?」
「このサークルは配役を決める時はオーディション制をとってると聞いたけど、本当に主役を任せられるのが遠藤しかいなかったの?」
「なっ!?」
おいおい、有紀さんよ。例え言ってる事が正解だったとしても、わざわざ火に油を注ぐような言い方せんでも……。遠藤顔真っ赤じゃん。
「おいテメー! 黙って聞いてれば調子に乗りやがって!」
「よせ! 遠藤!」
いやいや! ぜんっぜん黙ってなかったですよね!?
絶対止めに入った梨田さんも同じ事考えてるに違いない。
「ねぇ、雅」
「あんだよ」
「こういう時って、割って入ってウチを守ろうとするものだと思うんだけど」
「は? お前に限って言えば、そんな事する必要ないだろ」
「こんなか弱い女の子になんて事いうのよ」
「無表情でか弱いとか言われてもな。そういえば今も安全靴履いてんのか?」
「馬鹿言わないで。そんなの中学で卒業した」
ホントかよ。あれでどんだけ男の顎潰してきた事か。
「おい! こんな時に何イチャついてんだよ!」
「だから落ち着けって、遠藤!」
おっと、そうでしたね。あとイチャついてねえわ。
「まぁ、訊かなくても理由は大体予想は付く」
「…………」
恐らく有紀の言う予想は当たっているんだろう。その証拠に梨田さんが何も反論しないんだから。
実際に作品を観たわけじゃないから遠藤がどんな演技をしていたのか知らないけれど、有紀のいうような演技レベルだったとすれば、それでも主役に起用した理由ってもしかして……。
「もしかして金ですか?」
そう、これだ。
確か【もぐり】は大学非公認のサークルだったはずだから、活動費が大学から出てるわけじゃなくて、サークルメンバーから均等に徴収して活動しているはずだ。
実際映画を撮るのってどれくらい金が掛かるのか知らないけれど、決して安い金額ではないのは分かる。
それを踏まえて考えると、演技レベルが主役を張るに相応しくないものだとすれば、活動資金を遠藤が出資していると考えるのが自然だと思った。
「雅にしては鋭い」
俺にしてはは余計だ!
俺の質問に何も答えない梨田さんを見るに、俺の予想はどうやら図星を突いたらしい。
「だったらなんだよ! 非公認のサークルが映画撮るのなんて自己負担が大きいんだから、寧ろ感謝して欲しいくらいだぞ!」
感謝、ねぇ。
見返りを求める時点で、感謝される資格を放棄したのと同義だと思うんだけどなぁ。
「だそうだけど、アンタの意見は?」
アンタて。仮にもここの会長でパイセンなんだからもうちょっと口の利き方をだなぁ、って有紀は昔からこうだったか。
「葛西さんと月城君の予想通りだよ。会社を経営している遠藤の親父さんがウチのOBでね。活動資金の援助を受けてるんだ」
あ、アンタ呼びは気にしない方向なんですね。心が広いと言うか腰が低すぎると言うか、なんというか。
「援助する代わりにバカ息子を率先して主役に起用するって条件でって事ね」
「誰がバカ息子だ、コラァ!!」
煩いですよ、バカ息子。話が進まないから黙っててくれませんかね。
「まぁ、そういう事だ。だからオーディションは主役以外を決める時に行ってるんだ」
なるほど、ね。
別に融資を受けるのは構わないとは思う。実際お金も相当かかるみたいだしな。
ただし、それはサークルメンバー全員が納得していればの話だ。やっぱりこれだけの人数で作品を作るわけだから、モチベーション的なものが個人で何かするよりも遥かに高いレベルで維持されていないと、駄目だと思うんだよな。
「それは他のメンバーの方の創意なんでしょか?」
「……え?」
「確かに活動資金を支払う必要はないのかもしれないけど、映画を撮影するのってそれだけじゃないですよね」
そうだ。映画という作品を作る場合確かに資金も大事だけど、企画を立ち上げて脚本を作り配役を決める。撮影場所を抑えたり、稽古だって必要だ。
つまり製作費の他に、大量の時間が必要なんだ。
大学生という社会に出ればもう2度と手にする事が出来ない圧倒的な自由の時間。そんな貴重で尊いものを注ぎ込むのはサークルメンバー全員なんだ。
だから当然全員がその事に納得して同じ方向を見て取り組まないと、絶対に良いものなんて作れないんじゃないかと思う。
まぁ、セミボッチの俺がチームを語るなって話なんだけど。
「俺の方が上手く演れるのにって奴いるんじゃないですか? 役者志望の奴なら当然主役を張りたい思うんじゃないですかね。俺は最初からモブでいいですなんて奴いたら、そいつは役者辞めた方がいいですよ」
「……いや、それは話し合って」
「話し合う? 幹部だけで取り込めた事を事後報告したの間違いじゃないですか?」
「ち、ちがっ!」
「本当に?」
サークル活動なんて義務でもなんでもない活動に時間を費やすんだ。このサークルでいえば映画を撮る事。制作に関わったり役者達は役を演じたくて入会したはずだ。
そんな連中に活動資金を使わせてもらう代わりに、主役は無条件で遠藤だからと言われて、はい、そうですかって聞き入れられるもんなのか?
もし俺なら絶対に納得なんてしない。
「あ、あの!」
本当に?と問いかけた答えは梨田さんは黙ってしまって返ってこない。その代わりというわけではないけど、聞き慣れた――だけど緊張の色が混じる声と共に瑛太が席から立ちあがった。
「お、俺は一回の時から遠藤さんより絶対に上手く演れるって思ってました!」
「大山ー、テメー!」
瑛太が遠藤に向かって啖呵を切って、遠藤が顔を真っ赤にして吠える。もう負けパターンに突入してますよ、遠藤さん?
「じ、自分もずっと思ってました! 自分の方が遠藤さんより絶対にいい芝居できるのにって!」
「お、俺もっス! ていうか、皆【IMAGE】の選考滑った奴ばっかですけど、最初から【もぐり】に入った遠藤さんにだけは誰も負けないっスよ!」
おぉ、最後のは完全にトドメだな。
遠藤の奴、口パクパクしているだけで言葉が出てないぞ。
つーか、やっぱり皆不満だったんじゃねえか。
そりゃそうだよな。演技や芝居、演出や脚本、カメラに監督、映画を撮るのが好きでここにいるんだから。
「遠藤さん」
「! あ、あぁ!?」
「という事みたいですけど、どうします?」
「……ど、どうするってどういう意味だ!?」
「どうって、こんな空気の中まだ金の力で理不尽に主役を演るんですか?」
「…………」
「もしそれでも続けるんなら、遠藤さんって心臓って毛が生えてるってレベルじゃないですよ。全然羨ましくないですけど」
周りは完全に遠藤を敵視している。以前から陰口を叩いてはいたんだろうけど、瑛太が先陣を切ったのをきっかけに一気に不満が表に溢れ返ったって感じか。
梨田さんもその事は把握していたはずなのに、遠藤の言いなりになっていたのは活動資金とは別に何か理由でもあるのかな。
「チッ、やってられっかよ! こんな二番煎じサークルがマジになってんじゃねえ!」
「……遠藤」
「これからは全部自腹の活動だ。大した役者もいない貧乏サークルがどれだけ足掻いても、たかが知れてるってな」
「あぁ、皆覚悟してる」
まぁ、こうなるわな。
というか、有紀はわざと遠藤を煽ってるような気がしたんだけど、気のせいか?
遠藤は自分の会費をテーブルに叩きつけて、メンバーに何も言う事なく座敷から出ていく間際に有紀を睨みつけていた。
有紀はその視線を相変わらずの無表情で受けているだけで、何も言う事はない。
これで一応落とし所を見つけられたし、荒れた空気も和らいでくるかな。まったく、柄にもない事しちゃったわ。
「あの! ちょっといいですか?」
これにて一件落着と思ってた所にメンバーの一人が挙手して、席を立った――なんだよ、まだ何かあんのかよ。
「オーディションの審査は梨田さんがやるんですか?」
「ん? まぁ、俺は監督だからそうなるな。ていうか、前からそうだっただろ?」
「そうですけど、今回は役者担当はガチでオーディションに望もうとしてるんです」
「うん、それが?」
「だから梨田さん以外にも審査員を増やして、色々な見方から配役を決めて欲しいんです」
これはかなり梨田さんの演技を見る目を疑われてるな。まぁ今までは無条件で遠藤を主役にあててきたわけだから、梨田さんを不安視する気持ちも分からなくはない。
それだけ、皆本気という事なんだろうしな。
「そうは言っても他に誰がやるんだ? 富山あたりか?」
「俺!? いや、俺はカメラ馬鹿なだけで正直演技の良し悪しなんて自信ないぞ!?」
映研サークルの副会長がそんなんでいいんですかね。
「なら、ここにいる有紀……葛西さんに審査してもらえばいいんじゃないですか?」
「……ちょっと、雅」
「別にこれくらいいいじゃん。出演の依頼を断るのはお前の自由だけど、せっかく熱心に誘ってくれたんだから、断るにしても審査員くらいしてやってもバチは当たらんだろ」
役者の配役を決めるオーディションなんだから、この場で一番適してるのは有紀しかいない。役者に人一倍情熱を傾けてる奴なんだから。
「おお! あの有名配信者の葛西さんに見て貰えるなんて最高じゃん! なぁ、みんな!」
「「「おおおおおぉぉぉぉ!!!」」」
有名配信者の名前を聞いて、皆さんやる気満々ですね。あ、有紀さん……そんな暗殺者みたいな空気で俺を見ないで。何で無表情なのに殺気を感じるとかこれ如何に。
「いいよ、分かった」
うん、うん。これくらいは協力してやろうね。お互い仲間とか協力とかウェイウェイとかとは無縁の人生歩んできたとはいえ、さ。
「その代わり2つ条件がある」
条件か。まぁ、多少の我儘は許される場面だよな。
「一つはオーディションの開催日時は完全にウチの都合に合わせてもらう」
ふむ、これは当然の主張だろう。
有紀はこう見えて、多忙そうだからな。こう見えて……。
「それは当然だよ。こっちがお願いしてる側なわけだしね」
うむ、梨田さんも同じ考えか。まぁ当然だけどな。
「2つ目」
有紀は何故かそこで言葉を切って、俺の方をジッと見る。
(……なんだ?)
「そのオーディションを雅も受ける事」
………………は?




