episode・13 瑛太のスカウト
「やっと捕まえたぞ!」
俺は大学近くのカフェにいる。
瑛太がしつこく時間をくれと頼まれていたからだ。
選考している学部が違うから、示し合わせないと中々大学では時間が合わないからと、強引にここに呼び出されたというわけだ。
前にも触れたけど、瑛太がこういう時って大半が禄でもない事を言いだす事は分かったいた俺は、正直避けていたんだけどな。
「どんだけ必死なんだよ、お前は」
「必死にもなるわ! お前絶対に俺から逃げてただろ!」
「ソンナコト、ナイヨ」
「棒読みじゃねえか!」
全く煩い奴だ。その元気を勉強に向ければいいのにと思う。
逃げていた事は事実だけど、やっぱりこいつを完全に無視する事が出来ない自分に、ため息が漏れる。
「で? 話ってなんなんだよ」
「何事もなかったように、本題にはいるんじゃねぇ! って言いたいとこだけど、まぁいいだろう」
大概は対応をしているというのに、こうやってサラッと受け流せるこいつの人間性は嫌いじゃない。
というか、こういう奴じゃないと、俺みたいなひねくれ者がこれまで友達付き合いしてるわけがないのだが。
「まずはお前に確認したい事があるんだけどさ」
瑛太はそう言って自分のスマホを立ち上げて、俺に見せてきた。
「!!」
俺はその画面を見てギョッとした。
「やっぱりお前だったか」
「何の事だ? その画面がどうかしたのか?」
自己評価だけど、殆ど表情には出てなかったはずだ。
「雅とはそれなりに長い付き合いだし、元々表情をあんまり崩さない奴だけど、逆にその変化の無さが命取りになる事もあるんだぜ?」
何だこいつ。探偵ドラマでも見て影響されたんか?
「面白いように口元がピクっと引きつったの、自分では分からなかったのかぁ?」
くそっ!分かってた。一瞬だけ反応してしまった。
てか、俺の顔見過ぎだろ!俺の事好きなんか!?って思うレベルだぞ!
「何を言ってるのか知らんけど、その画面とお前の頼みって関係あるのか?」
少しでも話を逸らそうとしたんだけど、瑛太は俺の質問には答えずにチッチッチッ!と人差し指を口元で左右に振る。
ってなにこの仕草!?それ昭和全開じゃねえか!お前いくつだよ!?
そもそもだ。
俺が何でこんなに焦っているかと言うとだ。
瑛太が見せてきたスマホの画面には、俺のささやかな趣味でやっている小説投稿型のサイトが映し出されていて、しかも俺のマイページが表示されていたからだ。
確かにペンネームは俺の名前をアルファベットにしただけの〝MIYABI〟だけど、公開してるのはそれだけで、住んでる都道府県や年齢、それに性別まで非公開にしてあったはずなんだから、偶々瑛太がこのページに辿り着いたとしても気付かれる可能性なんてなかったはずだ。
なのに……どうして――。
「――あっ!」
もしかして……。
「気付いたみたいだな」
「……お前、まさか……」
「そうだ。今、新連載してる作品って所々モジってあるけど、これって雅の身の回りの出来事、つまりドキュメントタッチの作品だよな!?」
そうか、そういう事か。
瑛太には親父が再婚してからの事を簡易的に話した事がある。
それに家庭教師のバイトの事なんて、瑛太絡みなんだしコンパの事なんて瑛太は全部知ってるんだ。
俺のペンネームと今の作品を読んだら、作者が俺だって気付かれる可能性は十分にある……か。
それにしたって、俺の知り合いなんて両手の指が余る程しかいないのに、その内の一人が俺のページに辿り着ける可能性なんて極小のはずなのに、こんな事ってあるのか!?
「な、なるほどな。で? お前は俺がこんな事をしているのを揶揄う為にわざわざ呼び出した……と?」
気付かれた事は納得した。
だけど、それは細々と楽しんでいる趣味の事で、笑われる事じゃない。
なのに、こいつはわざわざ揶揄う為に俺をここに呼んだのなら、俺はこいつを軽蔑する。
「俺が話したい事は二つある」
瑛太はそう言って指を二本立てた。
「1つは、この前完結した作品を読ませて貰ったんだけど、滅茶苦茶面白かったぞ! 毎日寝不足全開で読みふけったからな!」
あれ?馬鹿にするんじゃなかったのか?
「前は外部から読んでたんだけど、今はちゃんとアカウント作ってお前自身をフォローしてるし、今の作品もブクマつけてんだぜ! だから前の作品もフォロワーが多いのも、評価ポイントも凄い事だって知ってんだぜ!」
「お、おう。なんての……まぁ……ありがとな」
今まで読んでくれた人から面白いってコメントを貰った事はあるし、コメントを貰える度に両手上げて喜んでいた。
でも知り合いが読んでいて、それを目の前でそう言われると、嬉しいと思う前に何だか恥ずかしい気持ちになった。
「それでだ。雅の作品を読んで頼みたい事が出来たんだけどさ」
「あ、あぁ」
「今年のK大際用で映研サークルで撮る事になってる、作品の脚本を書いてくれないか!?」
「――は?」
何言ってんだ?こいつ。
そういえば、瑛太って映研サークルに所属してたんだっけ。
K大に進学したがってたのも、K大の映研はコンクールで何度も表彰されている有名サークルで、実際劇団の人間が在籍したりしていた事もあったそうだ。昔から役者志望だった瑛太はそのサークルに入りたくて、難関大学であるK大に入る権利を手に入れたんだったな。
だからと言って、その事と俺が脚本を書く事が結びつかない。
大体、そんな有名なサークルなら脚本担当も大勢いるはずなのだ。
「いや、まて。何でそんな話を俺にするんだ?」
「去年まで脚本を書いていた先輩が卒業して、今年は同期の奴が書く事になってたんだけど、そいつが急に留学する事になってさ。んで、他に同期で脚本担当っていなくて一回生の後輩にって話になったんだけど、この本が面白くなくてさ!」
何でも一回生には脚本家志望が3人いるらしいんだが、3人がそれぞれ書いた脚本が監督と演出担当に却下されたらしい。
そこで誰か書ける奴はいないかと、皆で頭を悩ませいたところで、瑛太が俺の名前を出したそうだ。
何故、瑛太は事あるごとに俺を巻き込もうとするのか、全く理解出来ない。
確かに小説を書くのは好きだけど、脚本を書くのとは全然違うわけで、ど素人の俺が出張る場面じゃないはずなのに。
「いや、瑛太が俺の作品を面白いって言ってくれるのは嬉しいんだけど、小説が書けるから脚本も書けるって事にはならんだろ」
「いや、なるね! 雅ならこれまでの脚本を読んだら、直ぐにでも頭に浮かんだ物語を脚本に落とし込めるはずだ! それに脚本を書いた経験はお前にとって無駄にはならないだろ?」
確かにそうかもしれないとは思う。
脚本を書いた事で、今後の作品に対する引き出しみたいな物が増えるのは、俺にとってプラスになるだろう。
……だけど。
「悪いけど、瑛太も知ってるように、今の俺は金を稼ぐ事が最優先だから……」
「それは分かってるんだけど、俺さ。一回生の時は殆ど裏方で出れたのはエキストラ役だけだったんだよ。有名サークルだから当然俺より演技が上手い先輩達がメインキャストでさ……。それが悔しくてメッチャ稽古頑張ってたら、脚本の内容にもよるけどオーディションに出てみろって部長に言われてさ!」
女のケツ追いかける事だけ頑張っているわけじゃなかったんだなって言いかけたけど、何とか飲み込んだ。
「瑛太がそんなに頑張ってるのは素直に凄いとは思うけど、そんなお前の期待に応えられねぇよ」
「そんな事ねぇ! あの作品読んだから分かる! 雅なら絶対にいい脚本書けるって!」
何時にも増して押しが強いのが、何か引っかかるんだよなぁ。
「なぁ」
「なんだ?」
「メインキャストに拘る理由って、芝居が好きってだけか?」
「……えっ?」
ふむ。やっぱり何かあるようだな。
で! 瑛太の性格を考えると……だ。
「……女か?」
言うと、瑛太の目が世界水泳の如く、激しく泳ぎまくる。
これで芝居好きとか言うのだから、困った奴だ。
「えっと……だな」
「正直に話した方がいいぞ」
「メインキャストで芝居がしたいってのは本当だ!……だけど、それだけじゃなくて……」
「なくて?」
「一回生の新人に気になる子がいてな……。その子は部長が熱心にスカウトしてきた子で、今回のオーディションに参加するらしくて、ヒロイン役に抜擢される可能性があるらしいんだ」
なるほど。
つまり、その子と同じ役者としてお近づきになりたいと……何が芝居を頑張ってるだ!煩悩だらけじゃねぇか!




